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コイン・チョコレート・トス/4.0グラム

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🪙 4.0グラム

アラームの音。
遠慮気味の。

壁の薄いアパートで隣の部屋に聞こえないように、こっそりとアラームは鳴る。

4:20

今日は、手に届く距離にスマートフォンを置いた。
私は、すっと手を伸ばし、アラームを止めた。

なんでこんなに早起きをする必要があるのか。
それはもちろん、誤配新聞を確認するという任務のためだ。

今朝早起きをするために、昨日は10時には就寝した。
どうせ、やることなんてない。

見たかったドラマも見れないし。
夜ご飯も食べる気にならなくて、暇だったし。

変な時間にカップ麺を食べてしまったせいで、お腹もあんまり空いてなかった。

ものすごく食べることが好きなのに、最近は食への関心が薄い。
色々あって、食べる気にもならないのは仕方がない気もするけど。

ウィリアム・ジェームズの名言「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば人生が変わる」の前に「食べ物が変われば心が変わる」を追加して欲しいと思っているほど、食は人を変えると思っている。

それだけ食を大事にして生きてきたのに。
ちょっと精神状態が悪くなってきたからって、食事を疎かにするなんて情けない。

心なしか肌も荒れてきてる気がする。
これまでの美容貯金を使い果たす前に、なんとか生活を元の水準に戻さなければならないことはよくわかっているけど、如何せん精神状態が悪すぎだ。

今日はなんとしてでも、美味しくて体にいいものを食べよう。

少しずつ頭の中がクリアになっていき、冷静さを取り戻していく自分に少し安心した。
あのまま家にいたんでは、こんな風に考えられなかった気がする。
一旦、悟と離れたことで冷静になれてる。多分。

正直、悟の浮気のことは、何が真実なのかはわからないと思ってる。
脅されていたのが本当なのか、実は以前から浮気をしていたのか、元々浮気性だったのか。
ただただ今となっては、二人で過ごすことが楽しかった日々が幻だったように思えてしまう。

浮気されたことより、義務的なセックスというフレーズが悟の口から出てきたことが、悲しかったような気さえしてきた。

私には、家庭を持つということや子を望むということが、当たり前だという先入観もあった。
多分、それは家庭環境によるものだと思う。
実家にいれば幸せだったし、何不自由なく育ってきた。

私は恵まれていた。

実家のような家庭を築きたいという気持ちがあった。
幸せの象徴は私の身近にあって、それを無意識のうちに求めていた。

結婚の執着地点に子育てを置いたのも、良くなかったと思う。
妊娠が結婚生活の目的になっていた。
最近は子どもを望まない夫婦もいるし、いろんな事情で妊娠が難しい人もいるのは知ってたけれど。
でも、それは自分のことじゃなくて、フィクションのような、どこかファンタジーのように思っていた気がする。

子どもができない理由を深く考えたくなくて、食べ物にこだわって、生活習慣にもこだわって、基礎体温もつけて、妊娠しやすいという食品を調べて積極的に食べた。
サプリメントもとった。悟にもそれを強要した。

それが1年続いた。不妊治療には踏み切れなかった。
どちらかに問題があったらと考えるのが怖かった。

パート先の先輩が
「3人目の時はセックスなんてしてないよ。私、マリア様なの」
と冗談めかして言っていた。体外受精だったらしい。

珍しくもない話だけど、どう返答していいのかわからなかった。

私はできれば自然に妊娠したいと思っていたし、まだ、30歳になったばかりだし、焦らずとも、と楽観視したい気持ちもあった。

そのうちにできるだろう、と。
そんな風に口では言っていたものの、内心はそうじゃなかったのかもしれない。その結果、いろんなことにこだわりすぎているのは、私自身も気づいていたような気がする。

私の必死さが悟には痛々しく見えたのかもしれない。

『義務的なセックス』

このたかだか8文字に悟の妊活への考えが詰まっているような気がしてならなかった。もしかして、佐藤佑美が勝手に言っただけで、悟の言葉ではないのかもしれないけれど。

すでに悟の言葉全てに懐疑的になっている私には、悟がそんなことを言うはずがないという信頼が、ボロボロと崩れてきているような気がした。

悟はよく「幸子とだったら二人でも楽しいんだし」と言っていた。

もしかすると本音だったのかもしれないけど、当時は悟が私のこの必死さを横に逸らそうとしているような気がして、素直に受け取れなかった。
今のひねくれた私は、もっと素直に受け取れない。
妊活をあまりよく思っていない悟の抵抗だったのかもしれないとさえ思う。

