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アートと社会のなめらかな関係

1. アートってそもそもなんだ?

まずはこの絵画をごらんください。

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どなたの作品かわかるでしょうか。
あるいはいつの時代の作品でしょうか。

ルネサンス?はたまた近代?
日本人が書いたのか,あるいは,アメリカの作家?
ピカソはこんな絵書くかなあ.. 岡本太郎ぽい..

そもそも著名な作家が描いた作品なのか,子供の殴り書きなのか!?

答えはこの方です!!
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(京都大学霊長類研究所HPより)

そう。
チンパンジーのアイちゃんです。

この作品は京都造形芸術大学の学長室に飾られています。

そこで湧き上がる疑問。
これはアートなのか。
そもそもアートってなんなのか。

この一枚の絵からここまで哲学的な問いが立つのすごいですよね。
チンパンジーのアイちゃんすごい!

その答えは言語化するとこうでしょうか。
「アートは時代に応じてその目的を変えていった。」

説明しましょう。

2. 先史・コミュニケーションとしての芸術

たとえばネアンデルタール人が地球上で生活をしていた時代。
数十万年前に我々と同じ地球におりました。

彼らはイマいうところの芸術という概念はないものの,表現としての絵画が存在していました。

コミュニケーションとしてのアートです。

この世界最古の洞窟壁画には赤線ではしごが描かれていることなどが研究により解明されています。

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(6万4000年以上前の洞窟壁画,あるネアンデルタール人)

3. 近代以前・技巧の見せ場としての芸術

それから時代はくだり近代まで。
近代までのアートは,技巧の見せ場の役割を持っていました。

下の絵画は,ミレーの「落穂拾い」という作品ですが,
うますぎ。

デッサンとかめちゃ上手かったんだろうなあと妬いてしまいます。
写実主義なんかがそうですね。

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(落穂拾い,ミレー)

また,静物画なんかも技巧の見せ場が顕著に出現した例です。ピーテル・クラースの「ニシンのある静物」という作品です。ニシンうますぎ,今にも食べられそうです。

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(ニシンのある静物,ピーテル・クラース)

4. 近代以降・芸術価値としての絵画

転換が起きたのは近代。

芸術的な価値そのものが芸術,として認識されるようになります。

これまでのコミュニケーションとしての芸術や,技巧を探究する芸術からは独立して実用性がないものでも芸術として評価されるようになります。ポップアートやファインアートと呼ばれる潮流に代表されます。

代表的なのはマルセル・デュシャンの泉という作品でしょう。男性用の小便器にサインをしただけの作品です。

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(泉,マルセル・デュシャン)

冒頭にあげたチンパンジーによる作品に戻ると,あの作品も芸術的な価値そのものが芸術として認識されるのではないでしょうか。

チンパンジーが描いていること自体が価値になっています。

こんな風にいわゆる我々が芸術と一口にいってもその裏には含蓄のあるコンテクストが存在しています。

5.リベラルアーツ.. アート?

さて話をすこしずらしてリベラルアーツという言葉について考えてみましょう。
(安心してください,今までの話題はあとで伏線回収しますよ。)

リベラルアーツは無理やり日本語に訳すと,自由な芸術。
一般には芸術と訳されます。

ここで重要なのは,横文字でリベラルアーツと言った時には,天文学や幾何学といった学問が含まれています。

天文学によってGPSは生まれたし,幾何学によって事故から守る車の設計ができる。

つまりリベラルアーツは社会と,自分を自由にすることこそが命題として掲げられています。

6. アートと社会のなめらかな関係

では最初にのべた芸術の歴史による解釈の変化と,
次にのべた自由の拡張を,
ヨーゼフ・ボイスというアーティストの「社会彫刻」という言葉で結びつけていきましょう。

社会彫刻とは,

ヨーゼフ・ボイスの提唱した概念で、あらゆる人間は自らの創造性によって社会の幸福に寄与しうる、すなわち、誰でも未来に向けて社会を彫刻しうるし、しなければならない、という呼びかけである。それは、「芸術こそ進化にとっての唯一の可能性、世界の可能性を変える唯一の可能性」というボイスの信念から発している。ただし、そこでの「芸術」とは、芸術史から出てきたような芸術の観念——彫刻、建築、絵画、音楽、舞踊、詩など——ではなく、それを超えた「拡張された芸術概念」であり、「目に見えない本質を、具体的な姿へと育て」、「ものの見方、知覚の形式をさらに新しく発展・展開させていく」ことである。
(現代美術用語辞典より抜粋)

この社会彫刻をよく表したヨーゼフボイス自身の作品に,「7000本の樫の木プロジェクト」があります。5年かけて7000本の植樹を行うというパフォーマンスです。

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(7000本の樫の木プロジェクト,ヨーゼフ・ボイス)

自然を回復し,作品自体が環境になるという世界を目指し,急速な工業化社会に問題点を提示したのです。

まさに芸術と社会とがなめらかにつながろうとする瞬間です。

人間が行う活動は全てが芸術という思想には強く共感します。

こんな風に芸術と社会がなめらかに接続されるようになるといいなあといつも考えています。
いつかチンパンジーの絵が誰かの世界で大いに貢献する世界がいいなあ。

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