インシュアテック事業ベンチャーのデザイナーが米ビジネス誌Fast Companyのデザイン特集の事例から考えること(ブランディング編①)
今回はブランディングに関する話題を、米のテクノロジーとデザインにフォーカスしたビジネス誌、Fast Companyのデザイン特集記事をまとめた1冊、”Fast Company Innovation by Design: Creative Ideas That Transform the Way We Live and Work(『世界を変えるイノベーションデザイン ビジネス誌ファストカンパニーが選んだ革新的事例』)から、自身の業務目線でも気になった事例紹介と所感を中心に展開していきます。
事例が多いため、ブランディング編は2回に分けて紹介、所感を記載していきたいと思います。
※ 原書で読んでいるため、本記事で記載する内容において、日本語版と違う表現の箇所が多い可能性がございます。
1行所感:ブランドは、立ち位置を意識し、人間性を失わずに、体験というものの解釈を広げて定義し、本質を見つめ直すと良いのだなと思います!どんなこと?なのかは、以下で眺めていきましょう。
ブランドの立ち位置に対する認識
あなたというブランド
ブランディングという言葉で連想するものとして、企業、組織、プロダクト、サービスなどある程度「大きなもの」を人は連想する。今から四半世紀前に書かれた「あなたというブランド」という組織内における個人のセルフブランディングに関する記載がある。
で、「あなたと言う名のブランド」が行うべきこととして、、、
とあります。サービスを手がける組織の一員として各々がセルフブランドとして上記を意識することは重要だと思います。基本的にこの考え方は恐らく「大きな」ブランディングというものを「個」に落とし込んだ発想なのだが、この発想を再反転してみても良いのでは?と私は思っていたりする。
上述の「セルフブランディング」の考え方を、個が集まった/作り上げる、組織/サービスとして今一度、還元して考えた際に、
業界における善きプレイヤーとしての組織/サービスであれ
業界における価値のあるエキスパート組織/サービスであれ
業界におけるビジョナリーとなる組織/サービスであれ
業界における利益をあげる組織/サービスであれ
ということに還元し直せないだろうか?組織やサービスは単独で存在しているものではなく、それらを作り出す原動力となる個のメンバーの集合体である。また、同時に、業界、社会のエコシステムの中の1員でもある。自分たちのブランドを考えるにあたり、一方的/単体的な価値感ではなく、
構成する個の集団 ⇄ ブランド ⇄ 業界
といった(目指していく)「立ち位置」も同時に考えていくことにも意義を感じたりする。
House Industries
このような事例として、個人的に大好きなフォントをたくさん制作している、書体のデザイン事務所(わたしは、フォントオタク気味なデザイナーです)で、House Industriesという会社がある。
そのHouse Industriesは、看板/印刷系の職人さん達が手がけていた第2次大戦以降のビルボードやパッケージのフォントを発掘してきて、それらを調整したうえでデジタルフォントを制作している。
彼らは、「レトロさ」の訴求でなく「リバイバル」させることが自分たちの使命だという「立ち位置」をブランド価値として位置づけた。現在では多くのロゴ/アイデンティティ制作や広告キャンペーンで、リバイバル感覚を想起させるような案件をはじめとして、超大規模な案件に起用されるようになっていった。フォントユーザーからも、クライアント側からも、加えて自分たちも、行うべき役割や業界の中での価値といった「立ち位置」に気づき、それを徹底した結果である。
クリエイティブによるブランドのコントロール
Jet Blue
LCCのjetBlueのJFK空港の搭乗エリアをカラフルな内装や家具や、中央に機能的には無駄にも捉えられるステージ装置を配置した。斬新さを与えることで、無機質な空港に、人が旅に対して欲する非日常な体験を搭乗エリアで体現させた。
プロジェクトを担当した、モリソン氏は経営上軽視されがちな「人間性」を積極的に取り入れている。結果、最高の顧客満足度を得られるLCC航空会社としてJ.D.パワー&アソシエイツから選ばれる会社となる結果に至る。
会社がある程度の大きさになっていくと、成り行きに任せてしまうことも可能であるものの、常にブランドを設計し育くんでいかないことには、普通な(差別化ができない)ものとなってしまう。
