私とタモリさん
ねえ、ほんの、ほんの一瞬なのに忘れられないことってある?
20代の頃、ディズニーランドが好きで、一年に一回はディズニーランドに行っていた。
福岡からディズニーランドに行く頻度として年に一回は適当というよりか、十分なところだと思う。
他には温泉にも行きたいし、遊びにも行きたいし、USJにも行きたい。
その中でもディズニーに行くというのは、私にとっては一番高額で、特別だった。
隣国に焼肉を食べに行くより高い。
一緒に行く友人は、その時々で変わったりもした。
その時、ディズニー旅行を計画していた高校からの友人が、私に言った。
「ねえ、いいとも見に行きたくない?」
「え? いいとも? うん、いいともー!!」
と私が言ったかどうかは定かではない。
「笑っていいとも!」
福岡出身のタモリさんが司会を務める長寿番組だった番組だ。
noteを読んでいる方々の中に「笑っていいとも!」を知らない人はほとんどいないと思うので、いいともについての説明は割愛させていただく。
用意周到で準備万端な彼女は、いいともの観覧の応募をし、そして観覧券を勝ち取った。
いいともの観覧応募は、今では懐かしの往復ハガキで行われた。
まだガラケーの時代だ。インターネットで応募なんてものはない。
観覧の可否は、一週間ほど前にしかわからない。
往復ハガキの復路側にスタンプか印字で観覧券である旨と当日の入場時間などが記されているか、これからもいいとも応援してねメッセージが記されるというもの。
私たちは、いいともの観覧ができるパターンと、できないパターンで旅行の計画を練った。
そして、ハガキは届く。
「観覧券」
いいともが見れる!!タモリさんが生で見れる!!
私たちは飛び跳ねて喜んだ。
そして、当日は観覧できるパターンの計画が実行された。
用意周到な彼女は、空港から新宿駅までの道順やタイムスケジュールをきっちりと頭に入れて来てくれた。
私は腰巾着のように彼女についていくだけだった。
アルタに到着し、番組スタッフの方の指示のもと、私たちはビル内に入った。
階段や廊下でスタジオの中に入るのを今か今かと待つ私たち。
その時、私は下腹部に異変を感じた。
「おなか、いたい!」
その日は生理前で、PMSが起きやすかった。
そんな気はしていたものの、今?
え? 今?
おなかが痛くなるだけではない。
私は必ず催したくなるのだ。
やばい。これはマズイ。
それに一度列に並んでしまうと、列からは離れられないようだった。
耐えるしかない。
ここまで来たんだ。
私は持っていた薬を飲んだ。
波のように繰り返す腹の痛み。
落ち着いては、痛みだす。
痛み出してしばらくすると落ち着いてくる。
「大丈夫?」と心配そうな友人に「大丈夫」と全然大丈夫じゃない状態で答えるしかなかった。
再びスタッフの方に誘導され、会場に入る。
私たちの席は、ちょうど観覧席のど真ん中だった。
絶対に抜けられない。
端っこならまだしも、途中で抜けるなんてありえないほどのど真ん中っぷり。
冷や汗が引くほどのど真ん中。
ああ、どうしよう。お腹痛い。
と思っていると前説が始まった。
私には「耐える」以外の選択肢がなくなった。
前説から後説まで概ね一時間半。
私は冷や汗を流しながら腹痛に耐えた。
終了するとすぐにトイレに駆け込んだ。
あんなに楽しみにしていたいいとも観覧だったのに、全く楽しめもせず、腹痛と戦っただけに終わってしまった。
もしかしてテレビに映ってしまうかもしれないと思いながら、腹痛に堪え、楽しそうな笑顔を浮かべる方法を考えた一時間半だった。
とはいえ、波が引いている時は、ちゃんと話は聞けたような気がするし、あの笑っていいとものスタジオに入るなんて滅多な機会があるもんじゃないし、それだけでいい経験だったとは思った。
それもこれも、会場で漏らすことがなかったからだとは思うけど。
痛みに耐え抜いて、肛門を閉め続けた私は本当に偉いと思う。
その後は、トイレで用を足して落ち着きを取り戻したお腹で、ディズニーランドとシーを満喫した。
満喫できなかったいいとも観覧に、満喫したディズニー旅行の思い出を胸に私は福岡へと帰っていった。
そんな私に、再びいいとも観覧の機会が訪れる。
毎年、ディズニーランドに行くことにしているが、必ずしも平日に行っていたわけではない。仕事の都合や、一緒に行く人たちの都合もあるので、連休を狙って旅行することだってある。
その時は平日に一緒に行ける友人と、ディズニーランドに行くことにした。
いいとも観覧再びの絶好のチャンスである。
私は友人とハガキを出し、観覧のハガキが届くのを待った。
なんと、再び当選!!
