台湾のデジタル民主主義でも使われたプラットフォームPol.isを使ってみた(Pol.isのマニュアル)

 デジタル化の時代、政策議論を行ううえで、もはや審議会のような古い形態だけに頼ってはいられません。実際、海外ではデジタル民主主義向けのプラットフォームを活用していて、これらはDPPP(Digital Platform for Public Participation)などと呼ばれています。例えば、バルセロナ市などが使っていたDecidimは、日本では加古川市が最初に導入して利用されています(加古川市のサイトはこちらHigashi氏がその活用例を詳しく報告)。また、台湾では、あの有名なオードリー・タン氏らがvTaiwanで政策議論を行うなかで、いくつかのプラットフォームを使っています(Noteの記事では、Suzuki氏が記事を書いています)。

 その中でも、気になったのはPol.isというプラットフォームでした。

Pol.isが気になるワケ!!

 なぜかと言えば、多数の参加者の意見がリアルタイムでレポートされて、どういった論点で多くの参加者の意見が近いのか、あるいは対立的なのかが分かるからです。例えば、vTaiwanでカーシェアリング(正確には、ライド・ヘイリングという。)のUberを導入すべきかが議論されたときには、下図のように大きく意見グループが分かれました。それでも、意見番号7「私は乗客を乗せたドライバーは皆、事故保険に加入すべきだと思います。」には89%の参加者が同意したことが分かるようになっています。他にも、意見番号16、30、40などは両方の意見グループで同様の意見となっていることが分かります。

図1

図1 vTaiwanで議論されたUber導入について
(左側のAグループと右側のBグループに大きく意見が分かれていることが示されている。それぞれの丸は参加者を示し、距離が近い人どうしほど意見が近いことを意味する。)

 しかも、Pol.isで出力されるレポートのページをみると、下図の上部に示されている点々(各点が論点を示す。)が示すように、意見が同様である論点左の方に位置する)から意見が異なる論点(右の方に位置する)までどんな意見分布になっているかが一目瞭然なのです。
(正確には、点々にマウスのポインタを合わせると下部にその論点が一つ表示される。下図はvTaiwanでのUberについての議論のもので、著者が論点を5つをまとめて記載・和訳したものです)。

図2

図2 vTaiwanで議論されたUber導入についての意見の分布
(この図では、右上の異なる論点の5つの内容を抜き出して記載している)

 SNSでの議論だと、エコーチャンバーという現象が起こるように、同じ意見の人達が同じ意見を出し合って、それが当然になり、異なる意見の人達を排除してしまいがち、すなわち議論者が分極化してしまいやすいのです。全体の議論がよく見えれば、異なる意見グループ同士でも結論をうまくまとめていける可能性が高まります。

というわけで、Pol.isを使ってみる 

 Pol.isは、英語圏で作られたプラットフォームなので、日本語になっているわけではありません。そこで、私が試行錯誤で使用してみた結果を報告します。日本でもこのようなツールを活用していくと、よりいい政策議論ができると思うのです。何も政策議論だけに限りません。このプラットフォームは、学校内の議論でも、会社の議論でも、地域の議論でも、議論だったら、何でも使えるのです。

1)まずは、アカウントを作る

 https://pol.is/homeのページ(下図)に行き、右上の[Sign in]のところでアカウントを作ります。

スクリーンショット (123)

2)Conversation(議題)をつくる

 アカウントができると、次のような画面が表示されます。[Create new conversation]のボタンを押して、conversationを作りましょう。
 Pol.isでは、議論したいトピック(議題)ごとに一つのConversationをつくります。地域の交通安全を議論したいなら、それで一つ。ある特定の対策の導入の是非を議論したいならそれで一つです。

スクリーンショット (126)

  次のような画面が表示されます。Topicというところには、議論したトピックを記入しましょう。また、Descriptionというところには、その概要を書きましょう。
 その上にある「Conversation is open. ・・・」というチェックボックスにチェックが入っているときには、この議論のページはすでに公開されています。完成するまでは、このチェックボックスは外しておきましょう。

スクリーンショット (131)

3)いろいろなSeed Comments(論点)を入力する 

 (上の図の)その下にある「Seed Comments」というのは、各論点のことです。参加者に意見を表明してもらいたいことを文章で記入します(後述するように全角で140字まで)。先ほどの台湾の事例でいうと「私は乗客を乗せたドライバーは皆、事故保険に加入すべきだと思います。」という文章を入力して、その下にある[Submit]というボタンを押してください。そうすると、この論点がシステムに登録されます。

 こういった論点を、最初は管理者(あなた)が少なくとも10~20程度は用意するのがよいとされています。よく考えて、大切な論点、多様な意見がありそうな論点をうまく入力してみてください。

 なお、この論点は、参加者が追加することもできます。そのときに、管理者(Pol.isではModeratorといいます。)が追加されようとしている論点を了解しないと追加が完了しないようにすることもできます。「Seed Comments」欄の下に「Customize the user interface」という下図のようなチェックボックス群がありますので、次のように設定してください。

