見出し画像

授業でシビックテックとかPlurality(⿻數位)とかブロードリスニングについて紹介したので、東京大学の学費の値上げについてPol.isを使って意見構造を考察してみた話。

工学系研究科(大学院)の講義「知識社会マネジメント2024」第11回は「テクノロジーによる民主主義への挑戦」というテーマで実施しました。スライドはこちら

市民が技術を駆使して社会問題を解決し市民生活を向上させる取り組みであるシビックテックの活動は日本でもずいぶん広く認知されるようになりました。シビックテックや民主主義と技術の関係については毎年この時期に触れているのですが、今年は、安野たかひろさんの都知事出馬によって偶然にもタイムリーな話題になりました。記者会見の中でブロードリスニングへの言及があったりとなにかと話題ですね。

安野さんが東大PSIとして松尾研究室にいらしたのが2012-2013あたりなのでしょうか。その頃私も松尾研とはよくコラボしていた頃なのですが、安野さんとは直接的な面識は無いです(多分)。

Plurality(⿻數位)

さて、シビックテックが非常に効果的にワークしている動きとして台湾のgov0(零時政府)が有名です。本日はオードリー・タンさんが提唱者の一人であるPlurality(⿻數位)ついても少し触れました。Plurality(⿻數位)は、日本語訳的には「多元宇宙」となってますが、これだと抽象度が高くてなかなか説明が難しい。最近はオードリー・タンさん自身が"collaborative diversity"という表現に言い換えてくれているようで、サイボウズ・ラボの西尾さんが"協調的多様性"といった日本語訳も当ててくれました。スバラシイ。

私の表現が的確かどうかはわかりませんが、Pluralityっていうのは、"テクノロジーが政治や社会にもたらしたネガティブな影響に対応するために、テクノロジーによって市⺠の⼒を取り戻すことによる挑戦の⽅向性" だと考えています。ちなみに、「⿻數位」は中国語で「デジタル」と「多元性」の両方を意味します。
Pluralityが重要だとされる背景には、テクノロジーが我々の社会、経済、政治にもたらしたネガティブな側面があります。例えば、SNSはつながりを生んだようでその一方で孤立や分断を広げました(社会的側面)。また、ブロードバンドで多様な働き方ができるようになりましたが、先進国における中間層の空洞化にもつながってます(経済的側面)。特に2000年以降は先進国の分極化の⻑期的な傾向にデジタル技術は寄与してしまっていることは否定できません(政治徳側面)。
そういった中で、

⼤規模で統⼀された、合理的で科学的な計画システムを志向するのではなく、独⽴、孤⽴した個⼈と資本主義のダイナミクスに任せるのでもなく、個⼈と社会の関係性を重視して実践していく関係

(出典:関治之(2024) シビックテックによる、社会と⺠主主義のアップデート)

を目指しましょう構築しましょうというのがPlurality。

ブロードリスニングツール:Pol.isによる実験

で、 ⼤勢の意⾒を聞くことを⽀援する技術としてPluralityの⽂脈で登場しているアプローチのひとつがブロードリスニング。簡単に言えば AIによる要約、統計、クラスタリングなどを活⽤して多数の⼈の意⾒を わかりやすく、届ける、可視化する、共有するためのアプローチ。
経営者や為政者、リーダー、の言葉を配下に一方的に伝えるだけであれば、階層は極めてフラットでも成り立ちます。一斉放送、朝礼、動画配信などこれは要するにブロードキャスティングですね。
一方で彼らが、配下の100人、1000人の声を拾い上げて受け止めることは現実的に不可能です。そもそも、現在の組織構造がピラミッドになっているのは、10人、100人程度のサブカテゴリに(部署とか)にまとめて、要約する機能が必要だから。中間管理職が必要である大きな理由のひとつ。上からの意見をわかりやすく噛み砕いて現場に伝える一方で、下からの解像度の高い意見をうまく整理・抽象化し場合によっては中和してまろやかに上に伝える機能はどうしても必要なんです。

西尾(2023)主観か客観かではなく、一人の主観から大勢の主観へ, 情報処理

これは組織だけではなく、現在の民主主義の根幹をなすひとつである間接民主制が採用されている理由でもありますね。国民のすべての声を聞くことは不可能です。だから市民は代議士をたてて、自らの声をすくい上げてもらう。 

その機能の大きな要素のひとつは要約でしょ、となればある程度テクノロジー(AI)でできることはあるよねと。台湾がvTaiwanというプラットフォームで上手にやっているのがPol.isを用いたブロードリスニング。いくつかの代表的なオープンソースソフトウエアをプラットフォームツールとして使う事が多いです。Pol.isの他にも、都知事出馬された安野さんが実施してるTalk to the city などがあります。