心に距離があったのかもしれない、なんて想像までしてしまう。
心が離れてたなら、浮気くらい平気でするんじゃないの?
なんてことまで考えてしまう。

全然、冷静なんかじゃない。
まだ、私の中で結論は出せない。

でも、今は、新聞だ。
謎の誤配新聞が届いているかを確認することが、今日の任務。

悟とのことは、その次に考えればいい。


カタン。

新聞が入った音がした。私は、布団を蹴り飛ばす。

部屋は電気ファンヒーターのおかげで今日も暖かい。
私は新聞受けから新聞を取り出した。
まずは日付を確認。

令和X年12月22日(月)

やっぱり誤配。タイムスリップができる。
私の心は弾んだ。怖いなんて感情は全くなかった。
どうにでもなれという気持ちの方が強い。

なんだかこの誤配は私に何かを伝えようとしているのではないか、と言うような気さえしていた。

何せ、これまでの誤配された新聞の日付は全て振り返りたくない、非常に嫌な日だったんだ。
タイムスリップをすれば、もしかすると何かがわかるかもしれないという期待さえ抱き始めていた。




12月22日に何があっただろうかと、考える必要は全くなかった。

私がパートで働いていた勤務先を辞めた日だ。

みんなとても良い人たちばかりで、いい環境だった。
自宅からも一駅だったし、歩いて行くことだってできた。

時間も10時から夕方の4時までとちょうど良い時間帯。
得意な書類整理やデータ入力だけだったのもよかった。
電話対応をすることもあったけど、基本的には取次がメインだったし、苦情の対応も少なくて、快適な職場だった。

ただ一人の社員の存在を除いては。

隣の係の社員の田中。
こいつがどうにも不愉快な男だった。

社員、パート関係なしに女性と見れば見境なしに声をかける。
単にコミュニケーション能力が高いのかと思えばそうでもない。
営業職なのに事務所にいることが多く、外回りをしている様子があまりない。

成績も常に最下位で、なんでこの男がクビにならずに済むのだろうかと思っていた。

先輩の林さんに聞いたことがあった。
「なんで田中さんって、辞めさせられたりしないんですか?」って。

「ああ、田中さんでしょ。コネ入社なんだって。ここのメインの取引先の重役の息子かなんかだって噂。だから好き放題してるらしいよ。仕事もできないから、親の会社には入れなかったんだろうって話だけどね。迷惑な話だよね。臼井さんも、気をつけてね。前に田中さんに気に入られて、フッちゃった子が辞めざるを得なくなっちゃったことがあったから」
林さんは、口早に、そしてこっそりと教えてくれた。

「え? その話、ホントですか? ヒドい話ですね! まあ、私は大丈夫ですよ。結婚してるし」
私は思わず眉間に皺がよる。嫌な奴がいるもんだなと思った。

「そうだといいけど。まあ、触らぬ田中に祟りなしだからねっ」
林さんは口早にアドバイスのおまけまでつけて田中情報を教えてくれた。

田中は仕事もしないし、邪魔ばかりしてくる迷惑な男だった。

男性社員の仕事の手伝いなどしないが、女性社員やパートの手伝いは率先してしようとする。手伝いならばいいのだが、とにかく邪魔なのだ。
やたらとベタベタと触ってくるし、余計なアドバイスが多い。

わかったふりをして、いや、本人はわかっていると思っているんだろうけど、どれもこれも知識が中途半端で、何の役にも立たないことばかり教えてくる。

どっからどう見てもセクハラ、パワハラだと思うようなことがあっても、声をあげにくい状況だった。
課長はそれを見かねて、タイミングを見計らっては田中に仕事を振って、引きがしてくれては、いた。

課長も大変なんだろうな、とは思った。

12月頃から田中の私へのセクハラはエスカレートしていた。
体のラインがでるニットを着ていたのがよくなかったらしい。

私がボディラインが出る服を着るのはスタイルの維持のためで、男受けなどは全く意識していなかった。
好きなものを着てるだけのこと。

愛想よく対応するのも、分け隔てなく接しているだけで、田中が好きだということではない。
社会人として当たり前のこと。

なのに田中は、どういうわけか私が田中に気があると思ったらしい。

クリスマスを前にした12月。
田中は、私に積極的に接触してくるようになった。

最初はいつものことだと適当にあしらっていたけど、結婚しているということを気にして私が積極的になれないと天才的な勘違いをした田中は、私に執着するようになった。

そして来たる12月22日。

課長がクリスマス限定のチョコレートのボックスを買ってきてくれた。
3時のおやつに食べましょうという話でみんな盛り上がった。
人気のチョコレート専門店のチョコレート。

私は14:40頃、コーヒーを淹れるため、一人給湯室にいた。

私はチョコレートがとても好きだ。
課長が買ってきてくれたお店のチョコレートも大好きだったけど、クリスマス限定商品は食べたことがなかった。
クリスマス期間になるとその店はいつも長蛇の列になった。
あまり並ぶのが好きじゃない私は、長蛇の列を横目で見て羨ましいなと思いつつも、クリスマス限定商品に手を出せずにいた。