参加者が論点を追加できるようにする ⇒ 上から2つ目のParticipants can submit commentsのチェックを入れる
管理者の了解を必要とする ⇒ 下から3つ目のNo comments shown without moderator approvalのチェックを入れる

スクリーンショット (128)

4)Conversationのその他の設定を行う

 上図のチェックボックスはその他の設定もできます。

 参加者全員がFacebookもしくはTwitterのアカウントを持っていない(使わない)場合には、一番下の2つ、それから下から4つ目と5つ目のチェックは外すのがよいでしょう。

 また、この画面で参加者が結果(手順8の図を参照)をみれるようにしたいときは一番最初のParticipants can see the visualizationのチェックも入れてください。結果を見せることで意見表明に影響を与えることがありますので、意見が一通り集まるまでは結果を表示させない、というのは

5)議論のページを公開して、参加者に伝える

 十分な数の論点が入力できたら、議論のページを公開しましょう。2)で述べた「Conversation is open. ・・・」というチェックボックスを入れてください。

 そして、左側のメニューの[Distribute]をクリックしてください。議論のページが公開されているページのURLが表示されているので、それを参加者に知らせてください。

6)参加者が論点に回答する、新たな論点を加える

 早速、そのURLに行ってみましょう。次のような画面が表示されているはずです。参加者は、四角枠の中で示されている各論点について「賛成」「反対」「わからない/どちらでもない」の三択で意見を提出します(いずれかをクリック)。

スクリーンショット (129)

 驚くことに、このページは自動翻訳がされて日本語に対応できていますよね。制作者の方々に問合せしたのですが、このページは多くの参加者のインターフェースとなる部分で大切なので、言語を検出して翻訳がされるようにしたとのことです。(なお、画面中に「140字」というところがありますよね。ここは以前は「280字」という表示でした。半角で280字なので、日本語だと全角140字しか入力できません。制作者の方に修正してもらいました。)

 議論すべき論点がないと考える参加者は、この画面の下の方にある「あなたの考え方を共有しよう・・・」という欄に、新たな論点を入力することができます。入力したら[提出]のボタンを押してください。

7)提案された論点を追加するかを判断する<手順3で論点追加に管理者了解を必要とすると設定した場合>

 参加者から追加された論点は、手順3で論点追加に管理者の了解を必要とすると設定した場合、管理者が了解するかどうかを判断する必要があります。管理者の設定画面の左メニューから[Moderate]を選んでください。次の画面が表示されます。

 「Unmodelated」のところをクリックすると、追加された論点が表示されます。それぞれの論点ごとに[Accept](追加を認める)もしくは[Reject](追加を認めない)を判断してください。「Unmodelated」の右に書いてある数字が0であることが、判断していない論点がないことを意味しています。

 なお、「Accepted」のところの数は、認められた論点の数(管理者が入力した論点は自動的にこちらに振り分けられます)、「Rejected」は認められなかった論点の数を意味します。

スクリーンショット (133)

8)入力結果をみる<手順4で結果を表示させるようにした場合>

 多くの方(少なくとも8人程度)が回答を入力すると、この画面の下方に次のような意見グループの図が表示されるようになります。
(意見の分布によっては、Pol.isのアルゴリズムがうまく異なるグループを特定できないので、8人以上でも結果が表示がされないことがありました。)

スクリーンショット (130)

 管理者は、先ほどの設定画面からも回答状況をみることができます。設定画面の左メニューから[Monitor]を選んでください。すると、次のような画面が表示されます。上から順に、12人の参加者が、全部で127の論点への意見を回答したこと、参加者一人あたり平均して10.58の論点に回答したこと、2つの追加論点があったこと、全部で15の論点が出されたこと(管理者が入力した論点も含む)が示されています。
グラフは、一人あたりの平均回答数(縦軸)が時間(横軸)とともにどのように変化したかを示しています。

スクリーンショット (132)

9)レポートを作成する

 最後に、きちんとしたレポート形式での結果を見るための手順を説明します。

 管理者の設定画面の左メニューから[Report]を選んでください。[Create report url]というボタンがあるので、これをクリックしてください。そうすると、下記のようにレポートを見ることができるURLが表示されます。

 ここで、注意があります。レポートのページは、ボタンを押した時点での結果をレポートにします。レポート作成後のその後の入力は反映されません。本当に必要なとき、つまり、議論の最終報告や中間報告をするときだけに、このボタンを押してください。
 また、一度作成したレポートのURLは消去できません。サーバーの容量をに無駄に使ってしまうことになりますので、不要にも関わらずレポートのページを作ることはやめましょう。

スクリーンショット (134)_LI

10)レポートをみる

 先ほど、作成したレポートのページに行ってみましょう。楽しみですね。しかし、次のように英語でしかレポートが作成されません(入力した論点などは、日本語で入力してあれば、その部分だけ日本語で表示されます)。

