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コロナ禍のハイブリッド授業:大学教員@香港のつぶやき(その2)

香港からこんにちは、代表の荒木です。各方面からご好評いただいている(!?)「理事のゆるふわ日記」シリーズ、今回のテーマは「香港の大学で学生と盛り上がった瞬間トップ5」です。第5位から第3位までは前回の私の記事でご紹介しましたので、この記事ではトップ2を発表したいと思います。

なお本題に入る前に、、、世界を飛び回っている副代表の川崎は、幼少期を香港で過ごしていました(オリラジの藤森が通っていたという香港の日本人学校に川崎も通っていたようです)。川崎によれば、私が前回の記事で驚いた経験として紹介した「香港ではコンビニのサークルKをOK(オーケー)と呼ぶ」という慣習は当たり前のことだったようで、むしろ彼が香港から日本に帰ってきて日本人が「サークルK」と呼んでいるのを聞いて驚いたとか・・・。所変われば品変わる、自分が「当然」と考えていることも、社会や組織などが変われば必ずしもそうではないということを改めて認識し、だから様々な「当たり前」を疑って社会の特性を明らかにする学問「社会学」は面白いのだよなぁと感じ入っている次第です(←私が専攻する社会学の宣伝)。

さて、少し前置きが長くなりましたが、香港の学生と盛り上がった瞬間トップ2をご紹介します!

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第2位:スシとアニメ
香港の大学で教鞭をとり始めて、日々強く感じるのが学生や同僚たちの親日感情です。最初のころは、私に気をつかって「日本最高だよね!」と言ってくれているのかと思いましたが、どうやら本気のようで、コロナ前は毎年日本に行っていた(オリンピック・パラリンピックも見にいく予定だった・・・涙)という人も少なくありません。つい先日は、同僚の先生から「本気で日本の大学に就職したいんだけど、どうすればいい?最近は英語だけで教えられるコースも増えてきているって聞いたけど?ちなみに福岡だったら何度も旅行したことあるからよく知ってるよ」と聞かれ、どこまで真面目に答えて良いのか逡巡していたところ、「そんな話、隠れてしてないで自分にも教えてよ」と他の先生も参戦してきて、少し盛り上がりました(私がどのように回答したかは、また別の機会に・・・)。

そんなわけで、自分の授業でも学生の関心を引き付けるために、日本絡みのネタをよく使うのですが、特に学生の反応が良いのは「スシ」と「アニメ」。ある授業で、アンケート調査手法を扱った際、いくつかの寿司ネタ(トロ、サーモン、イクラ等)を並べて「どのネタが一番好きか」という質問を私から学生にした上で、この質問で把握できる情報と把握できない情報は何か、把握できない情報についてはどのような質問をすれば明らかにできるのか、という点について学生に考えてもらいました。当然、アンケート項目の作り方について考察することが主目的だったのですが、幸か不幸か最初の「どのネタが一番好きか」という質問が多くの学生に刺さってしまったようで、「自分は絶対サーモン派!」「どう考えてもトロでしょ!」「ウニを食べる人の気が知れない!」「健康を考えたらキュウリとアボカド巻きで間違いない!」といった話で盛り上がり、さらには「スシローの寿司は結構おいしい」「元気寿司はイケてない」「美登利寿司は高すぎる」「あぁ早く築地に行ってお寿司を食べたい」等々、お寿司屋さんの話に議論(?)が飛んでいってしまいました・・・。ちなみに一番人気のネタはトロでしたが、サーモンは二極化していて、推しの学生が多かった一方で、どうしてもサーモンは嫌だという学生も一定数いました。

別の授業では、香港でも人気の「鬼滅の刃」の映画興行収入の推移とコロナ感染者数の推移に関するデータを示して、一見すると二つのデータが連動しているようだが、この関係をどのように解釈すれば良いのか、という点を議論しようとしました。すると案の定(?)、もともと企図していた因果推論に関する考え方や具体的な手法はそっちのけで、「好きな日本のアニメは何か」という話で盛り上がるはめに・・・。ワンピースやNARUTO、名探偵コナン、ドラゴンボール、キャプテン翼、ジブリ作品のファンが多いのは想定内でしたが、ちびまる子ちゃん、サザエさん、さらにはジョジョ、聖闘士星矢なども好きな学生が少なからずいるのは驚きでした。どの作品がどのような人たちになぜ人気があるのか/ないのか、といったテーマで真面目にアンケート調査をして国際比較すると、なかなか面白い知見が得られるかもしれません。

第1位:RCTと東大王
前回の記事を執筆した際は、第1位として「RCT」だけを取り上げる予定でしたが、先週の授業で試した「東大王」(のような学習活動)も非常に盛り上がったため、急きょ同率1位にランクイン。

