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『ラブ、デス&ロボット』シリーズ2 全8話紹介&感想

5月14日、Netflixのオリジナルアニメ『ラブ、デス&ロボット』の新シリーズが配信開始された。

前シリーズが2019年なので2年越しの新作だが、前作が18エピソードあったのに対し今回は8エピソードと少なめ。ただし既に第3シリーズの配信が決定(2022年を予定)しており、製作総指揮のティム・ミラー曰く既に第4シリーズまでのアイデアがあるとのこと。

ならば不人気で打ち切り…にならないようにできるだけ多くの人に観てもらいたい。ということで自分の感想記録がてら全8エピソードをご紹介。ネタバレは極力避けるが、あくまで一個人が感想を書き連ねるだけなので、特にこれといって目から鱗の解説や考察はまるで無いのでその点はご注意を。

そもそも『ラブ、デス&ロボット』とは

『ラブ、デス&ロボット』はNetflixが製作&配信している成人向けアニメシリーズ。ターミネーター : ニュー・フェイトデッドプールで知られるティム・ミラーと、今年のアカデミー賞で8部門ノミネート&2部門受賞を果たした『MANK/マンク』など数多くの作品で知られるデヴィッド・フィンチャーが製作総指揮を務め、シリーズ2では総監督として『カンフー・パンダ2&3』ジェニファー・ユー・ネルソンが参加。製作はティム・ミラー設立のブラー・スタジオを含む各国のスタジオが担当している。

一部2D作品もあるが基本的には3DCGアニメシリーズで、10分から20分弱の短編作品からなるアンソロジー形式。ジャンルは幅広いが、どの作品もタイトルにある「ラブ(セックス)・デス(バイオレンス)・ロボット」のいずれかの要素を満たす内容なのが特徴。
成人向けなので当然R18+で、ゴア表現やセックスシーン満載なのが本作のウリ。どちらかというとストーリーよりもこうした過激な描写を最新技術で表現することに重きを置いているので物語やテーマ性を重視する人には少々下品に映るかもしれないが、それでもCGのクオリティは圧巻の一言。短い時間ながら斬新な映像体験が楽しめる。

シリーズ1は2019年に配信され、アニー賞のテレビ/メディア部門で4部門受賞。日本でも多くの作品が邦訳されているケン・リュウの短編『良い狩りを』『グッド・ハンティング』としてアニメ化されたことも話題となった。
ちなみに自分はこの『グッド・ハンティング』『ジーマ・ブルー』がシーズン1のベストエピソードだと思っている。先述の通り過激な表現に重きを置いたシリーズの中でこの2作品はストーリーの完成度が桁違いで、この2作のだけ単体で見ても十分満足できる仕上がりなので気になる方は是非。あとはアートスタイル的に『フィッシュ・ナイト』も好きかもしれない。

そんなわけで前置きはこれぐらいにしてそろそろ本題。ついでに個人的評価も5段階形式で記載しておく。なお本シリーズの特徴として視聴者に応じて再生順が変化するというものがある。今回は私の再生順に紹介していくので、既にご覧になった方は自分の再生順と異なる場合があるかもしれないがその点はご了承頂きたい。

『自動カスタマーサービス』★★☆☆☆

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近未来の高級住宅地に住む婦人とその愛犬。2人の平和な日常に暴走するお掃除ロボットが襲い来る。

本シリーズ"らしさ"が十分に詰まったエピソード。舞台となる「サンセット・シティ」は高齢者しかいない街で、散髪から犬の散歩までありとあらゆる行為が「ヴァキューボット」というロボットにより自動化されている。ウォーリーの劇中に登場する宇宙船で暮らす人々に近いイメージだが、あちらが全員肥満体型として描かれていたのに対し、こちらは巨大で縦長な顔に細すぎる手足、独特な髪型という悪意丸出しなデフォルメが施されている。

