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インボイス問題を通して情報リテラシーについて考えた話 - Day1

ここ半月ほど、インボイスネタが自分の中で盛り上がっていたのだけれど、
私がこのネタにハマり込んでいたのは、
「増税、けしからん」でも
「弱者いじめ、けしからん」でもなくて、
情報リテラシーの観点で、むちゃくちゃ興味深い事例だったからです。

というわけで、社会をエンジニア視点で紐解いてみるシリーズとして今回は、
私自身の体験や考えの変遷を、時間を追う形で書いていきながら、
そのあたりについて整理していこうと思います。

<最初にお断り>
もしかしたら、読む方の立ち位置によっては、途中々々で不快な気持ちを与えてしまう部分もあるかもしれません。ただ、この問題の原因には、コミュニケーションの問題が大きく関わっていると思っています。
それを紐解いていくためにも、私自身が「その時どう感じたか、どう見えていたか」という主観の部分をあけすけに書くのがいいだろう、と思いまして、このお断り書きを書いた上で、以降、書き進めさせていただきます。

<全話リスト>
Day1 そもそものきっかけ
Day2 STOPインボイスに連絡を試みる
Day3 STOPインボイスの人たちに会いに行く
Day4 知人たちと勉強会を開く
Day5 税理士さんとお話しする
Day6 SNSで見知らぬ人々の誤解を解くことを試みる

そもそものきっかけ

インボイスネタにハマったきっかけは、
某インフルエンサーさんのSNSでの「着服」発言だった。
その発言自体は、スルー一択だったのだけど、
その投稿に対して付いているコメントを眺めていて、
「これは、やっぱりインボイスについて整理してみようかな」
と思ったのだ。

インボイス制度については、自身がフリーランスでもあることから、
1年前に書籍を読んで、大まかな概要は理解していた。
その書籍では、
インボイス制度導入によって起こる問題の原因は、30年前の消費税導入時にあるということを冒頭に記された上で、消費税のしくみやインボイス制度が何なのか、という基本的なことがとてもわかりやすく説明されていた。
この本のおかげで、私は消費税やインボイスの基本的なことを理解できたといえる。

ただ、そこまで丁寧に書かれていた本にもかかわらず、
「というわけで、免税事業者が悪いわけではないんだけど、今まで益税をもらっていたのは事実なんだから、今回のインボイス制度を機会として課税事業者になろうよ」
という展開で、インボイス制度導入に備えて免税事業者たちが具体的にどうしていくのがいいか、という話に進み、
あれ?今、ロジックが飛ばなかった??
と、気になっていたのだ。
ロジックが飛ぶの、気になるんです。エンジニアなので。

まぁ、執筆者はインボイス制度導入に賛成の税理士さんなので、
そこは、ごにょごにょっと自分に都合の良い感じに丸めて話を進めてるんだろうなー。
私の目的は、消費税やインボイスの概要を理解することと、
自分がそれに対してどう備えればいいかの判断材料を得ることなので、
その目的自体は達成できたから、本としては、まぁいいか。
今度、時間が出来た時に、
ちょっと自分なりに引っかかった部分について整理してみよう。

そんな風に思っていたのだけど、
仕事やら何やらに取り紛れているうちに、あっという間に月日が経ち、
インボイス制度開始も間近になり、
自分的には導入でも中止でもどっちでもまぁいいので、
整理するのはもういっかなー、
と思うようになっていた。

そんな感じでインボイス制度開始まで1ヶ月を切った、9月上旬。
某インフルエンサーさんがSNSで「免税事業者が着服している」と発言した、というネットニュースをたまたま目にし、
「よくわかってない人間が、また人を煽るようなこと言ってるなー」
と思いつつ、
これに対する人々の反応はどんなものなんだろう?
とちょっと気になり、その投稿を見に行ってみた。