給湯室でコーヒーを入れている間、チョコレートの味を想像した。
口の中からじわっと唾液が上がってきて、チョコレートの味がしたような気がした。

その時、給湯室に足音が近づいてきた。
林さんかな? と思った。
コーヒーを運ぶのを手伝いにきてくれたのかな、と。

「林さん、ありがとうございます」

と振り返るとそこにいたのは、田中だった。
私が一人になるところを見計らっていたらしい。

私が一人でいることを確認すると、田中はいきなり私に抱きついてきた。
耳元で「やっと二人きりになれたね」と囁いた。

あまりの気持ち悪さに、私は「ぎゃあ」と叫び、田中を突き飛ばした。
そして思わず田中の顔面に平手打ち。
田中の黒縁メガネが吹っ飛び、カラカラと給湯室の外まで飛んでいった。

突然平手打ちをされて、かっとなった田中が私のニットを掴んだ。
田中の右手がわなわなと震えている。

ニットが伸びるじゃないか、お気に入りなのに、と余計なことを考えてしまった。
逃げるのが遅くなった。
私は殴られる覚悟でぎゅっと目を瞑った。

「どうしたの?」林さんの声がした。

コーヒーを運ぶのを手伝いに来てくれた林さんが、叫び声を聞いて慌てて駆け寄ってくれたのだ。

林さんは給湯室に入ろうとした時に、給湯室の前の廊下に落ちていた田中の眼鏡を踏んづけてしまった。
バリッと音がして、フレームがひしゃげた。

「えっ?! 何?」慌てた林さんが、腰をかがめて手を足下に伸ばす。
靴の下敷きになったひしゃげた眼鏡を手にとった。

「メガネ? なんでここに?」と不思議そうな顔の林さん。
田中が林さんの手のメガネをひったくり、給湯室から慌てて出て行った。

林さん背中から後光がさしているように見えた。
「マリア様」
私は思わずつぶやいた。

結局、私は高級チョコレートを食べ損ねた。

その後、事務所に戻ると、田中がないことないことを課長に申し入れていた。
職場の誰しもが田中に非があることはわかっていたけど、ここで口を出せば火の粉が自分に降りかかることもわかっていた。

いじめを見て見ぬふりをするのは誰しも心が痛む。
幸いにも私はパートだったし、夫が正社員で働いている。
ここを辞めたからと言って路頭に迷うわけではなかった。

林さんが心配そうに私に寄り添ってくれたが、あの田中の顔を見なくて済むならそれでもいいかという考えが頭をかすめた。

あまりみんなに心配をかけたくなかったし、「大丈夫ですよ」と笑顔で言いながら私は退社のために荷物をまとめた。

課長が買ってきてくれた高級チョコレートの紙袋に、必要なものをまとめながら田中の様子をちらりと横目でみた。
田中の左頬にくっきりと平手打ちの赤い後が残っているのを見つけた。

私は自分の荷物をまとめると、机を拭いた雑巾を握りしめた。
田中のところまでカツカツと歩いて行き、
「左の頬赤くなってるんで冷やしたほうがいいですよ」
と田中のデスクに雑巾を叩きつけた。

精一杯の抵抗だった。

そんな日だった。
帰って悟に話をしようとしたけど、ちょうどその日は年末進行の仕事があるらしく、悟は残業だった。

次の日の朝、悟に退職の話をした。悟は心から心配をしてくれた。
「年末だしゆっくりしたらいいよ」と優しい笑顔に癒されたのを思い出した。




この日に戻る。
何をしよう?

やっぱり田中への報復だろうか。
田中が給湯室で私に抱きついたりしなかったら、仕事を辞める必要もなかったんだ。

年始から仕事を探し始めたけど、あの会社ほど良い会社は見つからなかった。
「焦るといいところ見つからないし、ゆっくり探せばいいよ」
と悟が言ってくれていたので、春頃までに仕事を探すことに切り替えたものの、やっぱり田中を除けば、あの会社への未練があったのは事実だった。

田中の相手なんか適当にしておけばよかったと後悔したのも間違いなかった。


報復の二文字が私の中で引っかかった。

仕返しは何も生まない、そう言われて育って生きてきた。
恨みを恨みごとで返したところで、気が晴れるとも思えなかった。

でも、それならなぜ今日も新聞が誤配されているんだろうか。
意味なんてないかもしれない。
それでも、意味があるような気がしてならなかったし、意味を見つけたかった。

どうしよう。
タイムスリップしようか、するまいか。

どうにでもなれ、なんて思ってたけど、
実際にどうにでもなる、ってなると、どうしようってなる。

これが理恵だったら、悩まずに行けるんだろうけど。
どうにも私は、躊躇してしまう。

そんな時は、と私はショルダーバックから黒いものを取り出した。
お手製ブラックジャック。

数年前にYouTubeだったかTwitterで作り方が流れてきて、作ったものだ。
厚手のハイソックスに小銭を詰めて小銭の上あたりをきゅっと一つに結ぶ。
振り回すと、遠心力と小銭の重さで車のガラスさえも割れるという武器になる。

