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インボイス問題を通して情報リテラシーについて考えた話 - Day2

社会をエンジニア視点で紐解いてみるシリーズ。
情報リテラシーの観点で、むちゃくちゃ興味深い事例として、
インボイス制度の問題を、
私自身の体験や考えの変遷を、時間を追う形で書いていきながら整理していきます。

<お断り書き>
もしかしたら、読む方の立ち位置によっては、途中々々で不快な気持ちを与えてしまう部分もあるかもしれません。ただ、この問題の原因には、コミュニケーションの問題が大きく関わっていると思っています。
それを紐解いていくためにも、私自身が「その時どう感じたか、どう見えていたか」という主観の部分をあけすけに書くのがいいだろう、と思いまして、このお断り書きを書いた上で、以降、書き進めさせていただきます。

<全話リスト>
Day1 そもそものきっかけ
Day2 STOPインボイスに連絡を試みる
Day3 STOPインボイスの人たちに会いに行く
Day4 知人たちと勉強会を開く
Day5 税理士さんとお話しする
Day6 SNSで見知らぬ人々の誤解を解くことを試みる

STOPインボイスに連絡を試みる

私は比較的早い段階でSTOPインボイスへの署名を行っていた。
インボイス制度が何なのかまだよくわからず、ただ、
「何か免税事業者にとって、色々面倒くさいことになるらしい」
くらいの情報を得ていたくらいの頃に、オンライン署名サイトからSTOPインボイスの署名運動のメールが届いたので、
「中止になってくれるなら、なってくれるといいな」
くらいの感覚で署名したのだ。

それ以降、時折、オンライン署名サービス経由でSTOPインボイスからリマインダーのようなメールが送られてきていた。
メールの内容は、
「インボイス制度は、弱者いじめの制度です」
「現在、○○票まで行きました!どうかあと1人に署名を広げてください」
毎回、大体こんな感じで、
実はこれに、私は少々辟易していた。

理由は、以下。

  • 自身のことを弱者アピールする人間が、私は嫌い。

  • やみくもに票数を増やそうとしているだけに見える。

  • 「自分たちを丁寧に扱ってください」と言いながら、相手のことをただの票数集めの道具として扱っているように感じる。

「こういうことに困っています。力を貸してください」
ならば、全然良いのだけど、
「弱者いじめです」
というのは、なんだか、
「あなた達は恵まれているのだから、私たちに手を差し伸べるべきだ」
と、人間の罪悪感を利用して、自分たちの要求を押し通そうとしているように感じるし、
最初から相手を敵と決めつけて、対話を通じて善処策を導き出すことを端から放棄しているように見えるのだ。

それに、自分を「弱者」にあてはめている時点で、
相手と自分の関係を
保護者 対 庇護者、あるいは支配者 対 被支配者とみなしている。

彼らの掲げる「十人十色を守れ」というスローガンには、共感する。
だけど、それは保護者や支配者に与えてもらって実現するものではない。
本当の民主主義というのは、
そんな支配者と被支配者の関係ではなく、
マンションの管理会社と、マンションの住人の関係だろう。

そんなわけで、
インボイス制度が中止になってくれるなら、それに越したことはないけれど、自分にとって微妙な彼らの文章を知人にシェアして署名をお願いする気持ちには、どうしてもなれず、
さらにインボイス制度導入期日が近づくにつれ、送られてくる頻度の増えるメールに、「ただ数を増やしたいぜ!」と言っているようにしか感じられず、段々嫌気も差し、「署名取り消せないかな…」と思うくらいになっていた。
(調べたら、一定日数の経過した署名を取り消すのはちょっと面倒だったので、結局取り消さなかった)

だから、自分なりにインボイス制度の問題を整理して、その原因が理解できた時、
「いやいや、君たち。なんでこんな弱者アピールのメールを毎回送ってきてたのさ」
と思った。
こんなんじゃ、同情票しか集まらないし、私のようなタイプの人間には、むしろ逆効果だ。
サラリーマン層に響く、もっといい訴え方があるだろう、と。

STOPインボイスのサイトに記載されている消費税に関する説明から推測するに、おそらく彼らは、消費税の仕組みやインボイス制度の問題をちゃんと理解できていないのだろう。

私自身もそうだったのだが、
「免税事業者なのに消費税書いていいのかな?」
と、内心思いながら、でもみんなが書いているから…と請求書に消費税を記載し続けてきた後ろめたさが、おそらく多くの免税事業者にはある。
だからこそ、彼らをフォローする税理士が
「免税事業者が消費税を得ることは過去の裁判で認められているんです」
と言ってくれたのをそのままに受け取って、
「私たちは弱者だから消費税をもらうことは認められているんです!」
と主張して、
「何を言ってやがるんだ。俺たちが支払った消費税はちゃんと納税しろ」
という反感を買って、不毛な対立が繰り広げられているのだろう。

私は、STOPインボイスのサイトを見ながら、彼らへの連絡方法を探した。
すると、問い合わせフォームがあったので、
そこから私は彼らに以下のような内容の文章を送った。

  • 「私たち、大変なんです」「弱者いじめの制度です」だけでは、多くの国民を味方につけること、国を動かすことは厳しい

  • 人を動かすには、人間の以下の性質を抑える必要がある

    • a) 少なくとも自分は損したくない(さらに言うなら、未来の損得よりも、今の損得)

