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腹が減る本の紹介|食欲は人の欲望の要

この世には本当に色々な本があり、知識を得られるものもあれば、哲学的な思考に没する本もあります。

今回紹介したいと思うのが「腹が減る本」で、食欲が湧きたってくるような本がこの世にはいくつもあることをぜひ知ってほしいと思っています。

僕が食事に関する本をよく読むようになったのは20代後半くらいからで、それは23歳の頃に胃がんの手術で胃を全摘出することになってからでした。

この影響で、身体の構造上、食事をすることができなくなったのですが、食欲という欲望は残り続けてしまい、長期間のリハビリを経ることで、ようやくその欲望を満たすことができるようになっていくのです。

10年以上経過した今では、ようやく一般の成人男性より少し少ないくらいの食事量に戻っているので、この欲望はいくらか満たすことができています。

しかし、こうして湧きあがる食欲を満たせない闘病期間は非常に辛く、そのもどかしさを読書で埋めることとしました。読書は追体験ができるものですから、本を読んで美味しそうだと感じることで「早く食事ができるようになろう」とポジティブにリハビリに臨めるようになりました。

前置きが長くなりましたが、一冊目は短編小説の紹介です。中島らもの『エキゾティカ』です。

エキゾティカ|中島らも

著者が旅した東南アジアの国々をそれぞれの国ごとに題材とした短編小説集で、タイ、香港、インド、スリランカ、ベトナム、バリ島、韓国、中国、どこか南の島、の9つの国が舞台になっています。

1997年の香港返還の日を背景に痩せた男とふとった男が香港のレストランで、食事と人生観について壮絶に語りあう奇妙なシチュエーションの『聖母と胃袋』という話が非常に印象的で、この章は最も「腹が減る」章であり、食欲について考えることができるはずです。

痩せた男は「どうせ死にゆく人生にも関わらず何故そんなに飯を食うんだ」と言い、ふとった男は「このレストランを出た途端に車にひかれて死ぬかもしれないのだから、後悔なんてしたくないじゃないか」と会話は平行線をたどります。

こうした話を繰り広げながら、返還を記念したお祝いムードの香港の街で、カニ、ハト、シャコ、ニシ貝、オコゼ、ナマコ…と次々に食し続けていきます。

この話の他にも、タイのバンコクにある屋台でナンプラーをかけながら様々な麺類を食すシーンもあれば、自分のルーツを辿るために韓国まで「犬」を食いに行く話まで、強すぎる刺激とともに食欲が湧きたつ話が満載の短編集で、著者自身があとがき「それにしてもこれは腹の減る本だ」と言っているほどです。

もの食う人々|辺見庸

ジャーナリストである辺見庸氏が、世界各地を実際に訪れ現地の人々の食事を見て回り実際に自身で食事をした記録を描く「食」を通した紀行文。

現地の奥深くまで踏み込んでいるところが魅力で、バングラデシュ・ダッカの残飯から始まり、猫用缶詰、放射能汚染スープまで…世界の食文化の広大さを感じます。

しかし奇食とはいえ、美味そうだと思いながら読むことになるはずです。清潔で優雅であることが美味しい食事ではなく、生きていくことと直結する行為こそが食事だと学べます。

そして本書は高度経済成長をした日本社会の「飽食」への強いメッセージにもなっており、現在のフードロス問題などにも続いている視点が得られます。

その他

その他にもマイケル・ブースとかカレーの本とか、フードテックの本とか、いろいろと紹介したいけれども、今回のところはこの2冊にしておきます。

これをお読みのみなさん、もし腹が減るおすすめの本があったら、ぜひ教えてください。

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