カステラに対する冒涜
カステラ屋さんに叱られる覚悟はある。
と言うのはあまりに大袈裟かもしれない。私のこの僻地のnoteが、カステラを作る人々に届くことはないだろう。叱られることがないとわかっているからこそ、私はこのnoteを書くことができるのだ。
ある日私は、カステラに対する冒涜ともとれる行動をとってしまった。
その行動をここに記す前に、少しだけ言い訳をさせて欲しい。
私はカステラが、心から好きだ。愛しているとまでは言えないが、カステラが大好きなことは間違いない。公言してもいい。20年近く前の話をして申し訳ないが、夫と結婚する少し前の話をさせていただくと、自宅で手作りカステラを作っていた。恋人へのプレゼントだったのだろうか。ぐりとぐらのようにたくさんの動物たちが集まってくるのを期待していたのだろうか。いや、多分、違う。腹一杯カステラを食べるために、私は大きなフライパンでカステラを作っていた。それほどまでに私はカステラが好きだった。燃え上がるようなカステラへの熱は、今や少しばかり下火にはなっているものの、カステラへの熱は途切れることなく私の心をほんのり明るく照らし続けている。だから私は長崎へ旅行に行くと、必ずカステラを購入する。とはいえ、街中でカステラを目にしても、必ず買うということはないので、愛とは言えないと思っている。
とある日、私はXでこんなポストを見かけた。
やるしかないじゃろー!
と私が心の中で叫んだことは、想像に難くないだろう。
私はこれを金曜日の夜のお楽しみにすべく、木曜日にカステラの切れ端を買ってきた。金曜日に買い忘れてしまったら、私の予定が狂ってしまう。絶対に金曜日の夜にカステラとウイスキーとアイスをコラボさせるのだと、私は木曜日にスーパーで真っ先にカステラの切れ端が入った袋をカゴに入れた。
ちゃんとしたカステラは、そのまま食べたいしなぁと思ったので、切れ端で試すことにした。切れ端も間違いなくカステラだし、なんと言ってもお買い得である。
まずはカステラを一口。
口に含むとしっとりとした生地が、さらに湿度を帯びていた。冷蔵庫で冷やしていたこともあり、口の中の熱がカステラで冷やされる。舌に転がしたカステラを上顎と舌でじわっと潰すと、じゅわりとウイスキーの風味が口の中に広がった。甘くて卵たっぷりのカステラと、ウイスキーの相性が最高。ああ、禁断。大人の醍醐味。ブランデーも絶対合うと私は確信し、次回はブランデーで試したいとほくそ笑んだ。
少し柔らかくなったバニラアイスをスプーンで掬う。カステラと一緒にバニラアイスも頬張ると、口の中がとろっとろになった。どこか官能的に甘さとお酒の芳醇さが口の中で広がる。酔っ払っていても美味しさがよくわかる。ああ、美味。
果たしてこの行為は、カステラに対しての冒涜となるのだろうか。
いや、きっとならない。そうであって欲しい。カステラ屋さんにもそう捉えていただけるだろうと、私は信じている。これは、カステラをさらに美味しく、そして夜のお供とするために必要な一手間だ。
カステラには表も裏もない。
あるのは、上と下。
そして、もしかすると昼の顔と夜の顔もあるかもしれない。
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