まずRCTですが、日本語では「ランダム化比較試験」と呼ばれる研究手法です。サルタックブログの中でも何度か登場していますが、ものすごく単純化すると2つのグループを適当に作って、Aグループには何か特別なことをして、Bグループには何もしない(あるいは別の活動をする)ことで、Aグループで試した特別なことの効果を検証するものです(RCTについてもっと詳しく知りたい方は、理事の畠山が関連記事をいくつか書いていますので、ご参照ください。例えばこれ)。これだけ書くと、RCTがどうして盛り上がるネタになるのか、と疑問に思われる方も多いかもしれません。実際、授業の中で単にRCTの説明をしても、恐らくあまり関心を示さない学生の方が多くなると思います。

そこで、自分事としてRCTを考えてもらう方法は何かないかと思案して私が授業の中で試してみたのが、学生たち自身が被験者(RCTの参加対象)になるというものです。とはいえ、RCTを本気で実施しようとすると、当然ながら一授業の中で手軽に対応できないですし、ハイブリッド授業(ほとんどの学生はオンライン参加)ではオペレーションも複雑ですし、内容によっては大学の倫理審査なども通さなければいけなくなってきます。そのため、学生の関心も勘案しながらあれこれ検討した末に実施したのが「日本のアニメ×RCT」。具体的には、以下の手順でクラス内実験をしました。

1. アンケートを実施して、「となりのトトロ」、「天空の城ラピュタ」、「千と千尋の神隠し」、「崖の上のポニョ」、「君の名は」それぞれについての知識レベルを自己評価。(本気モードのRCTでは、より厳格な評価が求められますが、あくまで擬似体験のためなので細かな設計は諦めました)

2. 学生をランダム(無作為)に2グループ(A&B)に分けて、自己評価の平均点を算出。(理論どおり、2グループの平均点はほぼ同じになりました)

3. Aグループは「となりのトトロ」、「千と千尋の神隠し」、「君の名は」、Bグループは「天空の城ラピュタ」、「崖の上のポニョ」、「君の名は」の紹介動画(YouTube)を鑑賞。

4. 上記ステップ1と同じアンケートを再度実施して、各映画の知識レベルを自己評価し、ステップ3の前後でどのような変化が起きているかを検証。

結果的に、AグループはBグループに比べて「トトロ」と「千と千尋」の知識レベル向上が顕著、BグループはAグループに比して「ラピュタ」の知識レベル向上が顕著で、両グループとも「君の名は」の知識レベルが同じくらい向上していました(※詳しく解説し始めると「ゆるふわ」路線から外れ過ぎてしまうので、今回は割愛させていただきますが、ご参考までに、以上の実験結果を図示すると以下のような形になります。G1がAグループ、G2がBグループの平均点です)。

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この結果を素直に解釈すると、ほとんどの紹介動画が効果的だった中で、Bグループが鑑賞した「ポニョ」の動画だけは特に目立った効果が見られなかったということになります。しかし、結果グラフをよく見てみると、実は「ポニョ」についてはBグループで知識レベルが確かに向上しています。ただし同時に、なぜか紹介動画を鑑賞していないはずのAグループでも同じくらい知識レベルが上がっているため、結果的にAとBの間で差が見られない状況になりました。

どうしてこのようなことが発生したかというと・・・Aグループの中で「ポニョ」の紹介動画もこっそり見てしまった学生が一定数いたため!でした。どうやら後から確認したところ、何人かの学生はAグループに割り当てた紹介動画の鑑賞が早く終わってしまったため、待っている間にBグループに割り当てた紹介動画も勝手に見てしまったようです(YouTubeの動画を指定していたため、誰でも見られる状況でした・・・)。このような学生の行動は若干想定外でしたが、RCTの設計・実施が容易ではないことを体感する機会にもなったため、結果的に良かったかもしれないと考えている次第です。

なお、この実験自体も盛り上がりましたが、どうやら学生たちの間では日本アニメ熱が再び盛り上がったようで、次の週の授業で「トトロ見ました!」「ポニョ最高でした!」「やっぱり君の名は、泣けますよね!」といった感想が寄せられました。日本の文化振興に貢献したかもしれないと思うと同時に、この実験のせいで学生たちが勉学ではなくアニメ鑑賞に注力してしまい、他の授業への影響も考えるとネガティブなインパクトを与えてしまっているのではないかと少し不安にも・・・。教育の効果は、やはり複雑で検証するのが難しいテーマですね。

さて、今回も少し書き過ぎてしまったようです。「東大王」の話は次回にご紹介しいたいと思いますので、乞うご期待ください。

サルタック代表理事 荒木啓史

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