銃刀法に違反しない簡易的な武器。

それに、お金に困った時は、小銭も使える。
一石二鳥の優れもの。

当時、新幹線の車内でナイフを持った人が暴れ回ったり、バス停で突然男が包丁を振り回すというニュースが連日テレビ画面から流れていた。
連日世間を賑わせていた犯人は被害者に恨みがあったわけでもなく、完全な無差別だった。

いつどこで事件に巻き込まれてもおかしくない時代になったとメディアは煽り立てた。

ただでさえ夜道を歩くのが怖い私。
昼間ですら出歩くのが怖いと思うようになってしまった。

悟はそんな私を心配して、お手製ブラックジャックをお守りに作ってみようと提案してくれた。
私は厚手の黒のハイソックスを買ってきて小銭を詰めた。
使い勝手があった方が良いよね、と500円玉や100円玉を多めに詰めた。
1円玉や5円玉は念のため程度。

最後に悟はコインチョコを5枚入れた。

「なんでコインチョコなんて入れたの?割れちゃうんじゃない?」
と私は悟に尋ねた。

「割れるようなことが起こらないようにっていうおまじない。それに幸子、すぐにお腹空いたって言うからね。ここにコインチョコを入れておけば、非常時に食べれるし」
そう言うと、悟はいたずらっ子のように笑った。
目尻に皺が寄る。
くしゃっとなるその笑顔が私はとても好きだ。

「それに、何か悩んだ時にはこのコインチョコでコイントスをして決めようよ」
「どうやって?」
私が聞くと、悟は一枚コインチョコを手に取った。
そして、折り曲げた人差し指の上にのせた。
親指でコインチョコを弾く。
コインチョコは宙をくるくると舞う。

最高到達点に達したコインチョコはそのまま真っ逆さまに落下。
悟はそれを左の手のひらで受けて、右の手のひらでさっと隠す。

「表だったら、迷わず進め。チョコはエネルギー源になる。裏か割れていたら、ちょっと待て。進まずにチョコでブレイクタイム」
「結局、チョコ、食べるんだ」と私が笑うと、悟は右の手のひらを開けた。

「表だ」悟が言う。

「迷わず進め!!」私は悟の手のひらのコインチョコを奪うとアルミを剥いでパクッと食べた。

「あーあ。割れてるかどうかちゃんと見ないと、幸子」
顔を見合わせて二人で笑った。

その日からお手製ブラックジャックは、急に自動販売機で飲み物を飲みたくなった時や、レジであと10円あれば一万円札を崩さなくて済む時、夜の散歩中に急にビールが恋しくなった時や、新しくできたパン屋さんに並んでいる間にお腹が空いてしまった時、パスタかお寿司で悩んだ時なんかに活躍した。

本来の目的には使ったことがなかった。
小銭を作っては入れ、コインチョコを買ってきては入れた。

私は、ショルダーバックから取り出したお手製ブラックジャックの口を開けた。
4枚入っていたうちのコインチョコを一枚取り出す。
1枚は家を出る時に食べてしまった。

私は悟みたいにうまくコインチョコを投げられない。

つまみ出したコインチョコをそのまま天井に向かって放り投げる。
力加減がよくわからなかった。
コインチョコは勢いよく宙を舞い、低い天井にコツンとぶつかるとそのまま急降下した。
私は慌ててコインチョコを両手でキャッチする。
そろりと左手を下にして、右手を開けた。

「迷わず進め?」

私はコインチョコのアルミをゆっくり剥がす。
割れてない。
やっぱり「迷わず進め」だ。

私はコインチョコをそのまま口に放り込んだ。

久しぶりのチョコレート。ミルクチョコレート。
じんわりと甘いチョコレート。
コーヒーが飲みたくなった。

缶やペットボトルに入ったコーヒーじゃなくて、ちゃんと豆から挽いたコーヒー。




早起きをしすぎた私は、新聞を枕元に置くと再び眠りについた。

目が覚めると私は白湯を飲んだ。
うどんのアルミ鍋に残ったお湯でポーチドエッグを作ると、買っておいた食パンにのせた。
使い切りの小さなマヨネーズの蓋をあけ、ぐるりとマヨネーズをポーチドエッグの上からかける。