スクリーンショット (136)_LI

 そこで、自動翻訳機能の出番です。以下では、Google Chromeを使った方法を説明します(自分がいつも使っているブラウザからGoogle Translateを使ってもうまく和訳してくれませんでした)。

 Google Chromeから先ほどのURLを入力してください。英語の画面が表示されていますね。この状態でページの余白のどこかで右クリックをしてください。「日本語に翻訳」というメニューがあるので、それを選択してください。次の画面のように、無事に翻訳できたと思います。

スクリーンショット (136)

 和訳された文章は、必ずしも読みやすいものではありませんが、概ね理解はできるものです。このようにして、結果をご覧ください。

 なお、制作者に、より正確な和訳案を提案してみましたが、論点のページとは異なって多くの文章があること、アップデートもあるなか多くの言語に対応し続けることが難しいことから、今後の自動翻訳機能の向上に期待するという回答でした。

 私が作成した、より正確な和訳文章を以下に示しますので、閲覧するときの参考にしてください。

報告書
□自動更新
□色弱者用モード

概要
Pol.isは、多数の人々が意見の分かれる、あるいは複雑なトピックについて考えるさまざまな方法を特定するのに役立つリアルタイム調査システムです。このレポートを理解するために知っておく必要のあるいくつかの用語の基本的な内訳は次のとおりです。
参加者:これらは、投票して発言することで会話に参加した人々です。投票方法に基づいて、各参加者は意見グループに分類されます。
論点:参加者は、他の参加者が投票するための論点を提出することができます。論点には、送信された順序で番号が割り当てられます。
意見グループ:各グループは、他のグループとは異なる傾向で、かつ同じように投票した参加者で構成されます。
このpol.is対話は、***によって実行されました。トピックは「***」でした。
**     **       **   **
人が投票   人がグループ化  投票数  論点数
**             **
参加者1人あたりの平均投票数  論点数/記入者数

どれほど意見が分かれていたか?
左側の論点(ここでは小さな円)は同じように投票されました。全員が同意したか、全員が反対したかのどちらかです。右側の論点は意見が異なりました—参加者の意見は賛成と反対に分かれていました。(注:ここのGoogle訳は分かりにくかった)
使用方法:カーソルを合わせると、論点のテキストが表示されます。右端から始めて、最も意見が異なる論点が何であったかを調べます。
・・ ・・   ・・      ・・     ・・・・    ・・
意見が同じ論点                                                                  意見が異なる論点

過半数
下記は多くの人が同意した論点です。
全参加者の60%以上が賛成か反対かのいずれかの方法で投票しました。比較的多数の少数意見グループが反対した場合も含まれます。(注:ここのGoogle訳も分かりにくかった)
%同意した  %反対した  %パスした  %投票せず

意見グループ
計**名の参加者において、意見グループが現れました。意見グループを決定する**つの要因があります。まず、各意見グループは、複数の論点に同様に投票する傾向のある多数の参加者で構成されています。次に、各意見グループは、他の意見グループとは明らかに異なって投票しています(注:この文もGoogle訳は分かりにくかった)
グループ〇:
投票でこのグループを特徴づけた論点:

不確定な領域
**人の参加者全員にわたって、以下の論点について不確定性がありました。これらの論点を見た参加者の30%以上が「わからない/どちらでもない」と回答しました。
不確定な領域は、コミュニティを教育し、対話を開くための手段を提供する可能性があります。

グラフ
どの論点が同様に投票されましたか?参加者はどのように関係していますか?
このグラフでは、各論点は、同様に投票された論点により近く配置されています。参加者についても、彼らが同意した論点に近く、そして彼らが反対した論点からは離れて位置づけられます。つまり、同様に投票した参加者が互いに接近して表示されていることを意味します。
<ボタン>軸、放射軸、論点、参加者、グループ領域、グループ名
グラフの領域を探索するには、番号で示されている論点をクリックします。

すべての論点
モデレート(仲裁)された論点を除く、すべての論点の投票結果。
並び替え(プルダウンメニュー):論点番号、グループインフォームドコンセンサス、投票数、賛成割合、反対割合、パス割合

最後に
 本稿では、Pol.isの使い方を説明しました。ご覧いただいたように、Pol.isは議論そのもののプラットフォームというよりも、各論点についての意見投票&集計ツールといった性格を有しています(特に、集計機能が優れています)。そのため、別のオンライン・プラットフォームで議論しながら、あるいはオフラインで集まって議論しながら、Pol.isを使うということができます。ぜひ上手な使い方を考案していただければと思います。

備考

 本記事を引用するときは、次のように記載ください。
田崎智宏(2021)台湾のデジタル民主主義でも使われたプラットフォームPol.isを使ってみた(Pol.isのマニュアル)、note、https://note.com/tasaki_tomohiro/n/n8f0dd76ecd00

 それから、本記事を参考にPol.isを使ってみたら、ぜひとも活用事例をお知らせください。差し支えなければ、活用事例としてまとめさせていただきます。

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