見出し画像

インボイス問題を通して情報リテラシーについて考えた話 - Day3

社会をエンジニア視点で紐解いてみるシリーズ。
情報リテラシーの観点で、むちゃくちゃ興味深い事例として、
インボイス制度の問題を、
私自身の体験や考えの変遷を、時間を追う形で書いていきながら整理していきます。

<お断り書き>
もしかしたら、読む方の立ち位置によっては、途中々々で不快な気持ちを与えてしまう部分もあるかもしれません。ただ、この問題の原因には、コミュニケーションの問題が大きく関わっていると思っています。
それを紐解いていくためにも、私自身が「その時どう感じたか、どう見えていたか」という主観の部分をあけすけに書くのがいいだろう、と思いまして、このお断り書きを書いた上で、以降、書き進めさせていただきます。

<全話リスト>
Day1 そもそものきっかけ
Day2 STOPインボイスに連絡を試みる
Day3 STOPインボイスの人たちに会いに行く
Day4 知人たちと勉強会を開く
Day5 税理士さんとお話しする
Day6 SNSで見知らぬ人々の誤解を解くことを試みる

STOPインボイスの活動をしている人たちに会いに行く

というわけで、9月下旬の週末、
STOPインボイスの活動をしている方が催すお話し会へ。
(※以下、個人や会社を特定する可能性のある情報は伏せて記載しています)

最初に参加者たちで簡単な自己紹介をしあった。
参加者の面々は、
STOPインボイスの活動に深く関わっている人から、
インボイス制度導入について懸念を感じて参加した人まで様々だった。

自己紹介していく中で、ひとりが、
「ついに自分もこの間バズって、変なコメントが来るようになりました」
と言って、バズッたというTwitterの投稿を見せてくれた。

見せてもらったその内容自体は、確かに「へーーっ」と思うものだったのだけど、インボイス制度にまつわる、とあるエピソードをフラットに書いただけのもので、誰かの感情を刺激するようなものには全く思えなかった。
「賛成派とも反対派とも言えない、ただの事実を書いただけのこの投稿に、変なコメントがつくんですか?」
私が首を傾げながら尋ねると、他の参加者も含めて数人がうなずく。
なんでも、フォロワー数が1万人を超えると、投稿の内容いかんによらず、難癖付けて絡んでくる人が現れるのがTwitterあるあるらしい。

「もう自分はTwitterの通知切りました。知らない人からのダイレクトメールは開かないようにしてます」
と、投稿を見せてくれた参加者が言い、
「私も、もう怖くて通知切ってます」
と別の参加者も言った。

フォロワー数2桁の私のアカウントは、何をつぶやこうが至極平和だ。
目の前にいるほとんどの参加者たちも、少し前まではそうだったのだろう。
だけど、こういう活動に参加すると何かの拍子にバズって、平和が崩れるものなのだな。
私がSTOPインボイスに送ったダイレクトメールも、きっとこういう流れによって開かれないままになってしまったんだろうなぁ…。
彼らの話を聞きながら、そんなことを心の中で思った。

ひととおりの自己紹介を終えて、参加者それぞれの目線でのインボイスに関する話が始まった。

STOPインボイスの活動に携わっている人は、インボイス制度導入中止を求めて、色々な議員の元を訪れていた。
○○党はこういう雰囲気、△△党は人によってバラバラで党としての統一が取れていない、etc..
そんな風に、各党の雰囲気を自分自身の経験から語れるくらいに、彼らはこの件で色々な議員たちの元へ足を運んでいた。

日々の仕事のかたわらに、そんな地道な活動も粘り強くやっていたのか…と私は驚く。
彼らが議員たちに訴えにいっている内容は彼ら個人の窮状ではなく、自身や知人たちの属する業界全体の行く末を案じたものだった。そういったことのために、彼らは自分たちの時間を割いて、地道な活動を粘り強くやってきていたのだ。

