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【文学フリマ広島7】『万屋倶楽部へようこそ』試し読み

『万屋倶楽部(よろずやくらぶ)へようこそ』
(『抽選で高性能アンドロイドが当たったアンソロジー』より試し読み②でです)

https://c.bunfree.net/p/hiroshima07/45310


「あ、お兄ちゃん。おはよー。魔界から荷物が届いてたよ」
「おう、こずえ。おは、ふぁぁあああ。荷物?」
「なんか、大きくて重たいから玄関に置きっぱなしだけど」
「そっか、ご苦労さん」

 こずえは今年で十四歳になる。小柄で華奢な黒髪ロングの乙女とはいえ中学二年生だ。こずえが運べないような荷物なんて、いったいどんな重さだ?
「朝ごはんはなにがいい?」と聞いてくるこずえに「トースト焼いてくれ」と返事をしつつ玄関に向かうと、約一メートル四方のダンボール箱があり、廊下をふさいでいた。

「まじかよ」

 さっきまで寝起きで頭がぼんやりとしたままだったが、一気に目が覚めた。
 我が家に、というか自宅を兼ねているこの万屋倶楽部の事務所にバカでかい荷物が届くというのは、よくないことの前触れだ。いったん、荷物を開けるのは後回しにして朝食を取ろうと踵を返した。

 そのとき、後ろからガタゴトと物音が聞こえてきた。
 嫌だなぁ。
 関わりたくないなぁ。
 そう思いながらも、ゆっくりと振り向くと、

「お兄ちゃん?」

 リビング側から声をかけられた。

「うおぉ!」

 いつの間にかこずえが背後に忍び寄ってきていた。

「な、なんだこずえか」

 ガダッ!
 ゴドッ!
 ダンボール箱から先ほどより大きな音が発せられ、俺はダンボール箱を注視する。

「な、なに!?」

 こずえは俺の背中に隠れて服を掴んでくる。

「一応聞くけど、あれ、オーナーからの荷物だよな?」
「う、うん」

 万屋倶楽部は読んで字のごとく、頼まれれば電球交換からアリバイ作りまでなんでもこなす会員制の何でも屋である。オーナーのアタラが依頼を取ってきて、俺が依頼をこなすのが通常業務だ。

 そしてアタラは時折、仕事とは別に荷物も送ってくるのだ。
 迷惑という名の荷物を。
 それが陣中見舞いだったらどんなに嬉しいだろうか。そう思うこと幾年月、願いの叶った例はない。

 そうこう考えている内にダンボール箱の壁を突き破り、中から人間の左脚が飛び出した。おそらく中学生か高校生くらいの少女の脚だ。

「……」

 あ、これ、ヤバいやつでは?

「お兄ちゃん、これって……」

 こずえも俺と同じくある二文字の単語が浮かんだようだ。

――誘拐。

 箱の中身は穴を広げるように右足の指、甲、踵と出していき、色白の両脚が完全に箱から飛び出した。白のパンツを丸見えにしながら、少女は腰部をダンボール箱からひねり出す。そして腰のくびれや細いウエスト、胸部の膨らみを露わにした少女が万歳の姿勢でぬるりと這い出てきた。
 歳はやはり高校生くらいだ。普段ならば同世代の少女の裸にドキドキしていただろうけれど、今は別の意味でドキドキしていてそれどころではない。

――アタラの奴、裸の少女を箱に詰めて送ってきやがった。

 こんなとき、すぐに警察に通報するのが正しいのだろう。しかし万屋倶楽部にはそれができない事情がある。
 それは、オーナーのアタラが出かけている先の魔界が、世間一般では認識されていないということだ。

 少女は箱の穴に手を突っ込み、中から白いワンピースを取り出して着ると、ショートカットの金髪を手櫛で整える。そして立ち上がり、金色の瞳で俺たちを真っ直ぐに見据えた。表情は口元が緩んでいて、警戒しているのか自分が箱に詰められていた状況に当惑しているのかわからない。
 わかるのは、箱から出てくるときに脱げただけで、裸の少女を詰め込んだわけではないらしいということだ。顔つきは日本人っぽいが、日本語は通じるだろうか。

 人間の理想を詰め込んだように顔が整っているのが奇妙で不気味だ。
 少女は視線を動かして俺とこずえの顔を交互に見たのち、

「回道(かいどう)匠二(しょうじ)様とこずえ様、ですね?」

 尋ねてきた。
 どうやら日本語は大丈夫らしい。

「そう、だけど」

 俺が答えると、相変わらず俺の背中に隠れたままのこずえが顔を出し、

「そうでーす」

 と続いた。

「お二人をマスターとして登録。再起動します」
「え?」

 いきなり再起動とか言い出してしまった。ウ〇ンドウズかよ。

「再起動完了」
「早っ」
「改めまして、私の所有者アタラからお二人の下で暮らすように命じられました。サキとお呼びください」
「あ、はい」

 え、そういうプレイ? と思っていると、サキはダンボール箱から紙切れを取り出して俺に渡してきた。
 見るとアタラの字でこう書いてあった。

『魔界忘年会の抽選で当った高性能アンドロイドJKモデルだ。要らんからやる。開発元によるとおすすめのプレイは――』

 子供には不適切なことが書かれていたので、覗き込んでくるこずえに見られる前に破いて宙に放った。
 魔界手紙は専用の道具以外で破いたり切ったりすると蒼い炎が燃え広がり、焼失する。その炎は対象物以外には燃え広がらず、また炎に触れても熱を感じない。

「えっと、じゃあ君はアンドロイドってことでいいの?」
「いいえ」

 サキは首を横に振った。

「ちょ~高性能アンドロイドです」

 腰に手を当て胸を張ると、ドヤ顔を浮かべて「ふんすっ」と鼻を鳴らした。

(こういう感じかぁ)
「という訳なので朝ごはんを恵んでください」

 胃の辺りを撫でながら、サキはリビングに入っていく。そういえば俺も朝ごはんがまだだ。
 まあ、来たものは仕方ない。

「トースト焼いてくれ、こずえ」
「え、えっと。はーい」

 考えるのは困ってからでいいかと思い、俺たちは朝食を取った。


(――続く)


『万屋倶楽部へようこそ』
電池交換からアリバイ作りまで頼まれればなんでもこなす、会員制何でも屋、万屋倶楽部に届いた荷物、それは魔界のアンドロイドだった!?
(アンドロイドファンタジーギャグコメディ)

本作の続きは2/9(日)に開催される文学フリマ広島7で『抽選で高性能アンドロイドが当たったアンソロジー』を購入いただくか、後日さしす文庫のBOOTHで販売される電子版を購入していただくと読めます。
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