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発売から54年の時を経てリニューアルしたパッケージデザイン。“アポロ商戦”と共に誕生した『宇宙菓 月の石』の歴史を見てみよう!

皆さんは札幌千秋庵の「月の石」というお菓子をご存知ですか?
この「月の石」という商品は、2023年9月にパッケージをリニューアルしました。

遡ること1969年(昭和44年)7月20日。アポロ11号が人類で初めて月面に着陸したことは世界的に有名ですが、アポロ11号の月面着陸予定日が近づくにつれて、当時の新聞には「アポロ商戦」、「デパートには宇宙コーナー設置」などの見出しが躍り、札幌市内でもこの歴史的瞬間に目をつけた各業界や商業施設などがこぞって商戦に乗り出しました。

家電業界では「アポロ11号の歴史的快挙をカラーテレビで見よう!」などのキャッチコピーと共に、モノクロテレビからカラーテレビへの切り替えPR合戦が起こり大盛り上がり。その他にも、地球儀ならぬ「月球儀」が登場するなど、まさに「宇宙ブームの到来!?」といったところでしょうか?当時の熱気を感じますね。

この「アポロ商戦」に目をつけたのが、千秋庵製菓㈱の二代目 岡部卓司でした。千秋庵製菓㈱に残っていた当時の新聞紙面を見てみると、『札幌の菓子メーカーが宇宙菓“月の石”を売り出す』としっかり紹介されていました。

今回の「一日千秋」は少し趣向を変え、「宇宙菓 月の石」に関する歴史やパッケージの変遷などをご紹介いたします。

2023年9月リニューアルした「月の石」の新パッケージ

「宇宙菓 月の石」とは

「宇宙菓 月の石」は1969年(昭和44年)、アポロ11号が人類初の月面着陸を実現したことを記念して誕生したお菓子です。ノースマンの発売が1974年(昭和49年)ですから、ノースマンよりも5つ年上のロングセラー商品です。

製法はとてもシンプルで、ふんわりと焼き上げたカスティラ生地で北海道産のブルーベリージャムを挟み、発売当時は珍しかったホワイトチョコレートにたっぷりとくぐらせています。最後の仕上げに、一つひとつチョコの形を整えて完成しますが、この手間暇かけた工程は今も発売当時と同じ手作業で行っています。

ホワイトチョコレートをつけて一つひとつ手作業で形を整えます

「宇宙菓 月の石」パッケージの変遷

アポロ商戦の真っ只中に誕生した「宇宙菓 月の石」の初代パッケージは、「北海道グラフィックデザイン界の父」といわれる栗谷川健一さんのデザインです。
『MOON’S STONE』の大胆なロゴデザインが印象的で、「月の石」の隣に「宇宙菓」の文字がそっと添えられています。

『MOON’S STONE』の銀の箔押しが印象的な「宇宙菓 月の石」(6個入)の箱
白い三日月が描かれた個包装パッケージ。お菓子を包むことで丸い『月』を表現

発売当時のしおりには、

“幼な心に感じたお月さまへの郷愁と月着陸船から見た月の姿を映して、果てしない大宇宙の雄大さを表わしてみました”

とあります。二代目 岡部卓司の果てしない『宇宙へのロマン』が文面に込められていますね。

発売当時のしおりの文面から、二代目 岡部卓司の熱い想いが伝わってくる

「宇宙菓 月の石」が発売された1969年(昭和44年)のクリスマスケーキのチラシにも、『アポロ商戦』のなごりを感じます。

こちらのチラシには、『おいしいアーモンドとミルクで特製した「千秋庵の宇宙食」を添えてございます』という一文も記されています。

そして、1969年の発売開始から44年が経過した2013年、長年愛されたパッケージから「うさぎ」のシルエットが象徴的な2代目パッケージへと生まれ変わりました。パッケージをよく見ると、うさぎの手には「月の石」が描かれています。そして…このタイミングで発売当初から使われていた「宇宙菓」の文字がひっそりと姿を消していることがわかります。

2013年に登場した2代目パッケージに描かれた「うさぎ」のイラストが印象的

さらに2019年9月。「月の石」誕生50周年を記念して、ブラックチョコレートをかけてバナナジャムを挟んだ「チョコバナナ味」が期間限定で登場しました。パッケージには月に見立てて大きく浮かんだバナナ、そしてうさぎの手にはバナナが握られています。

2019年 「月の石」誕生50周年記念 チョコバナナ味

パッケージリニューアル!