インフルエンサーさんの投稿には
反対派の人達の彼に対する非難コメントが溢れていた。
「こんな発言、スルーすればいいのに。たぶん本人、コメントなんて読んでないだろうし」
と思いながらスクロールしていくと、それらの非難コメントに混じって少しだけ、
「この件については、賛成派・反対派両方の意見を読んでいるけど、やっぱりよくわからない」
「自分の感覚だと、やっぱり自分の支払った消費税をきちんと納税してくれるお店を利用したいと思う」
という、おそらく会社員の人たちのものであろうコメントがあった。
それを読んだ私は、
(まぁ、そう思うよね。私も会社員のままで、消費税やインボイス制度のことを全く理解していなかったら、たぶん同じことを思っただろうな)
と思った。

反対派の人達のインフルエンサーに対する非難コメントには、彼らのその戸惑いや疑問に答える内容のものはなかった。
でも、わざわざ彼らがそのコメントを書いたというのは、「知りたい」という気持ちの表れだよな、と思った。
こういう人達に対して、「実は、こういうことなんですよ」ときちんと明快に説明できるといいな、と思い、
じゃあ…と、自分の中でお蔵入りさせていた「インボイス制度について整理する」タスクを引っ張り出してきて整理することにしたわけだ。

そうして、自分なりに整理してまとめていくうちに、
「そうか、これは課税事業者側がこれまで節税に使っていた仕入れ税額控除がインボイス制度導入に伴って使えなくなるから、それについて誰が負担するか、ていう話なんだな……。でも、各事業者はそれぞれにカツカツで事業を回しているんだから、免税事業者も課税事業者も、どっちも悪くはないよなぁ…」
「そうか、これは30年前の消費税導入時の益税が元凶か!」
といったことに気づいていき、そのあたりを整理して記事を公開した。

これを読んでくれた会社員の知人たちからは、
「わかりやすい!」「そういうことだったのか」
という反応をもらえたので、
これをまとめる動機になったSNSで疑問の言葉を発している人たちへ、
「自分なりに整理してみて、こういうことだと思います」
と記事のリンクを添えてコメントを返した。
その人たちから「いいね」やリポストをしてもらって、
よしよし、彼らのもやもや解消に貢献できたなら、よかった、よかった。
と、一段落。

反対派が発信している情報を見て衝撃を受ける

「でもなんで、いまだに『免税事業者が消費税を着服してるか否か』なんて、ピントのずれた議論や対立がされてるんだろう? そんなの今回の問題と関係ないのに」
と、ここで疑問が浮かんだ。

私が読んだ書籍の著者は賛成派の方だったので、
「課税事業者側が仕入れ税額控除できなくなる問題」を、
「免税事業者がこれまで消費税をもらっていたのが、インボイス制度導入によってもらえなくなる問題」にすり替えて、話を進めていたのは、まぁわからなくはないのだけど、
反対派の人たちは、もちろん、
「政府が30年前に消費税導入するためにエサとして設けた仕入れ税額控除を利用した節税方法を、だまし討ち的に塞ごうとしていることが問題」
って、主張してるはずだよね?
もしかして署名集めだけが主な活動で、そういう税制についてサイトで説明していないのかな? あるいは、小難しい書き方をしてしまって理解されてないのかな?
と思い、STOPインボイスのサイトを見に行った。

サイトは、親しみやすくシンプルなデザインで、
ぱっと見、必要な情報にわかりやすくアクセスできそうだった。
スクロールしていくと、登場人物が会話形式で消費税とは何かについて説明している箇所があった。

(なんだ、ちゃんとわかりやすそうな感じで説明しているじゃん。まぁ、それもそうか。私の勝手な杞憂だったか)
と思いながら、その説明部分を読み進めていくうちに、
・・・・・え?
なに、これ?? 肝心なこと何も説明してなくない???
と、目が点になった。

私が自分の消費税解釈に捉われて読んでいたせいもあるかもしれない。
でも、どうにも私には、

「消費税を払っているのは、実は消費者ではなく事業者なんです!」
から始まって、
続いて、よくわからない法律の解釈部分の理屈こねくり回しが行われ、
「消費税は弱者いじめの制度なんです」
という弱者いじめアピールが続き、最後は、
「まぁ、消費税やインボイスは難しいんですよ」
と締めくくられて、おしまい。