「自分たちは、ただ問題を解決するために行動しているだけなのに、どうして日本ではこういう政治的な活動をしている人間を攻撃してくる人がいるのだろう?」
先ほど、Twitterのバズる件について話していた時に、一人がため息をつきながら言ったセリフを思い出す。
それは多くの人間が、彼らがこんな地道な活動をしていることを知らないからだろう。
前回書いたように、何も知らない人間が外から見るSTOPインボイスの活動は、ただ票を増やそうと躍起になって、自分たちの主張を声高に述べているだけのようにも見えたりする。
政治的な活動なんて、私も含めてほとんどの人間がしたことがないから、中身の想像がつかないのだ。

外から見る彼らの活動は、彼らと主張を異にする人間の言葉に耳を塞いでいるように見えた。だけど、彼らの側からすれば、自分たちの時間を割いて地道な取り組みを行っているところに、この問題のことを何もわからず、何もしていない人間が、行動している彼らに対して安全な場所から、心無い言葉を投げかけてきているのだ。彼らは、その心無い言葉から耳を塞いでいるだけなのだ。

STOPインボイスの活動が始まる以前から、
職業柄、コロナ関連の補助金まわりで官公庁に掛け合ってきた方もいた。
現場を知らない人達がルールを決めるがゆえに、
補助金が本当に必要な人たちの元に届かず、それを訴えに行っても全く話が噛み合わずに徒労に終わるのだという。

「現場に近い担当の人はわかってくれるんです。でも、その横にいる決裁権を持っている人に話が通じなくて、結局通らない。どれだけ現場に近い人達がわかってくれても、結局そういう人たちに伝わらなければ意味がないんだなと…」
悔しそうに言って、続けた。
「インボイスを導入するというのは、仕方ないのかもしれない。だけど、なぜ今なのか。コロナで大打撃を受けて、まだその影響が続いている中で、どうしてそのコロナの影響を受けている最中の業界に、さらに追い打ちをかけるようなことをするのか」

彼らの主張は筋道だっていて、至極真っ当なものに思えた。

消費税のしくみやインボイス制度についての理解度は、
それなりに理解している人と、理解していない人とが半々の印象だったが、
「免税事業者に不利な値下げを要求しないこと」と公取委がお触れを出したことはみんな知っていた。
しかし、それでもやっぱり「消費税分値下げしないと契約継続しない」という通達が取引先から当たり前に来ているという人はおり、
「公取委に訴えてみたらどうです?」と聞いてみると、
「今後の仕事を考えたら、実際にはそんなことできないですよ」と返された。

ネット上では、免税事業者に対して、
「緩和措置もあるし、簡易課税制度を利用する手だってあるだろう」
というような声もあるけれど、
それぞれの状況に照らしてみない限り、それが実際に各人に適用できるものかどうかはわからないだろうな、と話を聞いていて思った。
それこそ、「現場から遠い人が決めたルール」なのだから。

単に納税額が増える問題だけじゃなく、これまで免税事業者だった人間が課税事業者になることによって、会計処理の手間が増える問題もある。
それに対して、
「これを機にDX化すればいい。freeeなど使えばそんなに大変じゃない」
という声もあるし、実は私もZoomとか使ってそういうことの使い方を説明すれば困っている人達を助けられたりしないかな?と少し考えていたのだが、
「自分の田舎ではスマホすら持っていない高齢の免税事業者が多く、彼らにそんなことは不可能ですよ」
と参加者の声。

「インボイス制度導入によって喜んでいるのは、税理士とシステム業界くらいじゃないの?」
なんて声も聞くが、
多くの税理士はインボイス制度導入によって仕事が増え、
新たに課税事業者が増えて税理士のニーズが増えても、需要に対して供給が追い付かないだろう、という話だった。

エンジニアの私の視点からしても、インボイス制度導入でシステム業界が歓喜に沸いてるとは思えなかった。
これまで数回、顧客先で使われる会計システムの開発に携わったことがある。freeeや弥生会計などではなく、自分たちの業務に併せた会計システムを独自に内製や委託開発している会社というのも、結構あるのだ。
それらの会社では、インボイス制度導入に伴うシステム改修を行っているだろうが、予算の都合もあるので、果たして全ての会社でインボイス対応に間に合っているか怪しい。
実際、参加者の知人の会社では、前回の軽減税率導入時も会計システムを暫定的にな対応で済ませていた、という話もあった。