食パンを二つ折りにしてガブリと頬張った。
卵の黄身がとろりと顔を出し、マヨネーズと絡まる。

柔らかい食パンが卵とマヨネーズのマリアージュを羽布団のように包み込んだ。口の中がふんわりとトロトロで満たされる。

「んまっ」

とその瞬間、黄身が流れ出す。
私は慌てて口で黄身を堰き止め、大切なエネルギー源をこぼさないようのもぐもぐと食パンを食べ続けた。

腹ごしらえを済ませ、アルミ鍋をすすぐと私は軽く変装をした。
マスクをつけ、サングラスまでした。

完全に怪しい人だけど、知り合いに見つかっては困る気がした。
それに自分自身に会ってしまったら、どうなるのかもわからなかった。

なんせ、タイムスリップは未経験だし、ノウハウ本なんかもない。

もしかして、どちらかの私が消滅してしまったらどうしよう、なんてことも考えた。
できるだけこっそり行動しようと思った。
どこにリスクが孕んでいるのかが不透明すぎる。

田中への報復の方法は考えてない。
とりあえず、この誤配の新聞を手に、パート先の職場まで向かう必要があるのは間違いない。

ここから電車で20分前後。
果たして私は電車に乗れるのだろうか。
どうなるかはわからないけど、コインチョコの決断に従うことにした。

私はショルダーバックを手に、家を出た。
新聞は落とさないようにショルダーバックにしまいこんだ。

玄関を出て、まずは携帯電話の日付を確認。

令和X年12月22日(月)

ショルダーバックに入れていてもタイムスリップはできるらしい。
よかった、と一安心する。

私はそのまま駅へと進む。
特段顔見知りがいるわけじゃないけど、肩に力が入る。

商店街は完全にクリスマスムードで、すでに二ヶ月以上前に終わったはずのクリスマスの飾り付けを見るのは違和感があった。
季節はずれのような気がしたが、的外れはのは私だと思った。

駅の改札でICカードをかざす。改札が開いた。
問題なく入れるみたいだ。よかった。
たまに私をチラチラと見てくる人がいるが、きっとマスクとサングラスのせいだろう。

未知のウイルスが流行した時は、みんなマスクをしてたけど、今はもうほとんどの人はマスクを外している。

電車の中はガラガラで安心した。
先日のような嫌な思いはしたくなかった。
何かあってもすぐに逃げられるように入り口付近に立つ。

窓の外の景色が飛んでは消えていく。
いつもならなんとも思わないけど、なんだか今日は感慨深かった。

12月も2月も季節は同じ冬なのに、どことなしか空気が違う。
2月の空気はしんとした静けさがあるが、12月の空気は、華やかで浮き足立っている。
吸い込めばヘリウムガスのように、体がふわふわと飛んでいきそうだ。

降り慣れた駅の改札を通り、職場へと向かう。
通りの木は夜のライトアップを控え、まだ光を灯していない電球を体に巻き付けている。
ライトアップすればとても綺麗だけど、昼間のイルミネーションはなんだか間抜けで滑稽にみえた。

どのお店もクリスマスムード一色。
こんなことでもなければクリスマス気分を楽しむのにな、と思いながらも足は職場へと向かっていた。

少し、足早になる。
向かってくる人とすれ違いざまにぶつかってしまった。
「すみません」「いえいえ、こちらこそごめんなさい」
お互いに会釈する。

時刻14:31。
私がコーヒーを入れようかなと考えているくらいの時間だ。
急がなければ。

若干息を切らし、私は会社に着いた。
建物の中に入る。
守衛に声をかけられないかとヒヤヒヤしたが、守衛は目の前を通る私のことは気にしていない様子だった。

それどころか、エレベーターに乗っても誰も私に挨拶をしない。
私は違和感がないようにと、挨拶をした。
けれど、エレベーターの乗客は、まるで私が見えてないみたいだ。

私はエレベーターの中の鏡をみた。

そして、ギョッとした。
なんと! そこに私の姿はない!

透明人間?

いやいや、ここに来るまでの間に、人にぶつかった。
会話もした。
間違いなく、私には実体がある。

そういえば、新聞販売店の人にも私は見えてたし。
だけど、私のことが見えていない人もいるらしい。
鏡にだって映ってない。

なんだか、幽霊みたいだ。
生き霊なのか? 私は。

私は一つの仮説を立てた。
もしかするとタイムスリップ時点で、私を認識していない人には見えて、私を認識したことがある人には見えないのかもしれない。

そんなことを考えているうちに、エレベーターは事務所がある階に到着。
私がエレベーターを降り、事務所へと向かうと、廊下にカラカラと乾いた音が響いた。

目の前には田中のメガネ。廊下の向こう側からマリア様が小走りで走ってくる。

マリア様は、全く私に全く気づいていない。
マリア様と私は急接近。
キスしそうなくらいの距離。
しかし、マリア様は私には気づかない。

やっぱり私は見えてないんだ。

マリア様はバキっとメガネを踏んだ。
そして、給湯室の中にいる田中と12月22日の私に気づく。
田中がマリア様の手のメガネを奪い、給湯室から去る。

私は何もできなかった。
ただそこに突っ立って、12月22日の出来事を目の前で再生しなおしただけだ。

マリア様が12月22日の私に何があったのかを尋ね、12月22日の私は経緯を説明する。
「大変だったね。大丈夫?」とマリア様が12月22日の私を気遣う。
12月22日の私は「大丈夫です」と答える。
12月22日の私の手は少し震えている。

そうだ。怖かったんだ。

私は12月22日の時の気持ちを思い出した。

沸々と怒りが沸く。
やっぱり田中に報復を!!

