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PBLプログラムだけ作ってもだめ。大事なのは3つの役割。

地域プロジェクトっていうものが、いろんなところで実施されています。僕もここ数年、形式や関わり方の違いはあれどいくつものプロジェクトに携わってきました。今日はその中で見えてきたもの、特に学生たち主体で走るプロジェクトをより円滑に進めるため、より深い学びの場とするために大事だと感じたことをまとめたいと思います。

先に結論から言うと、プロジェクトを主導する主体の他に、それを補助する役割を担う人が不可欠であるということ。また、その人には3つの役割(C:コーディネーター、F:ファシリテーター、M:メンター)が求められているということです。

裏を返せば「プログラムさえ作ればあとは勝手に走る」わけではない、ということにもなります。こういう考えのところありませんか?

ワークショップデザインの界隈においてもこんなことが良く言われます。

「プログラムデザインが良ければ7割までは持っていける。」

この文脈からはいろんなことが読み取れるわけですが、まずは、プログラムデザインの重要性が上がります。7割の成果を得られるプログラムはやっぱり重要であるということ。でも逆から見るとあと3割はプログラムデザインだけでは足りないということですよね。この3割を埋めるのはファシリテーションだったり環境デザインだったりします。

ワークショップの界隈だと、「パッケージ化」というフレーズを良く聞きます。プログラムを誰がやっても同じような成果や場が作れるように確立したものを売ったりしたい人が良く言います。これに関して、はその人のワークショップへの向き合い方や、その場を通して参加者にどうなって欲しいのかの目的が関わるためとやかく言う気はありません。ただ、「わかっている人」はプログラムを売る、広めると同時にファシリテーターの育成にも注力しています。

さて、この7割をどう受け取るかが、今日の大きなトピックになります。70点で良しとするか? まだ30点も伸びる余地があるとするか?

僕は大学生たちと地域プロジェクト(PBL)をやっていることもあり、その経験側から思うことは、まずそもそも地域という場に出たことがない子たちは、自分のテリトリー(家、大学、バイト先が主。僕は学生トライアングルと呼んでいます)から出ること自体に価値があります。そのプロセスにおいて様々な多世代の人やバックグラウンドの人と触れ合うことによって、自分の知らなかった世界や価値観を「知ること」ができるからです。それだけでも十分に価値のあることだと思います。

ただ、知ることはできても、「その先」に行くことは多分できません。

その先というのは、新しく知ったことを自分ごととし、自分の生き方などに置き換えて考えたり、何かしら次のアクションに移していくことです。

これが70点のラインの差だと感じています。

余談ですが、大学では70点はB評価です。つまり普通。しかも69点以下はC評価なので、ボーダーラインギリギリにいます。

さて、この残りの3割を埋めるために必要不可欠なるのが運営者の持つべき3つの役割です。ここからはそれぞれの役割に求められているのがどういったものなのかをみていきます。

コーディネーター

いろいろな要素を統合したり調整したりして、一つにまとめ上げる係。
また、そういう職業。
「会議のコーディネーター」「ファッションコーディネーター」。
参考:デジタル大辞泉

辞書で調べるとこのように意味が出てきます。しかし、これを文字だけで理解してしまうと、今日お伝えしたいことのほんの一部にしかなりません。

地域PBLを行う上で必要となるコーディネーターの役割は、協働する他者、受け入れ側などとの調整の上で、プログラムを作り上げることなのはいうまでもありません。しかし、そこに必要になるのは、こちらの目的だけでなく、相手側にとっても価値あるものを作り上げる姿勢が必要です。「教育のためだから場だけ貸してくれ」なんていう人はいないと思いますが、こんなのは愚の骨頂でしかありません。

そのためにコーディネーターとしての運営者は、相手側の使っている言語を理解し、大事にしている価値観を共有し、抱えている課題を一緒に解決していこうとする姿勢がなくてはなりません。言葉を変えれば地域に寄り添う姿勢ですね。

また知人のコーディネーター研究をしている研究者によると、コーディネーターには、主体に寄り添う姿勢(ここでいう学生たち)と、実施後にそのプロジェクトの成果を評価する役割も必要であると言われています。

主体に寄り添う姿勢については後述するファシリテーターとメンターの部分で詳しくまとめるとして、ここでは評価の部分について僕なりにまとめてみたいと思います。

地域PBLは大学の科目や課外活動として行われているため、実施前後で、またその後の生活やキャリアにおいて「学生がどう変化したか」は注視してみられます。しかし、そこにすっぽり抜けてしまっているのが、協働した地域側です。本来であれば地域の側でも、実施前後でどのような変化があったのか(もしくはなかったのか)を調べるべきです。それが協働プログラムとしてのPBLの成果と本来はなるはずです。どちらかの側だけしか良い変化がなかったのであれば、それは成功とは言えないのです。