しかも、整理番号の数字が小さい。
ということは、なかなかいい席に座れるのではないだろうか。
いい席に座れずとも、いいとものスタジオが思いのほか小さいのは前回の観覧で知っていた。どの席でも、裸眼でステージ上にいるタレントさんたちを拝むことができるのは間違いない。
体感的には、大きな教室の前の方に出演者の方がいて、教室の後ろ半分に観覧者がぎゅうぎゅう詰めに座っている感覚だった。
体調もお腹の調子も整え、水分補給も最低限にし、私は再びアルタへと向かった。
その日はとても調子がよかった。
スタジオに入ると、最前列のセンターど真ん中!!
手を伸ばせば、多分、タモリさんに触れるくらいの距離。
テンションは最高潮。
しかし、その日は週に三日は出演していた国民的アイドルSMAPのメンバーがいない日だった。
今思えば、有名なタレントさんはたくさんいたのに、
「やっぱりSMAPがいる日がいいよね」
と贅沢なことを宣っていた気がする。
そんな瑣末なことは始まってしまえば関係ない。
腹痛もなく、前説・本番を私は楽しんだ。
そして、後説。
後説では、出演者がステージの真ん中にきゅっと集まって、雑談のような楽しいお話をされていた。
最前センターど真ん中の私の目の前にはタモリさん。
私は他の出演者の方には目もくれずタモリさんをガン見した。
何を隠そう私はタモリさんが好きなのだ。
いや、大体の人はタモリさんが好きなのではないだろうか。
タモリさんが嫌いですという人に出会ったことがない。
もしかすると、私が福岡在住だからかもしれないけれど。
福岡出身というのも好きだし、あの飄々とした感じもいい。
理知的であり、キレッキレでふざける感じもいい。
お茶目で可愛い。
私はタモリさんが、一日一食半しか食事をしないと聞けば、真似をして一日一食半にし、いいともに出演する際の服装のこだわりとして、月曜日は週の初めだからとフォーマルにしておき、木金あたりはゆるゆるにしていくと聞けば、仕事に行く時に月曜日はジャケットを羽織り、徐々にラフな格好にしていくという真似をしたりもした。
子どもの絵本の読み聞かせの際には、4ヶ国語麻雀の真似事をしたりもした。
そのタモリさんが目の前にいる。
私はその姿を目に焼き付けようと、じっとタモリさんを見つめた。
すると、タモリさんは他の出演者がみんなで話をしているにも関わらず、全くその話を聞いていないようで、何か別のことをし始めた。
出演者の方は誰もそれに気づいていない。
タモリさんが何をされていたのかは、全く覚えていないが、いたずらっ子のように自分が面白いと思うことを自由にされている様子を見て、そしてそれが面白くて、私は周囲とは全く違うタイミングで、一人コソコソと腹を抱えて笑ってしまった。
私が笑っているとタモリさんがそれに気づいたようで、不適な笑みを浮かべ、少しだけ嬉しそうな表情をしたように見てとれた。
私は、それがとっっっっっっても嬉しくて!!!
そんなことあっていい?
憧れの人が私が笑っているのを見て、喜んでいるなんてこと!!
もしかしたら、勘違いなのかもしれないけど。
私は宝物のようにその時間を胸にしまって、アルタを後にした。
もちろん、ディズニーランドもディズニーシーも楽しかったはずだけど、正直なところ、あんまり覚えていない。
ほんの、ほんの一瞬のことだけど、忘れられないような出来事って、あるんだなって。
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