私は12月22日の私より前に事務室に入った。
やっぱり誰も私のことに気づいていない。
完全に透明人間だ。しかし、好き勝手するわけにはいかない。

だって歴史を変えたらダメなんでしょ?
タイムトラベル系の映画もドラマも小説も、歴史を変えたらダメだって言ってるし。たまに変えてしまうこともあるけど。

こんな嫌な未来なら変えたって良いんじゃないかって思うけど、透明人間に何ができるのかは、全く想像もつかない。

その間、田中は課長へないことばかりを話している。
全てデタラメだ。
私が色目を使っただとか、仕事を押し付けられていて困っているとか、電話の取次も雑なために取り次がれた方が余計なクレームを受けることになるだとか、入力がいつも間違っているだとか。

誰も信じないのに、さも真実かのように真剣な顔をして話し続けている。

12月22日の私がマリア様と事務室に戻ってきたのも気づかずに、田中は嘘八百のうちの第221話くらいを話している最中だった。
課長が12月22日の私の方を見て、渋い顔をして頷いた。
12月22日の私は、ため息をつきながら頷いている。

田中はその顔を見て、少しほくそ笑んだ。胸糞悪い。

田中は話終えると、満足した様子で自席に戻った。
私は、その隙を見逃さなかった。

私は田中の席の背後に立った。
田中が自席の椅子を引いた。
その瞬間、私は田中の椅子をもう少しだけ引いた。
田中は椅子と自分との距離を見誤った。

そして、そのまま大きく地面に尻餅をついた。
どすんと大きな音がし、田中はひっくり返る。
今度は椅子で頭を強打。

「痛ぁっ!!」

田中の大声が事務室内に響き、皆が田中に注目する。
田中の顔が赤くなる。怒っているのか恥ずかしいのかもわからない。
おかげで左の頬の手形が薄くなった。
腰を抑えながら「いたたたた・・・。大丈夫ですからみなさん仕事に戻ってください」と田中は言い、椅子の位置を確認し椅子に座ろうとした。

私はその隙に再び田中の椅子を引いた。

田中、尻餅リターンズだ。
田中は再び先ほどと全く同じように尻を強打し、再び頭も強打。
周りがくすくすと笑いだす。
今度は田中の顔が恥ずかしさで赤くなるのが分かった。

流石に3回目はかわいそうなので、私の報復はこれにて終了。

12月22日の私もくすくすと笑っているのが見えた。
きっとこれで、雑巾を叩きつけるようなことはしないだろう。
12月22日の私は、田中に神様からの罰が下ったと思うに違いない。
会社を辞めるにしたって、雑巾を叩きつけて辞めるのは感じが悪いと思ってたんだ。

少しスカッとした気持ちで私は会社を後にした。

ちょっとだけ気持ちが晴れた。
ささやかな報復だったけど、納得のいくものになった。

せっかくなのでクリスマス気分を楽しんでから帰りたいと私は思った。
そもそも、今日は美味しいものを食べようと思っていたのだ。
体にいいかどうかは別にして、食べ損ねた高級チョコレートを買って帰ろう。時間はいくらでもある。たぶん。

課長が買ってきてくれたチョコレートの店は会社と駅の中間地点にある。
私はまだ光始める前のイルミネーションを眺めながら歩いた。
しばらく歩くとお目当てのチョコレートショップが見えた。長蛇の列。
私はその最後尾に並んだ。

店員のお姉さんが30~40分待ちですと声をかけながら歩いていた。
「限定のチョコレートのボックスは買えますか?」と前に並んでいた若い女の子が尋ねると「大丈夫ですよ。まだ十分に在庫はございます」と店員のお姉さんはにこやかに答えていた。