ファシリテーター

物事を容易にできるようにする人や物。また、世話人。
集会・会議などで、テーマ・議題に沿って発言内容を整理し、発言者が偏らないよう、順調に進行するように口添えする役。
議長と違い、決定権を持たない。
参考:デジタル大辞泉

社会的にも一般化してきたこのファシリテーターという用語ですが、使われる場によって、求められる役割は様々な解釈がされているマジックワードでもあります。

地域PBLにおいて、運営者に求められているファシリテーターとしての役割は、一言で言えば、プロジェクトの主体の伴走者と言えます。上記の説明にもあるようにファシリテーターは決定権は持っていません。というか持ってはいけません。その場合はファシリテーターが主体となってしまいます。

「プロジェクト」というものは、それが走るにつれ、様々な問題が出てきます。それは簡単に解決できるものから、プロジェクトの続行を妨げるようなものまで様々です。しかし、それに対して、どうやって取り組んでいくのか、どうやったらクリアできるのかをメンバーで考えることに価値があります。その後押しをするのが、また話し合いや議論、つまり思考を促進させるのが、ファシリテーターとして求められる役割なのです。

何をやるかを事前に事細かに決め、やることが決まっているもの=決まったレールを走るだけのものもありますが、その中でも主体となる人たち(主体になって欲しいのであれば)に工夫の余地を持たせるべきです。

ここで伴走者と称したのにも理由があります。問題があった時だけ出ていって、それらを解決するためだけに場を動かして、解決したら消える。それもかっこいいファシリテーターの在り方かもしれません(*)が、学生が主体となる地域PBLの場合、拠り所としての存在が不可欠だと感じています。

なぜなら問題にぶつかった際の対処のしかたはやはり経験値によるものが大きく影響するためです。知識がないと、解決の糸口すら見つけることが難しい、そんな場面に数多く出会ってきました。その拠り所となるために、普段からコミュニケーションを取り、距離感を一定に保っておく必要があります。これは次でお話しするメンターとしての役割にもつながってきます。

(*)堀公俊さんや中野民夫さんは、主体はあくまでその課題の当事者である、という文脈から、これが本来のファシリテーターの在り方かもしれない、とも言っています。

メンター

優れた指導者。助言者。恩師。顧問。信頼のおける相談相手。
参考:デジタル大辞泉

企業研修などの分野で良く聞く、このメンターというワードも一般化してきました。これは説明で書かれている通りですが、ここで大事なのは、相談相手という立場でしょうか。

先述した通りプロジェクトはそれが走る過程でたくさんの課題にぶつかります。それは主体となる人たち、ましてや学生たちだけでは太刀打ちできないような課題も現れてきます。他にもメンバーに関することなど、仲間内では話題にしにくいことも出てきます。そんな時に大きいものも小さいものの、悩みを相談できる存在としてメンターとしての運営者がいることは、とても大きな安心感になります。

ただ、ここで注意するべきなのは、上記の説明にもあるような「指導者」になりすぎてしまうことは良くないと感じています。指導者という言葉は「答え」を知っている人というニュアンスも受けます。プロジェクトを動かす際に大事なのは自分たちで課題を解決していくプロセスですが、自分たちで、悩み考え抜いた末に出した結論で課題を解決することと、与えられた答えで課題を解決することは全く異なります。後者は依存を生み出しますが、前者は自信をつけることにつながります。どちらがその先、次のアクションに必要かは言わずもがなです。

運営者が気をつけるべきは、安易に答えを提示せず、思考を促す「問い」を投げかけることです。大変な手間と時間を要しますが、効果的な学びの場を作るためには不可欠なプロセスだと思います。ファシリテーションの心得として使われますが、「信じて待つ」という姿勢がとても大切なのです。

長々とまとめてきましたが、地域PBLの運営者にとって大事なのは(残り3割まで高めたいなら)縦の関係としてではなく、斜め上の存在になることが大事なのです。ここではあまり触れられませんでしたが、PBLにおける主体は学生だけでなく地域の側も当てはまります。そのため、本来であれば、地域の側に対してもこのようにアプローチをしなくてはなりません。この両者が協働して課題解決をすることが地域PBLなのです。

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