そして時は過ぎ2023年9月。札幌千秋庵は創業102年を迎え、「ホンモノのおいしさづくり」をテーマに、これまでの歴史と伝統に敬意を表しながら、過去のエッセンスに現代の要素を加え、パッケージをリニューアルしました。

発売当初のロゴを復刻
「宇宙菓 月の石」 誕生のストーリーに思いを馳せ、月面から望む地球を描く

デザインを手がけたのは入社1年目の若きデザイナー嶋田佳那子(しまだ かなこ)さん。

嶋田:「今回の新パッケージはまさに原点回帰です。ロゴは1969年の発売当初のものを復刻し、「宇宙菓 月の石」が誕生したストーリーに想いを馳せ、月面から望む地球を描いています」

と、今回のパッケージデザインに込めた想いを語ってくれた嶋田さんは、実は千秋庵製菓㈱に入社するまで「宇宙菓 月の石」を食べたことがありませんでした。

嶋田:「食べる前に、歴史を知ってしまった感じで…。初めて食べた時の感想は、実を言うと覚えていなくて…。ホワイトチョコとジャムの組み合わせが美味しいという普遍的な感想です」

嶋田さんが考えた新しい「月の石」のパッケージデザインとは?デザインのコンセプトや制作過程を聞いてみました。

デザインのコンセプトは「宇宙へのロマン」

嶋田:『アポロ11号の月面着陸』という歴史的瞬間に立ち会った当時の人々の興奮と熱気が、発売当時の資料から伝わってきました。「宇宙菓 月の石」は発売開始から50年以上もの歴史がある商品なので、月日の経過とともに、商品が生まれた背景は徐々に薄れていったのだろうと思いますが、今回は原点に立ち返り、改めて「宇宙へのロマン」を「宇宙菓 月の石」のデザインコンセプトとしています。
「宇宙菓 月の石」を開発した二代目 岡部卓司さんの「ロマンをお菓子で表現する」という、形にとらわれない自由なセンスは、何かと理屈っぽくなりがちな今の時代にとても刺さると思っています。そんな今の時代だからこそ、当時のコンセプトを生かしたデザインにしようと思いました。

1969年(昭和44年)の千秋庵製菓の暑中見舞いハガキにも『月の石』が登場

ー「宇宙菓 月の石」のデザインはどのように進めましたか?

嶋田:中西さん(代表取締役社長)から『アポロ11号の月面着陸をテーマにした商品』なので、
●発売当初に冠していた『宇宙菓』の文字を復活させたい
●グラフィックデザイナー栗谷川健一さんのデザインを生かしたい

という方向性のイメージを聞きました。
自分で発売当時の資料やパッケージを掘り返し調べましたが、知れば知るほど『月面着陸』、『宇宙菓』というテーマを復活させたい!」という思いが湧いてきました。

ー デザインはどのように作られたのですか?

嶋田:デザインを考えはじめた当初は、「箱のデザインをそのまま復刻しよう」と考えていましたが、お菓子の個包装フィルムにそのデザインを落とし込むことがとても難しく、「発売当時のデザインを活かしつつ、コンセプトが伝わるようなデザイン」を模索し、箱の紺と白の配色を活かして数パターンの案を作りました。

初期パッケージデザインを参考にしてパターンを作成
上段:月面を白で表現した案
下段:パッケージの中央に月を配置した案

嶋田:社内で『中央に月を配置したデザイン案』について議論している中で、「月面を白で表現しながら、その真上に月が見えている…?実際に月面から見えているのは地球なのでは…?」という疑問が出てきました。その疑問をきっかけに、「月面から地球を望む」という視点を取り入れた表現が生まれ、その提案が採用されました。

個人的には、新しい発想を加えることでお客様に受け入れられるか心配していましたが、結果的には月面着陸を印象的に表現できたかなと思っています。
また、一つ前のパッケージ(2013年~2023年)では月に棲むうさぎが描かれていたので、「うさぎ目線」と考える人もいるかもしれないですね。そういうお客様が自由に想像する余地があっても楽しいと思っています。

