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第一章 初めての土地で単身出張、二泊三日の場合②

⇩ 前回<第一節 道路幅の選択>はこちら

第二節 食事のお店選び

 その雑居ビルは5階建てです。雑居とは将に字の通りでして、あらゆる職種がテナント入居して居るビルを指します。大体は食事の店、スナック、bar等が入っており、地域性やビルのオーナーの意向によって様々な生態系を持つケースもあります。しかしここは無難に飲食店舗が多い雑居ビルの様です。

 さてこの様な雑居ビルの場合、1階に所在する店舗は入店のハードルが低い事が予想されます。上層階などはオープン時間が遅いお店(今後は深い時間と記述します)によっては22時以降からオープン等も有りますが、たいていの場合17時半から18時オープンが基本になります。食事の前に軽く一杯やってからというのも悪くないでしょう。早い時間はハッピーアワーと称して安く飲酒できるケースもあり、景気づけにその様な店舗に入る事も有効な判断です。この様な店舗は店員側も顧客も若年層が多く、深い話は期待出来ませんが、早い時間は手隙である事が多い店員さんに話しかけ易い環境であることが期待できます。もし運よくその様な店員さんに出逢えたとしても、根掘り葉掘り執拗に訊く事はお勧めしません。飽くまでも、ちょっと聴いてみたという風に見せなくてはなりません。早い時間に沢山呑み過ぎると、後の探検に支障が生まれる可能性もあります。ここはお替り二杯までにして置き、店員さんに御馳走する等の振る舞いは慎んだ方が得策です。ハッピーアワーに敢えて来ている感を出そうと、見栄を張る必要は薄いと考えます。

 景気を付けたところでいよいよ今夜の食事を何処にするかを決めなければなりません。無難に1階の店舗から選ぶのも知恵ですが、雑居ビルのエレベーター前にはほぼ必ず入居テナントの看板が集められているエリアがあります。これを私は看板溜まりと呼んでいます。看板溜まりをざっと見まわすと、大体左上に店の形態、例えば食事処であるとかbarであるとかの表記が有ります。食事処の場合、そのコンセプトなんかも記されているケースが多いので、その時の口の感じ、つまり何が食べたいのかによって絞る事が肝要です。

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 ここで貴方は無難に和食を選びました。貴方の性別にも少し関係するかも知れませんが、その選んだ店舗の店主の性別を見分ける方法が有ります。歌舞伎などで使われる太めの江戸文字で漢字店名の店は、大体店主は壮年以上の男性です。逆にギリギリ読める様な草書体のひらがな店名の店は、壮年の女性が店主の場合が多いと見受けられます。又、味に自信のお店はシンプルに店主の苗字を使用するケースも多いと感じます。

 貴方は決めきれずに、ひらがなと漢字融合店名を選択しました。「こはる日和」という店名です。5階建ての雑居ビルの2階にあるお店です。2階ですが一応エレベーターを使い店に上がる事にします。エレベーターの中が汚れていないか、ドアが酔客に殴られてへこんでいないか等のチェックもこの時済ませましょう。客層に問題がある場合、エレベーターに様々な傷がある場合があります。この雑居ビルのエレベーターは古くは有りましたが、綺麗に使われている様です。異臭もしません。少しほっとしながらエレベーターを降り店へと向かいます。エレベーターを降りて左に曲がりました。細長いビルの通路には片側に4店舗、小さな店が並んでいます。その一番奥に目指す「こはる日和」は有りました。和風の格子状の引き戸の手前に赤紫の暖簾がかかり、繊細な文字で「こはる日和」と記されています。何らかの花も一輪あしらわれた暖簾を見る限り、女性店主で間違いなさそうです。

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 さぁお店に入る前の最後のチェックです。扉の向こうの様子を聴いてみる必要があります。滅多に無い事ですが怒号が飛び交う様な店舗も有ります。地元の人間では無い貴方が飛び込むにはこの様な元気過ぎるお店は避けた方が無難です。

 耳を傾けて扉の向こうに探りを入れますと。穏やかな話声と、時折笑い声が聴こえて来ます。どうやら常連さんらしき先客が数名居る様です。しかし声のトーンからして落ち着きのある方々である事が予想されます。慎重である事は悪い事ではありませんが、そうかと言ってもいずれは選ばないとなりません。貴方は勇気を出して扉を開ける事にしました。


 いよいよ次の第三節では入店作法から発注、そして飲食を伴いながら如何に馴染んでいくかについて論じて行きたいと思います。

<第3節へつづく>

⇩ <序章>及び<目次>はこちら


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