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#50 イン・マイ・ライフな気持ち

この記事が50本目、区切りの投稿となりました。今日は、大好きなビートルズの楽曲「イン・マイ・ライフ」から読み取る、これからの人生の指針です。少しだけ、英語教師にも戻ります。

この曲はアルバム『ラバー・ソウル』に収録されていますが、アルバムタイトル “Rubber Soul” は発音が全く同じ別のフレーズ、 “rubber sole”(靴の「ゴム底」)が念頭にあります。正式な靴は革底(leather sole)ですが、革底の靴は雨の時滑りやすく、また摩耗に弱いという短所があります。Rubber sole の靴は利便性も耐久性も高く、実用的です。 “soul”(魂)も同じように繊細すぎずしなやかに保ちたい、そんな思いが込められているのではないかと思います。

ここで取り上げる In My Life 以外にも、村上春樹さんの長編小説の題材にもなった『ノルウェイの森』Norwegian Wood (This Bird Has Flown) に Nowhere Man、Michelle と「人間の内面」を描いた鋭い作品が集結しているのも、Rubber Soul というアルバムタイトルにぴったりです。



ビートルズ 『イン・マイ・ライフ』

まずは聴いていただくのがいいと思います。ビートルズの1965年の曲で、作詞は主にジョン・レノンで、彼が25歳の時の曲です。

僕はこの曲に中学生の時に出会い、テンポがそれほど早くなく英語の歌詞も平易で歌いやすいことから、毎日のようにレコードをかけて一緒に歌っていました。歌詞の対訳も読んで意味は理解していましたが、歌詞の内容よりも曲のメロディーに魅力を感じていたように思います。
 しかし、人生の大きな転機を迎えてドイツへ渡ってきた今、この曲の歌詞は大きな意味を持ちます。この歌詞が別のメロディについていたとしても、間違いなくその曲を好きになると思います。


歌詞全文

There are places I'll remember
All my life, though some have changed
Some forever, not for better
Some have gone and some remain

All these places had their moments
With lovers and friends, I still can recall
Some are dead and some are living
In my life, I've loved them all

But of all these friends and lovers
There is no one compares with you
And these memories lose their meaning
When I think of love as something new

Though I know I'll never lose affection
For people and things that went before
I know I'll often stop and think about them
In my life, I love you more

《Piano solo by George Martin》

Though I know I'll never lose affection
For people and things that went before
I know I'll often stop and think about them
In my life, I love you more

In my life, I love you more

ビートルズ『イン・マイ・ライフ』より

言語学的考察

言語学・自然言語処理を専門としているので、その観点から考察します。英語の動詞の時制のうち最も強力なのは「現在形」です。「過去形」は過去の一定時のことのみを述べ、未来形は助動詞で表されることから、常に「未定」の意味を持ちます。対して現在形は、現在のみならず「過去から未来にかけての」広く普遍的な事象を指すための時制で、最も強い意味を表します。その観点から上の歌詞を見ると、現在形は限られた箇所にしか出てきません。それは、

– There are places I’ll remember
– Some are dead and some are living
– There is no one compares with you
– And these memories lose their meaning
– When I think of love as something new
– Though I know I'll never lose affection
– I know I’ll often stop and think about them
– In my life, I love you more

限られた箇所にしか、現在形は出てこない

これだけです。ここから、現在形の中でも意味の弱い「存在」「状態」を表す be 動詞を除くと、次の箇所だけになります。

– There is no one compares with you
– And these memories lose their meaning
– When I think of love as something new
– Though I know I'll never lose affection
– I know I’ll often stop and think about them
– In my life, I love you more

さらに絞られる

次に、「状態」に準ずると考えられる動詞 know を除き、さらに文法的に弱い位置にあるということで、従属節内の動詞 compares, think of も除きます(この compares は「比べる」ではなく、「〜に匹敵する」意味の自動詞で、no one との間に関係代名詞 that が省略されている)。そうすると全歌詞中、

– And these memories lose their meaning
– In my life, I love you more

『イン・マイ・ライフ』のメッセージの核はこの2つの現在形動詞

lose(失う)と love(愛する)の2つだけが残ります。見事です。この2つの動詞は、もちろん対比の意味で使われています。この2つの動詞に注目した上で、歌詞全体をまとめると、

– 出会った人や街はこれからも心の中で生き続ける
– しかし、新しい愛の前にそれらは意味を失う《lose》
– 誰よりも何よりも、君を愛す《love》

『イン・マイ・ライフ』の骨格

となり、まるで多くの石の中に2つの宝石が置かれたかのように、この lose と love という動詞が際立っています。消えていく lose のイメージと、湧き立つ愛の love は意味も対照的で、歌詞全体を引き締めています。さらに、一度だけ用いられる lose に対し、love は三度用いられ、lose → love の流れを作っています。


イン・マイ・ライフな気持ち

ついこの間までは、この曲の郷愁的なところが好きで、上の lose → love の展開が好きではありませんでした。「書くカウンセリング」(先の投稿「#8 マイ・ディア・カウンセラー」参照)で「この部分の歌詞が嫌いです」とカウンセラーの先生に書き送った記憶もあります。でもドイツへ来て一ヶ月が経った今は、違う感じ方をしている自分がいます。

僕の note 記事は過去の思い出について記した記事が多いですし、過去の上に現在や未来があるので、これからも過去を大切にしていきたいと思っています。しかし、そういったものの「価値が失われてしまう」ような、そんな something new があるのではないか、今はそんな「イン・マイ・ライフな気持ち」なのです。

次の節目である100本目にはどんな記事を投稿できるのだろう……と今から楽しみです。今日もお読みくださって、ありがとうございました☕️
(2023年9月5日)


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