月面から見た地球を表現

― デザインで注目してほしいことや苦心した点を教えてください

嶋田:地球の表現です。昔の写真のようなニュアンスの色でイラストを書き起こしています。

私はもともと紙媒体のグラフィックデザインを専門に活動してきたので、お菓子のフィルムのデザインは千秋庵製菓㈱に入社して初めて経験しました。
基本的なことは紙媒体と同じですが、フィルム印刷の場合は「色別に版を分け1版ずつ印刷する工程」を考慮したデータ作りが必要になります。

地球のイラストの印刷は、通常であれば「CMYK(※注)」の4色を使用します。今回のデザインの場合、透明のフィルムに印刷をするため「1番最初に白を印刷してフィルムが透けないようにする」必要があります。また、微妙な色合いを表現するためには「版」の数を増やす必要がありますが、「版」が増えると制作費用が高くなるため、費用面の観点からも「版」の数を増やしずぎないように工夫をして、「CMY」の3色で表現しました。実際にフィルムに印刷をした時に、地球のイラストが紺色の背景の上でふんわりと浮かび上がって見えるかどうかも気を配った点のひとつです。

「費用を抑えながら、最も良い表現をする」ことを目標に、実際に包装機を使用するパッケージの担当者や印刷会社様と何度も相談をしながらデータを作りました。ここが一番苦労したところですね。

(※注)「CMYK」: 主に紙などの印刷物の表現に使われる一般的なカラーモデルの一つ。CMYKは、シアン(Cyan)、マゼンタ(Magenta)、イエロー(Yellow)、ブラック(Key)の4つの基本色を組み合わせ、さまざまな色を再現する

フィルムの色校正の確認をおこなう嶋田さん

― PRのためのキービジュアル撮影は、どのように着想しましたか?

嶋田:パッケージに描いた世界観と繋がるようなビジュアルにしようと思いました。この世界観の表現には「月面」のイメージが欠かせません。その表現をどのようにするか悩みました。
漆喰風の壁紙や撮影用ボードなど色々と探しましたが、思い通りのものが見つからなくて…。結局自分で手作りしたんです(笑)
リキテックス社のセラミック・スタッコという漆喰のテクスチャを表現できる画材を使って、試行錯誤しながら描き上げました。アクリル絵の具で絵を描いてた学生時代の経験が意外なところで活かせましたね。

商品の背景に使用する嶋田さんの力作『月面イメージ』のボード

嶋田:撮影の時に、よりパッケージに近いイメージになるよう、カメラマンさんのアイディアで月面ボードを軽く曲げて月面の曲線を再現してもらいました。自分の想像以上に素敵なものになり、とても気に入っています。

モニターで何度もイメージを確認する嶋田さん
月の石が月面に着陸!? ライティングも合わさり荘厳な仕上がりに

ー 実際に新しいパッケージがお店に並んだ時の感想を聞かせてください!

嶋田:「お店に並んだときはどういう風に見えるかな?」「買おうと思ってもらえるかな?」と、思いの外、冷静に考えながら見ていました。

「デザインしたパッケージが世に出て嬉しい!」という実感が湧いたのは、お客様が「かわいい」、「素敵」とSNSに書き込んでくれたのを見た時でしたね(笑)。

https://www.instagram.com/sapporo_senshuan/

嶋田さん、ありがとうございました!

「宇宙菓 月の石」という商品が誕生した経緯や、パッケージデザインの変遷等についてご紹介をしてきましたが、いかがでしたでしょうか?

新しく生まれ変わった「宇宙菓 月の石」のパッケージを見て、アポロ11号の月面着陸によって、日本中が期待に胸を躍らせた当時の熱気を感じていただけたら嬉しいです。

「アポロ商戦」真っただ中、憧れを持って眺めた月…。2023年現在、民間人が月への旅行を計画する時代が来ていると知ったら、二代目 岡部卓司はどのように感じるでしょう…。もしかすると「宇宙菓の第二弾をつくろう!!」と言うかもしれませんね。


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