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ヒ素(2) 毒?薬?

ヒ素を代謝している微生物の報告、これは結局ヒ素耐性を持つだけだったのだが、に始まり、ヒ素が生体内でどうのように毒性を表すのか、そしてそれはヒ素のどのような化学的性質からもたらされるかについて先日のnoteで書きました。先日書ききれなかった人間とヒ素の関わりについて今日は書きたいと思います。

ヒ素は毒なのか、薬なのか?

この問いには「両方だ、そしてボルジア家の人間に尋ねるか、医師に尋ねるかでその答えは違ってくる」と答えていた人がいた。

いわゆる毒と言われる天然もしくは人工の化学物質は濃度によって毒にもなるし薬にもなりうるというのはよく知られている。ここではせっかくなので「毒の王様」「王家の毒」とも言われるヒ素と人間との関わりの歴史をかく。

ヒ素は上記の私のnoteでも記載した通り、生物の必須元素のリンと化学的には似通った性質を持っていながら、その原子サイズの僅かな違いに起因して、生命にとってカタストロフィックなダメージを与えてしまう。細胞内に入ったヒ素はタンパク質、特にその中の硫黄と容易に結合することでその分子を機能不全にする。微量であっても長期的に摂取されると、生物は衰弱、錯乱、麻痺などの症状を引き起こし死に至る。

ヒ素は無味無臭で無色のため、かつては計画殺人に利用されていた。ルネサンス時代のイタリアのボルジア家が暗殺に好んで使ったとされ、「世継ぎの粉」として重宝されていたという。

一方で紀元前5世紀ごろ、医学の祖として知られるヒポクラテスは潰瘍の治療にヒ素を用いたという。

さらに近代でも、18世紀に開発された、喘息や癌などの治療に用いられたファウラー液(フォーレル液?)は1%の亜ヒ酸カリウムを含む溶液だったようである(100年以上使用されていたが当然現在は使われていない)。また20世紀の初めには梅毒の特効薬としてサルバルサンという薬も開発され、使用されていた。ラテン語では「世を救うヒ素」というらしいです。これはヒ素の副作用の存在と、ペニシリンの登場によって使われなくなったようですが。

19世紀後半には近代医学の父とも言われるウィリアム・オスラーがヒ素は白血病に最もよく効く薬であると発表し、砒素化合物からなる薬は現在でも急性白血病に有効とされているようである。


ヒ素って毒のイメージ、 和歌山毒物カレー事件とか強烈ですよね、が強いですが薬としての利用の歴史も長くて不思議です。

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