さらに、エンジニア個人の目線でいうなれば、インボイス対応案件が増えたところで、
「その機能を開発している間の生活費が入る」
だけのことで、このDX化の現在、他にいくらでもシステム開発のニーズなんてあるんだから、
「インボイス制度導入で、わが社の利益上がるぜ!」
なんて、ウハウハしているシステム会社があるようには思えない。
どちらかというと、納期に追われて今頃、大変なことになっているんじゃないかな、と思う。

そうして、各社の準備が整わないガタガタな状態でインボイス制度が始まり、消費税の申告漏れが多く発生すると、今度は税務署の職員たちが、インボイス制度導入によるQA対応や申告漏れチェックに追われて大変なことになる。
ただでさえ、毎年2月3月には税務署が大変なことになっているのに、
今度の3月には、税務署の現場が潰れてるんじゃなかろうかと。
税務署の職員たち、大変だろうなぁ…と、参加者たちからは同情の溜息が漏れる。

STOPインボイスの活動をされてきた方たちは、
こういう活動を続けてきただけあって、
本当に深くこの問題について考えていた。
ネットの情報だけ見て、「情弱な免税事業者が悲鳴を上げている」と論評している人間なんかより遥かにたくさんの情報を持ち、官公庁の実情も踏まえた目線でこの問題を見ていた。

免税事業者と仕入れ事業者の信頼関係をとても大切にやってきた業界では、
『仕入れ税額控除ができなくなる分の負担をどちらがもつか』の押し付け合いによって、 これまでの信頼関係にひびが入りかねないことを懸念されている方もいた。
農業、建設、運輸などの社会のインフラに近い業界は、その代表だ。

この場所に来るまで、
「インボイス問題=お金の問題」で、お金に関する知識や交渉力などを身に付ければ、最低限、個人の身は守れるんじゃないか、なんて思っていた。
だけどこれは、単純なお金の問題ではなく、
現状の業務が回らなくなる危険性や、
人と人の関係性に亀裂をいれて、社会に断絶を生む問題もはらんでいるのだ。

この問題の本質は、
「日本社会を1つのピラミッド組織で捉えた時に、ピラミッドが下層から瓦解していく」
ということだ。

下から崩れていく

彼らの言う『弱者』というのは、
実際には社会の中で大切な役割を担っているにも関わらず、
現在の商流や商習慣によって不利な立場に置かれやすい人たちや、
上位を管理者、下位を実務者とした組織ピラミッドにおける下位の実務者たちのことだったのだ。
社会のインフラ・実務を担っている人達がいなくなってしまったら、
この社会そのものが崩れるだろう、と、
そのことへのアラートをずっとあげていたのだ。

彼らの話を聞くほどに、いったいインボイス制度を導入して誰得なんだ??という疑問が湧いてくる。
国のお偉いさんにとってすら、全くお得に思えないのだ。
「たぶん、彼らも消費税やインボイスが何なのか、わかってない気がするんですよね…」
参加者たちが言う。
実は私もここ数日、議員たちのSNSやYoutubeでの発言を見ていて、
「この人、消費税やインボイスのこと、何もわかってないんじゃないのかな…?」
と思っていた。
複数の議員たちとじかに話して感触を掴んでいる彼らも同じ感覚ならば、
ほとんどの議員や政府関係者が、消費税やインボイス制度のことを理解していない可能性は高い。

最近、与党の中でもインボイス制度に反対する人も出てきた、というネット情報があったけれど、それはようやく議員の中で『あれ?なんかインボイスって導入したら危ないのかも…?』と気づき始める人が出てきたからじゃないか、なんて話もした。

本当にこれは日本社会全体に関わる大きな問題で、
だけど、そのことに上層の人達が全然気づいていない状態なのだろう。

「増税した人間が出世して、減税した人間は出世コースから外れる」
と噂される財務省の人間を除いては、本当に誰も得しないし、望んじゃいないんだけど、
決裁権持った人間が消費税やインボイス制度とその問題を理解できていないがために、中止の判断ができない。

