見出し画像

「ビジョン」の持つ力。良いビジョンは人と組織を変える

2012年5月から私はインテリジェンスベネフィクス(現パーソルチャレンジ)という特例子会社で仕事を始めました。
特例子会社とは大手企業がグループ全体の法定雇用率を達成するために設立する障害者雇用を専門に行う子会社のことで、この子会社で雇用した人数を全体の雇用数とみなすことが出来る「グループ適用」という制度が特徴です。

当時のベネフィクスは障害者手帳を持っている社員が30名程度で規模としては小規模な組織でした。私は自分が経験した「高齢・障害者雇用支援センター」で活き活きと働いてくれた障害者や高齢者のイメージがあったので「この会社もきっと意欲的に働いているスタッフがいるだろう」と期待をしていました。

(参照)組織の力を最大化させる方法

企業における障害者雇用の現実

しかし、実際に私が見た現場は「活き活き働いている」という姿とはかけ離れた姿でした。皆、真面目に働いてはいましたが、その顔はどこか暗く、仕事を楽しんでいたり、やりがいを感じていたり、少なくとも会社に来ることを喜んでいるようには見えませんでした。

この状況を見て私は
「思っていた以上にこの現場を変えることは難しいな」と感じました。

まず私が一番問題だと思ったのは、皆が自分が働く目的、目標を持てていないことだと思いました。
これは現在の障害者雇用の非常に残念なところですが、企業が障害者を雇用する理由は「法定雇用率」があるからという理由が最も強い動機です。(もちろんそれ以外の目的をもって雇用している企業もあります)

そして当然このことは雇用されている本人たちも認識していました。
実際私は何度かスタッフから「会社は別に自分たちのことを雇用したいなんて思ってないですよね」「法定雇用率がなかったら自分たちは働くことできないんですよね」といった趣旨の声を聞きました。

私はそのたびに「そんなことはないですよ」と話しましたが、現実を見ればそう感じても致し方ない状況はいくつもありました(給与、雇用形態、仕事内容、勤務場所、経営者の発言など)

私は「これで活き活き、やりがいをもって働こう」と言っても無理があると感じ、組織を本質から変えていかないといけないと考えました。

ビジョンを決める

まず最初に取組んだのが、会社のビジョンを作ることでした。
ビジョンという言葉は、世の中的には「ゴール」や「存在意義」、「企業理念」などと混同して使われていますが、要するに

「事業を継続していった先に、最終的にどういう状態、存在になりたいか」

ということをあらかじめ言葉にすることです。

その言葉を決めるにあたって

「社会からも求められるモノであること」
「短期的ではなく長期的に取り組まないと達成できない事」
「社員が強い共感を持てること」
「達成したいと強く思えるモノ」

という軸で考えました。

実際に決めるまでには多くのスタッフの話しを聞き、彼らの思いに耳を傾けました。
そして最終的な言葉が決まるまでにはかなりの時間を要しましたが、納得できる一つの言葉が出来ました。

『日本の障害者雇用の成功モデルになる』


当時世の中を見渡してみても、障害者雇用で成功しているといわれる企業はごくわずかでした。しかもそれはメーカーなどの工場での勤務か、清掃や軽作業での事例に限られていました。また規模も非常に小さいものでした。もちろん決してそれを否定するつもりはありません。素晴らしい取組みの結果だと思います。

ただ、私たちが目指したのは現代社会の主流である「オフィスワーク」でまたパーソルチャレンジだから出来たのではなく、「確固とした理論に裏付けられ再現可能なノウハウ」になっていなければならないと考えました。

この言葉を組織のビジョンに決めてからは、あらゆる場面で使いました。社内の研修はもちろん、募集告知や採用面接、また外部の講演や社内報にいたるまで様々な場面でビジョンを発信しました。

その結果は目に見えて効果に現れました。
まず募集をかければ「ビジョンに共感しました」と言って応募してくる方増えました(もちろんそういって応募してくれた方は働く意欲の高い方でした)。
さらに嬉しかったのは、社員の何人かが私に「まずは自分がこの障害を持った人の中の成功モデルになりたいです。そして誰かを勇気づけることが自分の目標です」と言ってくれるスタッフまで現れるようになりました。

明らかに社内の雰囲気は変わり、会社に来ることを楽しみにしてくれたり、仕事に対して意欲的に働いてくれるスタッフが増えました。

私は、良いビジョンは社員と会社を変えるということを身をもって経験することとなりました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?