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そんなキャラがお掃除ロボットに殺されそうになり部屋中を逃げ惑う姿は何とも下品な笑いを生むが、こういうノリが許されるブラックさが本シリーズの特徴。そうした点から好みが分かれるエピソードという印象。ただこのノリの作品は第2シリーズではこれだけなので、苦手な方もこれはこういうもんと思って耐えてもらいたい。

『氷』★★★★☆

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地球から100光年離れた極寒のコロニー。そこでは身体能力を大幅強化する人体改造が主流であり、未改造の人間は「エクストロ」と呼ばれていた。改造済の弟と比較され続ける未改造のセジウィックは惨めな思いを晴らすため、改造済みの若者達の度胸試し「フロストホエールウォッチング」に同行するが…

先述の『ジーマ・ブルー』を手掛けたアニメーターのロバート・ヴァレーが担当したエピソード。同氏の特徴であるシャープなアートスタイルが氷の惑星の空気感とマッチしており、短いながらも完成された世界観を感じさせる。

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前作『ジーマ・ブルー』が哲学的で静かな作品だったのに対し、こちらはアクション要素が強めで前作とは違った魅力に溢れている。脚本も含め短編としての完成度も高く、絵柄は特徴的だが万人におすすめできる作品なのではないだろうか。

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余談だがこのアートスタイルを見ているとバットマン : ホワイトナイトが連想される。タッチがショーン・マーフィーの作風に似ているのは勿論カラーリングもマット・ホリングスワースに近く、ホワイトナイトをアニメ化したらこんな感じなのかなと想像が膨らんでまう。こちらに関しては最近続編も邦訳されているので知らない方は是非。「ジョーカーが善人になる」という、まぁ今までもあったような気がする内容に思えるが、そのイメージを遥かに超えるテーマ性に富んだ内容になっており、DCブラックレーベル史上最も成功したタイトルと言っていいのではないだろうか。

『ポップ隊』★★★★☆

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テクノロジーの進歩により、人類が不老不死と引き換えに生殖行為をしなくなった世界。子供を育むことは禁止され、もれなく殺処分されていた。警察官として子供を匿う者達を摘発する男は次第に自分がしている行動の意義を見失い始める…

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キャラクターの服装や退廃的な街並み、雲を抜けた先にある摩天楼などがフィルム・ノワールなデザインで、世界観は本作で一番。内容的にも高評価な作品。再生医療の恩恵と引き換えに命を育む意味も権利も失われた世界で男の信念が揺らいでいく…生命の尊さとは何なのか。男が辿り着く結末は。静かな雰囲気が好きな方には間違いなくおすすめできるエピソード。

『荒野のスノー』★★★☆☆

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地球中央情報局のヒラルドが降り立ったのは遥か彼方の過酷な惑星。彼女の狙いはお尋ね者のスノーという男。賞金稼ぎ達から狙われる彼の「睾丸」には秘密があった…

荒野を流離う一匹狼の男が主人公のアクション作品。フォトリアルなCG作品は本シリーズでもいくつかあるが、こちらは荒野の夜景や夕陽が差し込む岩場(ドラゴンボールのベジータ戦みたいなイメージ)など、圧倒的技術による美しい自然環境を描いている点がポイント。同じティム・ミラー作品のターミネーター : ニュー・フェイトを感じさせる場面もあり、制作総指揮の作風が感じられるエピソードでもあった。

『草むらに潜むもの』★★★☆☆

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真夜中に急停車した寝台特急。あたりには背丈ほどもある草むらが広大に広がっていた。出発までの間、乗客の男は興味本位で草むらへ足を踏み入れるが…

2019年にNetflixで配信された『イン・ザ・トールグラス』を思わせるエピソード。事前に「2回の点呼が終わるまでに帰ってこないと出発しますよ」と車掌に言われた上で明らかに何かがいる草むらに入ったら、案の定化け物がいて出られなくなるという、お約束通りの展開を綺麗になぞっていく内容で意外性に欠ける。アートスタイルは好きな部類なのでもう少し色々あってもよかったな…という印象だが、前述の『イン・ザ・トールグラス』も微妙な作品だったので草むら系に期待するのはやめた方がいいのかもしれない。