目の前の女の子は、少し背が低めで、可愛らしい顔をしたいかにもOL風な感じ。
かわいいなあ、なんて見てたら女の子は電話をかけ始めた。

聞くつもりはないけど、声が大きいので勝手に耳に入ってくる。

「あ、リナ?ユミでーす。今日さ、出勤予定だったんだけど、仕事が押しちゃうみたいで出勤できそうにないんだ。ユミ、代わりに出勤できる? ・・・ありがとー。助かる。・・・うん。24と25は出勤するよ。会社にもイブとクリスマスは予定があるんでーって言ってるし。だから今日はしっかり本業の仕事しないとねー。クリスマスに出勤しないなんてもったいないもん。せっかくの稼ぎ時なのに。大体さ、普通に仕事するとかダルいんだよね。でも、キャバ嬢だけってのもさ。普通に出会った既婚者に手を出して、最後は捨てるってのがスリルがあって楽しくない? ・・・えー?! 趣味悪くないし。ユミめっちゃいい子だし。だって結局、みんなユミに夢中になるんだよ。アホだよね男ってさ、ユミに捨てられるとも知らずに・・・え? 今? 実は狙ってる男がいるんだよね。優しそうだし、嫁のこと大事にしてるっぽいんだけど。ストーカーで困ってるって言ったら、心配しててさ。嘘に決まってるのにね」
可愛らしい女性が、可愛くない話をしながら、くすくすと笑っている。

「でね、今日もね、仕事が押すでしょ。だからさ、終わったらストーカーが怖いから送ってくださいって言おうと思って。いつものパターンなんだけどさ。とりあえずちょっと睡眠薬盛って、脱がして写真撮っとけばいいかなって。あ、ごめんね。忙しいとこ。じゃあ、今日よろしくー」
そう言って、ユミは電話を切った。

どこかで聞いたことがあるような話だ。
気持ちが悪い。
こんなことが世間では日常的に行われているのかと思うとゾッとした。

この女の後ろに並ぶのは不愉快だけど、仕方がない。
いかにも派手な感じではなく、可愛らしい普通のどこにでもいそうな女の子。
OLの型を押したような、ファッション紙からそのまま出てきたような女の子。
私にはキャバ嬢には見えなかったけど、きっと夜になると化けるのかもしれない。

それにしても周囲に聞こえるような声で話していて恥ずかしくないんだろうか。むしろ、聞いてほしいと言うような大声だった。
彼女にすればさっきの会話は武勇伝で、マウントをとっていたのかもしれない。何のマウントかはわからないけど、自分はあなたたちより格上ですよ、とでも言いたいのだろうか。

私は並び直すまではしたくなかったので、そのままユミの後ろに並んでいた。

列はどんどん進む。
長蛇の列だったけど、クリスマスの対応のため増員されたスタッフがテキパキと対応したおかげだろう。

ずっと同じ箇所にいなくて済んだのと、40分と言われていたのに27分程度でレジに到着したおかげで、私はとても早く買い物ができたような気分になった。

私は一万円を超えるボックスを買った。

美しい包装の中には、きっとキラキラとした様々な加工が施されたチョコレートが詰まっている。
会社では食べ損ねたけど、多分一つしか選ぶなんて今思えば土台無理な話だった。
逆に食べ損ねておいてよかったかもしれないとまで思えた。
おかげで今日は自分の食べたいチョコレートを選ぶことができる。

目の前に並んでいたユミも大きなチョコレートのボックスを買っていた。またどこかに電話をかけているようだ。

「もしもし?」

さっきまでの様子とは少し違って、普通に社会人として電話をするみたいだ。
声色から違ってる。

「あ、ウスイさんですか? サトウです。社長に頼まれた限定のチョコレートボックス、無事に買えました。今から職場に戻りますね。あ、あと、今日、仕事遅くなるじゃないですか。以前少しだけ相談したストーカーの件が怖くって。ちょっと帰りに相談のっていただいたりとか、送っていただけたりとかってできますか? 遅いのに申し訳ないんですけど・・・あ、ありがとうございます!ウスイさんって本当に頼りになるから。ほんとにいつもありがとうございます。では、失礼します」
ユミは電話を切った。私は耳を疑った。

この女の名前がサトウユミ? 電話の相手はウスイと言っていた。
悟のことなのだろうか。

もしかして、この女が悟の浮気相手の佐藤なんだろうか?
まさかこんなところで遭遇するなんてことがあるんだろうか。

え?
動揺が体全体に広がる。
もしかしてこのために、私はタイムスリップしたんじゃない?

悟に佐藤佑美の写真を見せてもらったことはない。
私はまじまじとサトウユミを見た。
どこかに佐藤佑美とわかるものがあれば、と思った。
そんなものはあるわけもない。

せっかくいい気分だったのに、再び気分が悪くなってきた。
頭がクラクラする。

この女が佐藤佑美かどうかは、サトウユミを尾行すればわかる。
サトウユミは今から会社に戻ると言っていた。
それが悟と同じ会社であれば、彼女が悟の浮気相手の佐藤佑美であることは、ほぼ確定。

それに、サトウユミが佐藤佑美だとすれば、さっきの会話とその前に話していた内容からすると、悟の言うことが正しいということになる。

私は気持ちを切り替えて、サトウユミを尾行した。
尾行をするのは人生において初めてだ。

ドキドキする。

あまり尾行っぽさを醸し出してはバレるかもしれないんじゃという不安がじわじわと広がる。
どうせ駅までは一緒なんだし、そのまま距離をとって歩いたほうが無難なような気がした。
サトウユミも特に私のことを気にする様子もない。

