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思い出の欠片を作ること。

子どもの頃の楽しかった記憶は大人になっても結構しっかりと残っているもので、だからこそ自分の子どもにも、たくさんの思い出の欠片を残してあげたいと昔から思っていた。

妊娠してからその思いはさらに強くなり、今年は数十年ぶりに実家の母と味噌作りをすることにした。

毎年冬になると味噌を仕込んでいた母。私はその光景も、ホクホクに煮上がった大豆のふくよかな香りもよく覚えている。大豆を小皿にわけてもらって母のそばでつまみ食いをするのが大好きだった。寒い冬の、温かい記憶だ。

だけどいつからか、味噌作りをやらなくなってしまった。なんでやらなくなってしまったのか、理由はよくわからないのだけれど、恒例行事というものは続けてこそというところがあるから、一度やらなくなってしまうと、もうやらないことに慣れてしまう。いつからか、「お味噌は買うもの」になっていた。
でも私は毎年冬になると思い出していた。あの光景と香りと味を思い出しては、いつか一緒に作りたいなと思い続けていた。


いつかいつかと思い続けて今年、「そのいつかは今だ!」と、鼻息荒く母に味噌作りを提案した。

なぜ「いつかが今」だったのか。
それは子がお腹にいるときに母と作りたかったから。この一点。
今年仕込んだ味噌が食べられる頃、この子はもう生まれていて、もしかしたら離乳食で食べさせてあげることもできるかもしれなくて、そうしたらきっと今年の味噌作りが、子にとっても私にとっても、もしかしたら母にとっても思い出の欠片になると思ったから。だからどうしても、今年、母と味噌を作りたかったのだ。

少し話が逸れるけれど、クリスマスツリーも、私にとってはとても大切な冬の温かい記憶のアイテムのひとつ。

実家では母と毎年、オーナメントを飾りながら「今年はあんなことがあったなぁ」とか「去年これ飾ってたときはあんなことあったよね」とか言いながら一年を振り返ったりしていた。そして最後はいつも「これ片付けるときはもう年末やで」という当然のセリフで締める。これが我が家の冬のはじまり。
母と二人でこういう時間を持つことが、毎年の恒例行事だった。恒例で、大切な時間だった。

今年は夫婦になって初めてのクリスマス。だからどうしてもツリーが欲しくて、家のスペースを考えて頃合いのものを購入した。
そして私は大きなお腹で、オーナメントを飾った。
嬉しかった。来年これを飾るときはきっと今日のことを思い出すだろうし、これから先もずっと、今日のことは思い出すだろうと考えていたらとても嬉しくなって、実家のものと比べると幾分小さいこのツリーをとても愛おしく感じた。

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話は味噌作りにもどる。
提案したとき、はじめ母は「結構大変やで?あんたお腹も大きいのにできるかなぁ」と渋っていたけれど、私の強い希望で念願叶い、十数年ぶりの自家製味噌作りをすることになった。
そのことを夫に話すと「俺もやってみたい」と乗り気だったので、一緒に作ることになった。(こういうとき、私がやりたがっていることを一緒に楽しもうとしてくれる素敵な人なんですと、父と母に自慢したくなる。でもきっと、父と母の目にも彼がそう映っているんだろうなと思うと、なんとも嬉しい気持ちになる。)

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麹と塩、そして大豆。材料はたったの3つ。
1日水に浸けて戻した大豆を煮て、潰す。麹と塩と豆を合わせ、しっかりと混ぜる。ソフトボールくらいに丸め、保存容器めがけてバン!と投げ込む。それを繰り返し、都度空気が入らないようにギュッギュと押し込む。
これで完成。あとは寝かせて、時が来るのを待つだけ。
これだけであんなに万能で毎日食べても飽きない調味料ができるだなんて、昔の人たちは本当に頭が良くて感覚が鋭いんだなぁと感心してしまう。

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途中、母が「となりでお豆食べてた子が、もう母親になるんやもんなぁ」と言った。
「来年もまた作ろうよ。この子おぶってお豆煮るから」と私は答えた。

母と過ごしてきた、一年に一度の恒例行事の数々。
私は自分の子どもとも、こういう時間をたくさん作っていきたい。一瞬一瞬、一片一片を積み重ねていくことで作られる記憶は、何物にも変え難いと、私自身が一番よくわかっている。
大げさなことじゃなくていいし、特別なことじゃなくていい。日々の中のちょっとした欠片を、いくつ自分の中に集めておけるか。私は、それがすなわち心の豊かさだったり、想像力の豊かさだったりに繋がるんじゃないかと思うのだ。
父と母のおかげで、私はそんな欠片をたぶん、たくさん持っている。

味噌作りの後片付けをしながら、いつか自分のとなりで煮豆をつまみ食いする我が子を想像した。小さな手で味噌玉を作る姿を想像した。
その様は、うっかり涙が溢れてくるほど可愛くて、すっかり自分に母親としての感情が芽生えていることを実感する、そんな今年の冬だった。

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