この事例においては、オペレーション/コスト効率においては非機能的な、「人間性」に由来する要素を取り入れ、満足度をあげていくという施策である。感情の要素を取り入れたクリエイティブを展開することによって、顧客満足度の高いブランドにしていくというコントロールを自ら行った事例と言える。
事業/サービスの数的コストに目が行きすぎると、どうしても非機能的/定量化して測りづらい「人間性」といった遊びの部分を無駄と感じてしまうことがある。ただ、我々が普段ふとした瞬間につい微笑んでしまったり、目を留めてしまう魅力的なプロダクトは大いにして、その「人間」な要素に対する反応である。
世のサービスやプロダクトを見回していると、誰もが知るようなサービスやプロダクトであってもユーザーから魅力的に映らなくなっているものは存在する。それらの多くは、人間的でない展開を行っているとユーザーが薄々感じているのかもしれない。
Starbucks
皆さんもご存知の、スターバックスが、ブランディングエージェンシーのリッピンコットにロゴのアップデートを依頼した際の話。Starbucks Coffeeが自身の円形型のエンブレム型のロゴから、自社名を冠したテキストを取り外し、サイレン(人魚)だけにシンプル化させた。社名を外しても、十分認知ができる存在となっていた。
純粋にサイレンのみのシンプル化させた図案にしたところ、どうもおかしいといった雰囲気になり、簡単な微調整を行った結果、現在のものが完成した。(※ 今度スタバのロゴを見る際には、サイレンの右側の目の影が伸びているのを確認してみてください)
サイレンを非対称に調整することで、「人間らしさ」を体現させ、完全な対象の違和感を取り除いた。また、新ロゴは、キャラが含まれた黒い円ロゴの周りを緑のテキストで囲ませたら、スタバ風のものがすぐに出来上がってしまう偽物対策に対する課題も解決させた。新バージョンはサイレンだけになったため、オリジナル性が高くなった次第である。
旧スタバロゴは、観光地にパロディTシャツとかあったような。。。
私は、アンティーク感のある旧旧ロゴのスタバのマグカップなんかも個人的にもってたりはします。
人は完全な対称系や整然としたものを「美」として捉えがちであるものの、実は完全な対照系ってなんだか無機質になるよねという話は、ロゴにおいてはまぁあるあるとして存在する。
ロゴを微調整するといった意味では、弊社で展開している、コのほけん!のロゴ箇所もコの空いているクチが絶妙に真っ直ぐではなかったり、はみ出している赤のピースが空いたクチとは同じサイズではなく微妙に調整はしている。
ロゴひとつの話に限らずその先において重要なのは、完全に揃い切ったウェブサイトのUIや、導線が揃い切ったUXなどは、理解しやすく、管理コストも低く、属人性も低く、良いため、誰もが目指したく私も目指したい世界…なのか?という点である。
ペライチのLPサイトでもない限り例外を出さない完全ルールに沿ったサイトやデジタルプロダクトは、その計画を立てたところで、時間と頭数(と気合い)がない限りなかなか実現が難しい。で、まぁ、それが実現しきった(or ほぼ実現できる見通しがついた)として、それはユーザーが「人間」を感じられなく冷たく感じたい感じに近づきかねない可能性は高い。整然としたルール整備を目指す際に、どうするとより人間らしさが残せるか、どこまで整えすぎるとやり過ぎになるのか?サービスやプロダクトの「整え具合」もブランドの体現の仕方として影響が出るため、気をつけたいところではある。
P&G
ゼロ年代に、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)の売り上げを倍増させた当時のCEOのラフリー氏は、価格や技術だけでなく、デザインをP&Gの差別化要因とするべきだと述べていた。世界一のコンシューマー向けのブランドにするために、デザインを企業戦略のひとつとしたいと捉えていた。
彼は30年間の業界経験において、消費財のデザインが機能的で整理されているものばかりを見続けており、より「購入体験」(彼はそれを「真理の瞬間」と呼んでいる)をデザインしたいという狙いがあった。
プロダクトそのもののユーザー体験のみならず購入体験も含め全てをデザインしていくことにフォーカスを置いたものであった。同店舗に陳列されたものの売り上げを伸ばす鍵はそれらのイノベーションであるとも。
P&Gのデザインは、生活用品の生活用品らしさを体現しているブランドであると感じている。北米展開のブランドと日本国内で展開しているブランドで違いはあるものの、そのデザインを見かけると、一発でドラッグストアでの購入体験、キッチン、洗面台、風呂場/洗濯場での日常生活を連想させる力を持ったものになっている。