私はサトウユミを尾行し、悟と同じ会社であることを突き止めた。
サトウユミは間違いなく佐藤佑美だった。

このまま悟を待って、何とか悟を止めることができれば浮気を防ぐことができるかもしれない。
確か悟はストーカー被害の相談を受けて、佐藤佑美を送り届けた後に佐藤佑美の自宅で写真を撮られたと言っていた。

多分、それは今日に違いない。

悟の仕事が何時に終わるのかはわからないけど、ここで待つことにした。
どう考えてもこのために私はタイムスリップしたんだ。

悟の会社のビルの前で、冬空の下待ち続けるのは、正直辛い。
私は一旦、悟の会社のビルの向かいにあるカフェに入ることにした。

せっかく美味しいコーヒーを飲んでいるのに、お目当ての高級チョコレートが食べれないことが残念だけど。
ケーキを頼むという手もあるけど、高級チョコレートが待っている。
ここは一つ涙を飲んで、ケーキを食べるのはやめよう。

しかし、目の前の高級チョコレートが私を呼んでいる。

私は窓の外を眺めながら、あたかもその箱がチョコレートの箱ではないという素ぶりで箱の中身を確認した。
美しくデコレーションされ、光沢のある艶っぽいチョコレートが並ぶ。
私はその中の一粒だけつまむと、こっそりコーヒーの皿に乗せた。
そして、さっと何もなかったかのように箱の蓋を閉じ、紙袋にしまった。

選んだのは丸いチョコレート。ダークチョコレートとミルクチョコレートの中間の色合い。
チョコレートの上にはチョコレートでくるくるとデコレーションがしてあった。
私はそれを半分だけかじる。
口の中の私の熱でふんわりとチョコレートが溶けた。

チョコレートが解けていくと、口から鼻にかけて高級なカカオの香りが抜ける。
中にはプラリネのクリーム。
柔らかいクリームとチョコレートが絡まり、口の中が幸福で包まれた。

私はそこにブラックコーヒーを流し込む。至福の時。
私はたまらずに残り半分のチョコレートを口に運んだ。

時刻は18:00過ぎだった。
まだ仕事は終わらないだろう。今日は忙しいと言っていたし。
私は、近所の本屋で時間を潰した。
19:30を過ぎた。さすがにいつ出てくるかがわからないので、私は悟のビルの前で待つことにした。

21:00過ぎ、悟と佐藤佑美がビルから出てきた。
「臼井さん、すみません。忙しいのに無理言って送ってほしいなんてお願いして」
わざとらしい感じに、小首をかしげて会釈する佐藤佑美が見えた。

「いや、いいよ。今日は佐藤さんが頑張ってくれたおかげで仕事が早く済んだんだし。それにストーカーなんかにあってたら、安心して仕事できないでしょ。早めに解決しちゃおう」
いつもの悟だ。普通に親切な悟。

「ありがとうございます」
この二人の会話に特に怪しい雰囲気はなかった。


私は声をかけた。
「悟!!」
悟は無反応だ。逆に佐藤佑美が私の声に反応する。

「あれ?この人どっかで見た気が・・・。あ、チョコレートショップにいた人だ。最近にしては珍しく、マスクとサングラスしてるなって思ったんですよ。なんでこんなところに?」
佐藤佑美が怪訝な顔をして私を見た。

「今、悟って言ってましたけど、臼井さんお知り合いですか?」
佐藤佑美が悟の方を見た。

「ん? なんのこと?」悟が佐藤佑美に尋ねた。
「え? 臼井さんこそ、何言ってるんですか? この人のことですよ」
佐藤佑美が不躾に私を指差した。

「誰もいないけど」今度は悟が怪訝な顔をした。

あ!! と私は気づく。
悟には私が見えていないのだ。
致命的なことを忘れてしまっていた。
チョコレートと一緒に私のタイムスリップに関する情報が、溶けてしまっていたのだ。

私は思わず俯いた。

佐藤佑美の顔が、青白くなっていく。
「え? 幽霊? え? 怖い。臼井さん、早く帰りましょう」
そういうと佐藤佑美は悟の手を引いて、通りのタクシーをさっさと捕まえてタクシーに乗り込んで行ってしまった。

私は膝から崩れ落ちた。

何もできなかった。
むしろタクシーに乗るのを早めてしまったのではないかと思った。
佐藤佑美に余計な時間を与えてしまったことを後悔した。

当然だが、私は佐藤佑美の自宅を知らなかった。
私は、仕方なく電車に乗り、とぼとぼと理恵のアパートまで帰った。

結局、何も変わらなかった。変えられなかった。



タイムスリップをしたところで、運命は変わらないんだ。




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