僕のポケットの未来に、4人並んで映画を見る姿は映っているかな
46歳男、43歳女、16歳男、10歳男。
三月末日、小さな子どもを連れた親子連れに混じり映画館の座席に仲良く並びドラえもんの映画を見ているのは、多分想定の年齢層より若干、いや少しだけ年齢高めな四人。その四人は、紛れもない猿荻家の面々である。
高二と小五の息子を持つ私は、ドラえもんもクレヨンしんちゃんももう卒業したものと思っていた。しかし今回のドラえもんの映画の主題歌がVaundyということで、今年小学五年生になる息子と見に行こうかという話になっていた。春休みにでも見に行こうよ、と。
年度末でバタバタしており、そのことをすっかり忘れていた私に、3月30日の土曜日、息子が「明日、ドラえもんね!」と元気よく伝えてきた。本当はさくらまつりにでも行こうかなと思わんでもなかったが、今年は桜の開花が遅い。まだ咲き始めと言ったところだったので、私はまあいっかということで次男の希望どおり日曜日に映画を見ることにして、早速映画のチケットを予約することにした。
夫も映画を見るかどうかを、念のため確認。
「別にいいよ〜」
長男も行くかどうかを念のため確認。
「ポップコーン食べに行こっかな〜」
二人とも行くとの事。
おお、四人勢揃いか、と私は思う。
四人揃って映画を見に行くことは久しくなかった気がする。
長男は友達と映画を見に行くことが多いし、夫は週末釣りに行っていることが多いので映画を見に行くことは少ない。私は基本的に一人で見たいものを見に行くし、次男が見たいものがあれば、私と次男の二人あるいは夫も都合を合わせ三人で見にいくことがほとんどだ。
久しぶりの四人での映画館。それが、ドラえもんになるとは。
私たちは早起きをして支度をし、愛犬ポッキーにしばしの別れを告げ、映画館へと向かった。予約していたチケットを発券し、ポップコーンを購入。早起きをしたため朝食を食べていなかったので、ポップコーンだけでなくチュロスにチキンにホットドックにポテトにと、そりゃもう好き勝手選んだ。早めに映画館に入ってよかったと私は思う。ギリギリに入っていたら、そりゃもうくちゃくちゃとめちゃくちゃ大迷惑な客であろう。
大量の食べ物を抱え私たちは映画館に入った。
ドラえもん映画お決まりの、のびたによる「ドラえも〜ん!」の大絶叫で始まるのかと思いきや、今回はそれがなかった。少し寂しい気持ちになったけれど、今はそれがスタンダードなのかもしれない。時代は変わっていくのだ。私たちは最後までちゃんと四人並んで映画を見た。ポップコーンの入れ物に残っていたバター醤油のポップコーンを食べながらエンドロールを眺め、今回の映画を見に来た目的であったVaundyを聴いた。
口に放り込んだポップコーンを噛んだ瞬間、がりっと口の中で音がした。やっぱVaundyいいなと思いながら、くそ、これ弾けてないコーンじゃないかよ、と弾けきれなかったコーンをお手拭きにペッと出す。
僕の、私のポケットにも未来が入っているんだろうか。
歌を聴きながら私はそんなことを考える。
ポケットに入っている未来があるとすれば、きっと私はそのポケットの中の未来に期待し、そして夢見ているのだろう。多分それは右のポケットに入っていて、私は右のポケットにいつも手を突っ込んで、前を向いて歩いている。右のポケットには、キラキラとした言葉たちと、どこかで拾ってきた一等星と、少しだけ切り取った小さい頃の私の欠片が無造作に突っ込まれている。
たまにふとした時に左のポケットに手を突っ込むと、なんだか左のポケットはあたたかい。左のポケットには、誰の宝物にもなり得ない道端で拾った小石と、ぐしゃぐしゃになったチラシの裏の落書きと、ボロボロになったミニカーと、屈託のない笑顔の写真。じわっと左手から体の真ん中にかけて熱を帯びるようなあたたかさが広がって、私は思わず振り向いてしまう。
四人で並んでドラえもんの映画を見た思い出は、吐き出したポップコーンの種と一緒に私の左のポケットに入っていく。右のポケットに四人で並んで観る映画館の様子があるのかどうかは、今の私にはわからないけれど。
いつまでもいつまでも一緒にいれるわけじゃないんだよと、左のポケットから歌が聴こえた気がした。
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