『聖夜の来客』★★★★☆

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クリスマスイブの夜、どうしてもサンタの姿が見たい子供達は寝室を抜け出しこっそりリビングへ。しかしそこに現れたのは…

個人的なランキングでは2位に相当する作品。ストップモーションアニメ風の作風と本編の相性が非常に良く、本作らしい展開がありつつもクリスマスストーリーとして(たぶん)全年齢向けに楽しめる作品に仕上がっているのが良い。

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個人的に昨今の昔から続く人気アニメをフルCGにする風潮が好きではないのだが、このエピソードに関しては子供達の質感が本物の人形を使っているかのようで大変楽しめた。完全なるCGになって魅力が半減してしまった『きかんしゃトーマス』などもこういうテイストのCGで作ってもらいたかったところ。次のシーズンでもこの作風の作品を期待。

『避難シェルター』★★☆☆☆

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敵艦隊との戦いの最中、攻撃を受け無人惑星に墜落した戦闘機パイロット。何とか避難シェルターに辿り着くが、そこで待ち構えていたのは制御不能になった番人ロボットだった…

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俳優のマイケル・B・ジョーダンが声とモデル含めて出演している話題のエピソード…なのだが、あらすじからも分かる通り先述の『自動カスタマーサービス』と完全にテーマが被っており、フォトリアルな映像のみが見所になってしまっているのが勿体ない。CGの方は恐怖に怯える表情や滴る汗などのCG表現が実写と全く見分けが付かず極めてレベルが高いだけに、もっと長めの尺で色々なシーンが見たかったところ。期待値が高かった分、少々拍子抜けなエピソードだった。

『おぼれた巨人』★★★★★

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本シリーズの個人的ベストエピソードがこちら。ここまでほぼノンストップで観てきたのだが、最後に観たのがこれで本当に良かったという感想。満足してシリーズを終えることができた。浜辺に打ち上げられた巨人男性の遺体が腐敗し、解体され、町中へと消えていく様子を一人の科学者の視点を通して描く。巨人だけでなく全てがCG、かつフォトリアルな作風なので、明らかに違和感がある風景ではなく、いるはずのない巨人という虚構が確かにそこにいて、それが日常に溶け込んでいるという異様さが絶妙に表現できているのが素晴らしい。CG+実写ではこの空気感を表現することは不可能だったに違いない。

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浜辺に出現した時は賑わっていた遺体も日が経つにつれ腐敗し、人々も関心を失い、いつしか解体されていく。そしてその骨は街中に溶け込み、非日常だったはずの巨人は日常へと変わっていく…その一連の過程を静かに、かつ知的に描く様子はある意味本シリーズ"らしくない"作品だが、観賞後に夢から醒めた後のような余韻を残してくれるのはこのエピソードのみ。監督&脚本が製作総指揮のティム・ミラーということで、その実力をしっかりと見せつけられるエピソードだった。傑作。

最後に

今回のシリーズは話数が少なかった分、全体通してフォトリアルなイメージがあった。どの作品も改めて技術の進歩を感じさせるクオリティで、今後実写とCGの境界線がますます見分けにくくなりそうなのは可能性を感じさせつつ、同時に恐ろしさもある。このような創造的な用途や社会をより良くする方向に役立てて欲しいと願うばかりだ。

個人的には映像の美しさは当然気になるが、やはりストーリーやテーマなどに惹かれるタイプの人間なのでその辺りがしっかりしていた作品が高評価になった。『おぼれた巨人』のようなテイストの作品で構成されたアンソロジーシリーズがあったら問答無用で大傑作扱いしそう。そのへんも含めてシリーズ3に期待したい。

というわけで今回はここまで。そもそもが不定期な上に海外コミックの紹介がメインだが、今後はもう少し手広くやりたい(そのためにBloggerからnoteに移転してきたはずだったのだが…)ので気にかけてやってもいいよという方はフォローしておいて頂けると有り難い。

それではまた次回。



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