    • b) 自分は"賢い人間"、"わかっている人間"だと思いたい

    • c) それなりに善良な人間だと思われたい

  • 現在のメッセージでは、cの部分にしか働きかけていない

  • だから、「実は国に騙されてるんだよ」「実は現状こそが、消費者は免税されていて得しているんだよ。このままいくと、より消費税を支払うことになるだけだよ」で、a,bへ働きかけることが必要

参考情報として、自分が整理した記事のリンクも貼っておいた。

たぶん、これで、
「免税事業者が着服していてずるい」
「免税事業者が大変なのはわかるけど、インボイス制度が導入した方がいいのか悪いのか、どうにもわからくて何とも言えない…」
と思っている層は味方にできるはず。

インボイス導入のタイムリミットまで、もうわずかだけど、
36万人の署名を集めたということは、
彼らは36万人に情報を伝えることのできるマスメディアを獲得したということだ。
それを利用して、この情報を伝えれば、
そこから、現在は無関心なサラリーマン層を一気に巻き込むことだって可能だろう。

・・・と考えていたのだが、2日後。
あいも変わらぬ、
「弱者いじめの制度です。どうかあと1人に署名を広げてください」
のメールが送られてきた。

会計のプロでもない見知らぬ人間から送られてきた、よくわからないメールは怪しまれて終わったんだろうか…。
それとも、忙しくて読むひまがないんだろうか…。
あるいは、問い合わせフォームがGoogleフォームだったので、
長文をスプレッドシートで確認するのは見づらいだろうと気を回して、
文章本体はGoogleドキュメントに書いて、コメント欄には簡単な文章とそのリンクだけを貼り付ける形にしたから、リンクは怪しいと思って開かれなかったんだろうか…。

うーむ……、と考えているところで、
STOPインボイスのTwitterアカウントの存在に気づく。
よし、じゃあ、このアカウントにダイレクトメールを送ることにするか。
と思うも、このアカウントは、フォローしているユーザか、有料プランのユーザからのダイレクトメールしか受け付けない設定の模様。

Twitterの有料プランっていくらだ……思ったより高いな……
しばし逡巡するが、まぁ、仕方ない。お金というのは、使うべきところで使うものだ。
そうして、チャリンと有料プランを購入し、
STOPインボイスのアカウントにダイレクトメールを送った。

しかし、ダイレクトメールはいつまでたっても既読にならない。
最初は「忙しいのかな?」と思ったが、2日経っても既読にならず、
にもかかわらず、「○○の仕事が、ダメになってしまいます」「弱者いじめです」系の投稿はひたすらリポストされていくのを見て、
あ、これはずっと開かれないやつだな、と思った。

たぶん、色々と嫌なダイレクトメールが送られて来るから
知らない人からのダイレクトメールは開かないようにしているのだろう。
でもそれなら、フォローしているアカウントからのダイレクトメールしか受け付けない設定にしとこうよ。何のために私は有料プランを購入したんだ。

大体、個人宛てに直接そういうメッセージが来ないようにするために、
こういう団体としてのアカウントを用意しているんじゃないの?
知らない人たちからの声をこんな風にシャットアウトして、
ただ「弱者いじめの制度です。あと1票を広げてください」の要求だけを繰り返すって、どうなんだ?
それって結局、自分たちと同種の人間たちだけに閉じた視野の狭い活動になって、多くの人達を巻き込むことなんて、できやしないんじゃないの?

そんなことを、ちょっとむかむかと思った。

「もう、いいんじゃない?」
と脳内で声がする。
その声を受けて、もう、いいかな…と、ちらりと思う。

だけど今回、私が「できる限りのことをやってみよう」と思った動機は、
以下の問題や懸念からだ。

  • 倫理的な問題

    • 今回、ほぼ全ての国民が状況を理解していないがゆえに、大きな負担を負うのは、たまたま免税事業者側にいるだけの人達(勘違いで免税事業者をフルボッコしている状態)

  • 重大な情報が隠されることへの大きな懸念

    • 専門家に問題の核心となる情報を隠されたら、専門外の人間は普通気づけない。

前者に関しては、彼らの振る舞いにも原因の一端があるとしても、
後者に関しては、彼らの振る舞いは関係ない。
私は、将来の自分のために、今、何らかの手を打っておきたいのだ。

何か他にできることないかな…と考えながら、Twitterを眺めていると、
STOPインボイスのアカウントが、
「○○さんが、お話し会を開くそうです」
というコメントと共に、1つの投稿をリポストしているのを見つけた。
リポストされた投稿を確認すると、
今度の週末に比較的我が家から近い場所で、インボイスに関する不安を分かち合うお話し会が開かれること、
そこで話される内容、特に個人や社名を特定できる情報をSNS等に開示することは禁止するルールである旨などが書かれていた。

まぁたしかに、顔の見えない相手から送られてくるメッセージは、内容はどうあれ、まず警戒されるものだろうし、ニュアンスもうまく伝わらない可能性が高い。
心理的安全性の担保された場所で、実際に会って話して、自分は怪しい者じゃないですよ、と、まずわかってもらうことも必要かもしれない。

そう思った私は、日程的にも都合がついたので、
お話し会への参加を申し込んだ。

(つづく)

次の話→インボイス問題を通して情報リテラシーについて考えた話 - Day3|さとちん (note.com)

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