自分の国のことでなければ、結構ギャグ的状況だ。

会社に例えるなら、
「そんなの無茶ですよ!社員が潰れますよ!」
と社員が悲鳴を上げる施策を、何もわかっていない上司や社長が敢行しようとしている状態だ。

いくら言っても、おバカな上司に話が伝わらない時は……
と考えて、
「上の人達が本当に困るまで放っておいたらどうです? 人間、痛い思いをしなければ、学ばないものですし」
と言ってみた。
政治家層に届くまでの途中で、たぶん私の所属する層も困ることにはなるだろうけれど、日本全体に関わる問題を、ほとんどの国民がそのことに気づかないまま彼らに押し付けて、そうして彼らが頑張って解決して、自分たちは何も知らずにのほほんと暮らすというのは違うと思うのだ。
しかし、
「上の人間が理解する頃には下層の業界は壊滅していて、もう日本は手遅れですよ」
と、あっさり返された。

そうか。
会社なら「もう知るか。勝手に潰れちまえ」と辞表を叩きつけて去ることができるけれど、国相手にそれはできないんだな…。国相手にそれをするとしたら、亡命とか移住とかか…それはちょっと面倒くさい。
でもなぁ、しわ寄せを何とかカバーしてくれる社員がいるからこそ、上の人間はそれに甘えて、同じようなことを繰り返すのも事実なんだよなぁ…。

うーーん…と考えても、良いアイデアは浮かばない。
まぁ、ここでぽっと出の私が簡単に答えの浮かぶような問題ならば、誰もここまで悩んじゃいないだろう。

「どうしたら無関心な層に伝わるのだろう?」
一人が言った。
この国全体を揺るがす問題なのに、多くの国民が問題の本質に気が付かずに現在無関心だ。

私は、またまた、うーん…と考えこむ。
前回書いたとおり、無関心なサラリーマン層をこの問題に引き付けるだろう言葉は、私の頭の中にある。
だけど彼らの話を聞いて、この問題が免税事業者の問題に閉じない、もっと大きな社会全体の問題として捉えられた今、私の頭に浮かんでいた言葉たちは、何だかひどく薄っぺらいものに思えてきてしまっていた。

彼らの用いる『弱者』という言葉は、別の言い回しに変えた方がいいだろうとは、やっぱり思う。その言葉ゆえに、「弱者の問題=自分たちの問題ではない」という意識に繋がったり、私のようにその言葉に良い印象を抱かない人間もいるだろうから。

だけど、これまでに実際に省庁の人や議員たちから、誇りを持ってやっている仕事を見下されるような言葉を投げかけられてきた彼らに、
そのことをどういう風に伝えればいいか、わからなかった。

「壁なんて、ないでしょ。みんな同じ会社の社員じゃないですか」
昔、勤めていた会社が合併して、合併した組織間の壁を取り壊すための活動をしていた時に同僚にそう言われたことがある。
壁がなかったのではなく、その同僚は壁の見える場所にいなかっただけだった。
別にその同僚に対して、壁の見える場所に来い、とは思わなかったけど、存在するものを存在しないものとして扱っても問題は解決しないよね、とは思っていた。

帰りしな、今日聞いた話を個人や会社が特定できる情報は伏せるので、
知人たちにシェアしていいか、主催者の方に確認した。
私の知人のほとんどはサラリーマン層で、この問題についての関心が薄い。
そして、その層に伝わる言葉を紡げるのは自分だろう、と思ったのだ。
自分たち自身にやがて降りかかる問題について、自分たちに伝わる言葉で誰かが伝えてくれるのを待っていてはダメだ。

主催者の方から快諾をもらい、帰宅後、
この日聞いた話をnoteにまとめ上げて公開し、知人たちにシェアした。

投稿に対して知人たちからは「いいね」をもらい、たぶん、何人かは署名してくれたのではないかと思う。
ただ、私の書いた記事を参加者の方たちが読んだとしたら、
「強調してほしいの、そこじゃないんだけどなぁ…?」
と、たぶん少し首を傾げるんじゃないかな、とも思った。

立場が異なるからこそ、互いに伝わる言葉を持たない。
なんだかそんなことも、強く感じた一日だった。

次の話→Day4 知人たちと勉強会を開く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?