他方、「生活感を感じさせない」ことが売りとなる、消費剤系の生活用品のブランドもたくさん存在する。オシャレなもの好きならそれらを積極的に購入したりしているかと思う。ちなみに、無印良品もその手のものは出している。
ただし、王者的なブランドとなるデザインとして、P&Gのダウニーやパンパーズが存在しているというのはどういうことなのだろうか?それらが、デザイン的にイケてると思っている人は多くないかもしれない。
とは言え、ドラッグストアに陳列され、手に取り、カゴに入れ、レジに並び…。たしかにあれは、プロダクトの見栄え、使い心地のユーザー体験だけに限らない、あの独特な購入体験を連想させるデザインではある。
コカコーラ社では、巨大組織にありがちなクリエイティブに関する施策がチグハグしていたという課題に対して、具体性が高く、かつ柔軟性のある世界的なクリエイティブ指針のデザインを行った。
「巨大なブランドが、巨大なスケールで、どのようにしてデザインを通じて、価値を伝えていけるか」という命題を担当したバトラー氏は考えた。より価値を創り出し、より訴求し、体験を向上させ、売り上げを伸ばし、持続可能な世界を創り出すかである。
バトラー氏は、サピエントから引き抜いたブルックス氏を世界ブランド戦略に据えさせ、コカコーラ社のフラグシッププロダクトであるコカコーラの真髄を定義させた。
それは、赤色、筆記体のロゴタイプ、波型のリボン、そしてガラス製のあのコンツアーボトルフォルムであった。結果、パッケージ、印刷、販売、器具、その他全ての接点において、ハッキリとしていて、シンプルで、信頼性があり、力強い赤色で、「馴染みがあって同時に驚きを生む」ものをスタンダードとさせた。
バトラー氏のブランドアイデンティティ施策は、社内の主要ブランドに対して、超明確なアイデンティテイを提供させることを可能とし、そこから様々な展開を可能とさせた。良いデザインシステムは、グループの中での施策において、それぞれ個性を出したものを作り出せるとともに、そのブランドの世界観を崩さないものである。
コカコーラは自身のブランドを見つめ直すにあたって、既にプロダクトとして存在していた、あの強烈な赤と、レトロなスクリプトのロゴタイプ、リボン、ボトルが馴染みがあり、かつ超強力なブランドを構成する要素として定義したことによって、よりそれらを押し出す世界戦略を立てることができた。
日本含め、世界中でローカライズされたクリエイティブにおいても、何を押し出すべきかがクリアになったことで、コカコーラというブランドを消費者側に強いメッセージとして訴求することに成功している。
コカコーラの真っ赤な背景にあの波型のリボンがあるだけで、世界一レベルの超強力な発信力だなといつも感心させられるし、私も惚れ惚れするくらいに美しいなと思う(とは言え、甘いもの苦手勢なので飲むことは基本ないものの 笑)。
ブランド定義において、0から組み立てたりすることも重要だが、そのブランドが既に持っている本質的な要素を濾過しながら、絞り込んで見つけ出す作業は老舗ブランドをリブランディングする際にはよくとられる手法である。
とは言え、常にアップデートしていくことで、そのブランドのコアとなる箇所は都度見つめ直して磨き上げていく作業はどこにおいても必要だよなぁと思っていたりもする。
McDonald's
マクドナルド社も、デザインとりわけ外装内装含めた「見た目」のデザインから始まる体験に力を入れた施策を行った。当時のCOOのトンプソン氏は、「人はまず、目で食べる」、「外観や内装が時代に沿っていて魅力的だと味も良くなる」と語っている。国際戦略として、ヨーロッパ・アジアを先行として、外観をアップデートさせて成果をあげていた。
よく、外見よりも中身が重要だ。なんてことは誰もが子供の頃からよく聞いてきた話ではあるが、外見が良いと中身も良くなるという例である。
たしかに一昔前にマクドナルドが一気にオシャレさを増した時期があった。特に都心部で。マクドナルドといえば、私の世代だと、安かろうなイメージが強く(日本発上陸で銀座に出店!な世代だと舶来館のあるものだったのかもしれないが)、外観や内装が急にオシャレ感を出した頃、「お?」となって、適当にコーヒーでも買って待ち合わせで使ったりする機会が増えた時期があったなぁ。
次回、「インシュアテック事業ベンチャーのデザイナーが米ビジネス誌Fast Companyのデザイン特集の事例から考えること(ブランディング編②)」では、ブランディング周りにおける、本書から気になった点や所感を掲載予定。
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