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#36 「脇目もふらず」なんてみっともない

亥年だった1995年に、友人から届いた一通の年賀状の文面をはっきりと覚えています。「イノシシみたいに脇目もふらず突っ走るなんてみっともない」。目的に向かってまっすぐ突き進むイノシシのようには生きたくないという彼の人生哲学でした。28年も前の一通の年賀状の文面を覚えているとは、よほどのことです。


村上春樹マインド

この年賀状は大学4年生の時にもらったもので、差出人は高校生時代、兵庫県立神戸高校の新聞委員会のメンバーでした。神戸高校新聞委員会といえば、作家の村上春樹さんも高校生時代に所属していました。当時、僕のいた甲陽学院と神戸高校新聞委のメンバーとはいろいろと交流がありましたが、彼はまさに村上春樹さんの作中人物のような雰囲気の人でした。

彼は、イノシシのように進んでしまっては、「道端の素敵な花が見えない」と書いていました。村上作品では、「どんな順番でシャツにアイロンをかける」だの、「レストランのカキフライが5個入りと7個入りの2種類ある」だの、ストーリーにはどうでもいいディテールが描かれます。でも「村上春樹っぽさ」はそういう部分で出ていますよね。彼の言う「道端の花」は目的地と同じくらい重要なのだと思いました。


「ひまな人」と言われて

今はドイツ留学中で、note に投稿を続けています。四半世紀さかのぼり、1997〜1998年のオーストラリア留学中も、メールで「To the Lighthouse(燈台へ)」「カプチーノのあわ」という2本立てエッセイを配信していました。修士論文を視野に入れた研究を進めながら時間を見つけてエッセイを書いていたのですが、ある時友人がこう言っていると又聞きしました。

ササキさんって、ひまな人だよね。研究のために留学しているのに、関係のないことに時間使って。

ある友人に間接的に言われたこと。彼女が今活躍していることを祈る。

これを言った人は当時博士課程で研究中で、研究成果を上げて研究者になりたい!と張り切っていたのだと思います。その人の意見はもっともですし、責めるつもりは毛頭ありません。でも当時僕が思ったのは、

あなたこそ、ひまな人だよね。何より大切な自分の人生が進んでいる時に、研究だけやってるなんて。

もちろん彼女には言わなかった。

どう生きるか

優劣はないと思いますが、僕は好みとして、目的地だけを目指して突き進んで、周囲が見えなくなるような生き方はしたくないのです。このことを端的に言い表している好きな曲があります。

Dreams Come True『今度は虹を見に行こう』1990.(下のアルバム6曲目)

好きなのは冒頭に近い部分の次の歌詞の一節です。この14文字は重いです。

普通に歩くのは 気持ちいいよね

Dreams Come True『今度は虹を見に行こう』1990.

吉田美和さんの作詞の意図とは違うと思いますが、僕はこの歌詞を、「目的地に着くためだけではなく、歩くことそのものに価値を見出しながら歩く」という意味で解釈しています。「二人で虹を見に行くために」歩いたとして、仮に虹は出なくても、その行き帰りは素敵な道中なのだと思います。先日の投稿「#33 つくばウォーク 〜盛大なる1人イベント〜」はまさにこの思想から生まれたイベントでした。


さて、ドイツ留学

この note は先日、立教大学大学院人工知能科学研究科の公式ツイッターで宣伝されてしまいました(ご提案くださったKさんありがとう😉)。きっと「あいつ、ひまだな」とすでにかなり言われていると思います。でも僕の本当の思いは次の通りです。

立派な論文を書いて博士号を取って、でも4年間、「道端の素敵な花」が見えずに過ごすより、博士号は取れなくても、4年間の海外生活という二度とない経験をきちんと「普通に歩く」方がいい。

僕の本音、出資元のEUに怒られるかもしれないけど。

こういう気持ちでいる方が、実はいい研究ができ、より意味のある博士号が取れるということは、他の博士課程院生より20年以上人生経験が長い分、よく分かっているのです(ちょっとだけ得意気)^^

上の曲の最後の方の歌詞、

潮の満ち干は 月の引力
2人で確かめに行こう

Dreams Come True『今度は虹を見に行こう』1990.

2人で確かめることは不可能です。でも、そんな話をしながら「月の見える丘」へ歩いて行って、「そうだよね、月の引力だよね」とか話すことに意味があり、その時に内面にわきあがってくる幸せのために、我々は生きているのだと思います。

今日もお読みくださって、ありがとうございました💐🌈🌙
(2023年8月16日)

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