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今日も今日とて、お母さん。-たかがスタバ、されどスタバ編-


(前編「たかがイオン、されどイオン編」はこちらから)


次の目的地スターバックスまでは少し歩く。

イオンのベビーコーナーは静かだったけれど、一歩外に出ればここは駅前なので、人通りはかなりある。一人だったらなんにも気にならなかった街の音が、寝ている子どもと一緒だとここまで大きく聞こえてしまうものなのか、と少し驚いた。

一人きりのときには、街のちょっとした不便さだったり、困ることなんかがあまり見えていなかったように思う。
階段やエスカレーターはまるで空気のようにそこにあり当然の顔して使っていたし、人混みなんてなんのその、すいすいと早歩きで移動していた。
子連れでの移動が基本となった今、街が如何に「一人」「大人」「健康」「右利き」の人間のために造られているのかがよくわかる。



私はなんどもベビーカーの中を覗いては、子が起きていないかをチェックしながら歩いた。
スタバが見えてきた。
もう少し、もう少しで私、スタバに行ける。


「うわぁ…スタバだぁ…」
心の声は漏れていたと思う。久しぶりすぎて、うっすら緊張していた。店内はさすがに少し混んでいたのだが、まだ座れる席はありそうだった。
注文列に並びながら、私は迷っていた。「店内」にするか「テイクアウト」にするか。

やっぱりここはテイクアウトにしとくべきか。いやでもここでヒヨってテイクアウトにしたとして、子が寝続けていたら「なんだゆっくりできたじゃーん」てちょっともったいない気持ちになりそう。だけど店内にして途中で起きたら絶対泣いちゃうだろうし、そしたら落ち着いてコーヒーなんて飲んでる場合じゃなくなるし…あーどうしよう。もうすぐ私の番だ。

「とりあえず店内で飲んで、泣いちゃったらすぐお店出たらいいんじゃない?マグカップじゃなくて紙カップにしてもらえばいいじゃん?」
という声が聞こえてきそうだ。改めて言っておくが私は元来のケチであり、店内とテイクアウトじゃ消費税が違うので、話はそんな簡単に片付けられない。「店内」分の消費税を払って買ったものは最後まできっちり店内で楽しみたいのだ(どケチ根性)。

どうしよう…

うーん……

どうしよっかなぁああああああああ!!!



「グランデサイズのホットのスターバックスラテください。テイクアウトで。」


僅差でテイクアウトに軍配が上がり、私は目標②「スタバでコーヒーを飲む」を「スタバでコーヒーを買って車で飲む」に変更することにした。

バーカウンターで順番を待ちながら店内を見渡す。イオンのベビーコーナーにいたような人たちは一人もいなかった。ほとんどが一人で、pcをパチパチしてたり読書をしてたりスマホを見てたり。みな、思い思いの時間を過ごしていた。
所変わればだなぁと思っていたら、私が握るベビーカーのハンドルがもぞもぞと動きはじめた。
ここまでか。タイムリミット、子の覚醒だ。

いやぁ〜店内にしなくてよかった〜!ナイス判断私!
と自分を褒めつつ、でもほんとは座ってゆっくりコーヒーを飲みたかった気持ちも引きずりつつ、グランデサイズのホットのスターバックスラテができあがるのを待っていると、「起きたぞぉ!!おろせぇえええ!!」と、店内が少し騒つくくらい子が泣きはじめてしまったので、ベビーカーから降ろして抱っこをした。

いつもの私だったら、泣く子を抱きながらスタバでコーヒーを待ってたりしようものなら、「『まぁあの人、子どもが泣いてるのにコーヒーなんて買っちゃってるわ。あらあら〜最近の母親って自由でいいわねぇ〜』とか思われてるんだろうなぁ」という被害妄想を炸裂させていただろう。
育児中の人がお店でコーヒー飲んじゃいけない法律なんてないし、ランチしたりショッピングしたりしちゃいけない法律だってないんだけど、自分の「やりたい」を優先させることに後ろめたさを感じたことがあるママは、きっと私だけではないと思う。


だけど今日の私はそうじゃない。グッバイ被害妄想癖の私。
紙袋に入れてもらったコーヒーをぶらさげたベビーカーを押し、泣いてる子を抱っこしながら開くスタバの手動ドアは、この世のどんなドアよりも重たかったけど、久々に「スタバ」という場所へ入れたこと、目標を達成できたことはやっぱり嬉しかった。

何も私はスタバが大好きというわけではないのだが、スタバにはどこか、ある種アトラクション的魅力があるから好きだ。なんかつい入りたくなっちゃうような、つい写真とか撮っちゃうような。そこがいいところだなぁと思う。
つまり私はそのとき、ビッグサンダーマウンテンを乗り終えたときにも似た高揚感を得ていたわけだが、一歩外に出るとそれはすぐに消え失せた。
雨が降っていたのだ。


神様、あなたはどこにいらっしゃるのですか。


傘?そんなものはない。だってさっきまで全然晴れいた。
ダッシュしてイオンの駐車場まで行くわけにもいかず、仕方なく私は地下へ降り、迂回して戻ることにした。まずはエレベーターがある場所まで行かなくてはならない。くぅー!!!
エスカレーターか階段を使えばすぐなのだ。繰り返す。エスカレーターか階段を使えばすぐなのだ。
エレベーターって、なんであんなにスッと来てくれないんでしょう。それとなんで数が少ないんでしょう。くぅーー!!!!

迂回ルートはバスターミナルを通過する。ここも人通りが多く、ましてや地上は雨、人はよけいに増えるしちょっとした段差がやけにある。
そんな中を片手ベビーカー&片手抱っこスタイルで闊歩するのはなかなか辛いものがあった。だけど私は、まったく嫌な気持ちではなかった。

今日の私は、イオンに行けたし、スタバにも行けたのだ。
絶対に無理だと思ってたことが、できたのだ。
これは紛れもなく、純度100%の達成感だった。
嬉しかった。


子どもが生まれ、「できないこと」は実際増えた。
だけど私はいつのまにか、本当に「できないこと」なのかを見極める前に、大変だったり面倒だったり、色んな理由をつけて、自分の周りを「できないことだらけ」にしてしまっていたのかもしれない。
「できること」すら埋もれてしまい、「できるわけない」と全部を諦めて、自分を閉じ込めてしまっていたのかもしれない。
思い出せ私よ、サンボマスター先生が歌っていたじゃないか。「できっこないをやらなくちゃ」と。本当に、その通りだと思う。

こすられまくって擦り切れた表現だが、やってみた結果、やっぱりできなかったでもいいのだ。まずはやってみることが大切なんだなぁと、齢34にしてはじめて気付くことができた。

ありがとうイオン、ありがとうスタバ。


なんとか車に戻った私は興奮気味に、「できたね!2人でイオン行けたね!スタバも行けちゃった!ママできたよ!!」と子に向かって言った。子は「お腹すいたから出発してもろてええですか?」みたいな顔してたけど、私は、今日のことはきっとずっと忘れないだろうなぁと思いながら、グランデサイズのホットのスターバックスラテを一口飲んでエンジンをかけた。


今回の経験を経て、私が学んだ大切なことがもうひとつ。それは、何があっても抱っこ紐は絶対に持ち歩く、ということ。片手ベビーカー&片手抱っこでの移動はまじでキツイ。10kg超の赤子の片手抱っこ、キツい。あいつさえいてくれたら、私の左腕があんなに震えることはなかった。

教訓1)できっこないをやってみる。
教訓2)抱っこ紐は絶対に持ち歩く。





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