今日の講義では、Pol.isを用いて、最近話題となっている東大の学費引き上げ議論について学生等の意見構造を理解してみました。


東京大学が授業料の引き上げを検討していることに対する学生や教員の声が取り上げられています。6月6日に本郷キャンパスで行われた緊急全学集会には約350人が参加し、「教育は富裕層のものなのか」という危機意識が共有されました。学生たちは大学側に対話を求めており、経済的困難を抱える学生への支援策の拡充も議論されています。大学側は授業料の引き上げと共に支援策を拡充する計画も検討中です。 あなたの意見はどうですか?


私の見立てでは、全員大学院生という同じステークホルダーだから結構同じような意見構造でモノカルチャーな結果になるんじゃないかなあ〜という仮説だったのですが。まあまあ読みが外れました。

polisの面白い見せ方のひとつが、みんなそれなりに同じ意見(consensus statement)と、意見が割れた意見(Divisive statements)が可視化されること。

最もconsensusがとれたstatement。東大院生(サンプル30程度)も教育が公平であるべきという意見については共通認識のようでした。
最も意見が分かれたstatement。一方で、少しマクロ的な観点である大学としての国際的競争力については意見が割れる様子。

さらに、この手の可視化ではクラスタリングが不可欠だったりします。今回は大きく4つに分かれました。注意すべきなのは、ここでのグループ(クラスタリング)の対象は投票者個人個人ではなく、あくまでStatement(意見)そのものであること。

1つ目のグループ(意見構造をグループ化(クラスタリング)したもの。)に典型的なステートメントとその賛否は、「学費引き上げは、経済的に困難な学生の進学を妨げ、公平な教育機会を損なう。」に賛成、「学費を上げる前に、大学の予算の透明性を高め、無駄な支出を削減すべきだ。」に賛成、「学費を10万円上げることで、老朽化した施設の改修が進み、学生の学習環境が向上する。」に反対を表明した意見構造といえそう。ようするに、ネガティブ側面んがあることを主張し、やるならその前にやること(透明化)があるでしょう。値上げしたところで学生の環境が良くなるとは思えない。っていう意見ですかね。

学費引き上げはあまり賛成できないねグループA

2つ目のグループは上に加えて「財政難により、学費を上げざるを得ない現状を理解し、協力すべきだ。」にもほとんどが賛成。「学費を10万円上げることで、老朽化した施設の改修が進み、学生の学習環境が向上する。」にも賛成。かなり、学費引き上げには前向きなグループですね。

学費引き上げには前向きなグループB

3つ目のグループCは、「教育機会を損なう」には賛成しつつも、引き上げれば研究の質が上がるよねということを別の議論として受け取る客観性。加えて「もし引き上げるなら自分たちのキャリア支援を充実させてよ」という現実的な視点をもった意見構造。

客観的かつ現実的な意見構造のグループC

最後の意見構造グループDは、上記Cと同様「教育機会を損なう」には賛成しつつも、引き上げれば研究の質が上がるよねということを別の議論として受け取る客観性を持っています。ただCと大きく違うのは、大学のマクロ的な状況に対しては否定的であること。一般論として教育格差が不適切なはわかるけど正直自分が当事者となるならそれは賛成しかねるぞ、と。総論賛成各論反対、のような意見構造でしょうか。

総論賛成各論反対の意見構造グループD

なかなか面白い結果になりました。より細かいレポートを見たい方はこちら。↓

Pol.isは誰でも簡単に上記のような意見抽出ができるので、ただのアンケート集約とかよりも多面性が理解しやすいんじゃないでしょうか。
ちなみに、他のテーマとして同時並行で「大学院生の新卒就職活動と研究活動のバランスについて」という議論もしてます。実はこちらのほうが構造が2極化するという。。。。↓

まとめ

この記事では下記について触れました。

シビックテックの重要性: 市民が技術を活用し、社会問題を解決し市民生活を向上させる取り組み。
Pluralityの実践: 多様な意見を取り入れ、協調的多様性を推進する方法。
ブロードリスニングの利点: AIを活用して意見を集約・分析し、意思決定プロセスを支援する技術。
pol.isの実験例: 東大学費値上げ議論での活用による多様な意見の可視化と議論の深化。
技術と社会の相互作用: テクノロジーが社会、経済、政治に与える影響を理解し、ネガティブな側面に対処しつつポジティブな側面を最大限に活用する必要性。

Pol.isの使い方については国立環境研究所の田崎先生のnoteがとても勉強になります。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?