という風に読めた。

これでは、いつまでたっても、
「法律の解釈をこねくり回しているだけで、結局はやっぱり免税事業者が消費税を懐に入れてたんでしょ」
「大変なのはみんな同じなんだから、俺たちが納税した分はちゃんと納税してよ」
という声が収まらないのも当たり前だ。

ちなみに、
「まぁ、素人には難しいんですよ」
で話を濁す専門家は、
エンジニアでも医者でも信用しちゃダメだと、常日頃から私は思っている。
うまくメタファーを取り入れたり、抽象化したりしながら、素人にもわかりやすく噛み砕いて説明できるのが、本当のプロだ。
それができないのは、当人がきちんと理解できていないか、何かごまかしているか、だ。

だから、この時、私は、すんごい衝撃を受けた。
ある専門的な事案について、対立する二派がそれぞれの主張をし合っている時、それぞれが自分に都合の良い部分をピックアップして説明しているんだろうな、くらいは想像していた。だから、それぞれの説明を読んで繋げて見てみれば、全体像が見えるんだろうな、と。
だけど、まさか両者ともに肝心な情報を伏せて説明しているとは、想像だにしなかったのだ。

もちろん、素人の私の消費税理解が何か間違っている可能性はある。
でも、私の整理した内容で、反対派と賛成派のそれぞれが主張していること――免税事業者が負担を強いられる、増税になる、増税政策じゃない、税制の抜け穴を塞ぐだけ、電力料金が上がるetc..――は、どれも説明できるし、それにもしも、インボイス制度導入自体には何の問題もなく、今まで不正をしていた人間が泣きを見るだけだ、というのであれば、
これまで推奨されていた納税方法は以下だったということになる。

  • 免税事業者は請求書や領収書に消費税を記載しない

  • 仕入れ事業者は、消費税の記載のある領収書と、記載のない領収書を別に仕分けて、仕入れ税額控除には消費税の記載のある領収書のみを用いる

  • 仕入れ事業者は、免税事業者から消費税記載のある請求書や領収書を受け取ったら訂正を求める

  • 税理士は上記運用が行われるように指導する

税理士たちは、彼らの顧客に対して、これまでこの運用を推奨してきたのか?

インボイス制度の導入有無については、中止になるのに越したことはないけれど、個人的には、まぁどうでも良かった。
ただ、

  • 倫理的な問題

    • 今回、ほぼ全ての国民が状況を理解していないがゆえに、大きな負担を負うのは、たまたま免税事業者側にいるだけの人達(勘違いで免税事業者をフルボッコしている状態)

  • 重大な情報が隠されることへの大きな懸念

    • 専門家に問題の核心となる情報を隠されたら、専門外の人間は普通気づけない。

この2点は、看過できなかった。

STOPインボイスの活動は1年以上前から行われている。
だけど、賛成派・反対派両方の税理士たちが、問題の肝心な部分についての説明を伏せることで、税制のことをよくわからない一般人たちをピントのずれた議論に誘導して、不毛な対立を引き起こさせることで、この一年を不毛な対立と議論に費やさせて、本当に議論されるべきことが議論されないままに、今、インボイス制度導入を迎えようとしている。
という可能性があるのだ。

今回の件は、たまたま当事者だったから色々調べて整理して理解して、出回っている情報がなんだかおかしいことに気づけたけれど、当事者じゃなかったら、ここまでのことはできない。
そして、今回の問題は「自分は当事者じゃない」と思っている人達も実は当事者で、つまりは、将来、別ネタで自分に返ってくる話だ。

せっかく今回、この件で気づくことができたのだから、
将来の自分のためにも、何か打てる手を打っておこう。

そう思い、自分にできることは何だろう…と考え始めたのが、9月中旬。

(つづく)

次の話→インボイス問題を通して情報リテラシーについて考えた話 - Day2|さとちん (note.com)

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