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「ママ、お風呂上がったら髪切ってくれん?」お風呂に入ろうとしている私にコリスが言った。「いいよ。じゃあ、お風呂の前に髪切ろう」と言った。

「どれくらい切るの?」
「肩より少し長いくらいかな」

毎朝結っているはずなのに、改めてじっくり見るコリスの髪はツヤツヤしていてきれいだった。切るのが惜しくなってきたけれど、彼女はじっと切られるのを待っている。

昼間に母親同士のLINE電話に登場した、コリスの友人がバッサリ髪を切っていたのを見て、「みっちゃん髪が短くなってたね、かわいかったね」とコリスと話していた。「あしたからまた学校か……」。お風呂の支度をしながらぼやくコリスは、思いったったように髪を切ってくれと言い出した。髪を切った友人、連休明けの学校ときて、気分を変えたくなったのかもしれない。「結べるくらいに切ってね」と言ってきた。「ついでに前髪も」とも。

ハリも腰もあるきれいな髪を手に持つとスルリと手から抜けていく。左手で小さな束にした髪を掴んで、先から5センチくらいにあたりをつけてザクザクとハサミを入れる。きれいな髪は切り口がブリンッとそりかえるような感触がある。髪の先まで血が通っていて、まるで生きているようだ。トカゲのしっぽ切りのような。切ったところから新しい髪が生えてくるわけではないけれど、新しい髪が顔出すような。毛束を持ちかえながら切っていくと、毛先がグリングリンとあちらこちらにうねる感じだ。髪も元気だな。生命力を感じる。

「前髪も眉よりちょっと下で」と注文が入る。「はいはいー」。後ろ髪を切り終えて、今度は前髪だ。前髪は女の命、失敗は許されない。

そういえば去年の夏、コリスが自分で前髪を切りすぎて泣いたことがあった。あの時は、「短すぎる前髪もかわいいね」とうまくおさまったけれど、あれから1年経った彼女はもう違う。毎朝、洗面所に立ち自分専用のブラシと霧吹きを使い、前髪を整えている。やはり、失敗は許されない。

切りすぎないように慎重に少しずつ縦に細かくハサミを入れた。鏡を見てもらうと、「うん、いいね」と満足そう。ホッとしてケープを外すと、ご機嫌な様子で湯船に浸かった。

コリスが生まれて9年、ずっとコリスの髪を切ってきた。短くしたことはないけれど、前髪と後ろ髪を切り揃えるくらい。すきバサミと散髪用のハサミを買って、自分が切ってもらう時を思い出しながら切る。だんだんコリスも大きくなってきた。ときどき美容院に誘ってはみるが、「ママが切ってくれるからいい」と言う。いつまでコリスの髪を私が切るのだろうか。もうそろそろ美容院に行ったほうがいいのではないだろうか。一度、美容院デビューしたら、きっと戻ってはこないだろう。そう思うと、今回がコリスの散髪をさせてもらえる最後だったかもしれない。ありがとうコリス。


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