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さもないごちそう 「大根と鶏のしみしみ煮」

途端に寒くなった。
八百屋さんに白菜と大根が並ぶ。
「この値段で本当に農家さんは大丈夫なのか?」と思うくらい、どれもとても立派なのにあまりにも安い。白菜と大根、一度にそれらを一つずつ買うことを躊躇ってしまうほどに立派。なぜ躊躇ってしまうのか。野菜室に入らない。立派で美味しそうだから買いたい。安いのだから尚の事買いたい。だけど野菜室に入らない。入らないのだからどうしょうもない。

自分の白菜レパートリーと大根レパートリーの数を比較すると、大根の方がやや優勢。悲しいかな、汎用性の高い大根をどうしても選びがちになってしまう。そんな冬のはじまり。


大根は一本を4等分にして、キッチンペーパーで包んでジップロックで保存している。野菜の保存方法なんて、主婦になるまでほとんど知らなくて、検索したことすらなかったけど、今の世の中、ちょっと調べればすぐに誰かが教えてくれる。ありがたい。

葉に近い首の方は大好きな大根おろしやサラダに使う。おしりの方は煮物などの味がしっかりつくものに使う。
これも主婦になりたての頃は、どちらの方が辛味が強いのか毎回わからなくなり、都度ネットで調べた思い出がある。
先日、夫に「どっちが辛いんだっけ?」と聞かれたとき、「(ふふん)おしりの方」とさらっと答えた。「大根どっちが辛いか知ってる自分て格好良いな」と、ちょっと得意気な気持ちになったりしていた。


調べなくてもわかる。
調べなくても知っている。
調べなくても作れる。

そういうものがたくさんある人に、ちょっぴり憧れる。私は自慢じゃないけど、調べなくてもわかることや知っていることは少ない。でも、調べなくても作れる料理はそこそこある。そんな料理のひとつが大根と鶏のしみしみ煮だ。

とりわけ難しい料理じゃないことは皆さんご存知のとおりだ。
鶏ももは程よい大きさに切って、少し焼き目をつける。そのあと大根もあわせ、鶏の油を絡める。大根は、鶏ももよりもひと回り大きいサイズで切るといい感じ。
だしの素、酒、みりん、砂糖で少し煮たあと、醤油を加え、落し蓋をしてくつくつ煮る。それだけ。なんの捻りもコツもない。



ついこの前のこと。
いつもと同じように作ったはずのしみしみ煮が、とんでもなく美味しくできてしまって驚いた。
あまりに美味しくできたので次も同じように作りたいと思ったのだが、そこが私の「調べなくても作れる料理」の落とし穴。分量、工程含め、レシピが完璧に頭に入った上で作っているわけではないので、再現率が低い。つまり調味料は目分量、工程も慣れでやっているため、毎回味が微妙に違うのだ。
「調べなくても作れる料理」が、たまにこうしてミラクルな点数を叩き出したとき、私はいつも「メモっておけばよかった」と後悔する。

できればまた、今日のような大根と鶏のしみしみ煮を作りたい。
「はて、何が違ったのだろう」と、調理シーンを脳内で再生する。思い当たることといえば、いつもよりだしの素を思いきって入れたこと、火を少し強めにしていたこと…かな。でも待てよ、もしかしたらそもそも大根自体が旬で美味しかったという説もあるな。

だしの素は、たしかにちょっと大胆に入れた。「おっと」と、思わず口から出たのを覚えているので間違いない。「てんぷらを美味しく揚げるコツは、思いきり」だって、シロさんのお母さんが前シーズンのとき言っていたなぁ(『きのう何食べた?』が日々の癒やし)。思いきっていれちゃったあれが効いたのかなぁ。


思いきって。大胆に。
結局どう頑張ったって今回作ったしみしみ煮の、調味料の量や工程の詳細は思い出せないのだから、とにかく「思いきり」と「大胆」というキーワードだけ、ちょっと脳内にメモして覚えておくことにしよう。次回、思いきるところを間違えてまた違う味になったとしても、それはそれだ。私は私の「調べなくても作れる料理」しか、どうせうまくは作れないのだ。


この日のメニュー
・大根と鶏のしみしみ煮
・カリフラワーの酢漬け
・かぶと水菜のマヨポンサラダ
・ほうれん草のごま和え





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