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【速報】AI活用に前向きなスタンス!文科省「生成AI利用ガイドライン」ポイント解説

皆様、ご無沙汰しております!ライフイズテックの讃井です。
昨年秋以降、AI ☓ 教育が完全に新しいステージに突入し、ものすごい変化にワクワクしつつ、てんやわんやしております。
私もライフイズテックでAI教育まわりの責任者として、知見の取りまとめや政府・教委への提言などを担当しています(技術・プロダクト面はCTOの奥苑さんが担当)。

さて、早速本題です。本日2023年7月4日に文科省から「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」が発表されました。この速報解説を今日は書きます!忙しい方は「解説のポイント」だけでも読んでもらえたらと!

1.解説のポイント

  • 子どもたちがAIを学び活用することに前向きな方針を文科省が示した。

  • リスク面への懸念や、不適切な事例を例示しつつも「新たな情報技術であり、多くの社会⼈が⽣産性の向上に活用している⽣成AIが、どのような仕組みで動いているかという理解や、どのように学びに活かしていくかという視点、近い将来使いこなすための⼒を意識的に育てていく姿勢は重要である」と冒頭に結論付けられている。

  • リーク報道があった時に懸念された「AIの生成物を自己の成果として提出するのは不正行為で自分のためにならない」という事項は、補足が加筆されて、妥当な内容に修正されている
。

  • 校務(先生の業務)での使用については一般的な注意事項はあるものの、制約があまりなく、働き方改革の一環としてより前向きな印象。

  • 表紙に「機動的な改訂を想定」と明示されており、今後も継続的にブラッシュアップしていく方針

  • 懸念としては、一部の表現が恣意的に解釈され、AI活用に後ろ向きな方針が各教委・学校で出ないか、情報活用能力の育成が抑制的なモラル教育に偏っていないかといった点がある。

  • 小・中のプログラミング教育や高校「情報Ⅰ」との繋がりはAIの仕組み理解の観点でもっと強調されてよかったと思う。

2.ガイドラインの構成とポイント

本件、メディアの切り取り報道にご注意ください案件となっていますので、皆様まずは原本を確認ください。

https://www.mext.go.jp/content/20230704-mxt_shuukyo02-000003278_003.pdf

ガイドラインは本編全17P+別添資料という構成。
本編は以下5パートに分かれています。

①ガイドラインの位置付け(P.1)
②生成AIの概要(P.2〜3)
③⽣成AIの教育利⽤の⽅向性(P.4〜11)
④その他の重要な留意点(P.12〜14)
⑤参考情報(P.15〜17)

一番読むべきは③「⽣成AIの教育利⽤の⽅向性」の箇所。特に全学校に関わる方針を示しているP.4〜8が最重要です。
また、子どもたちの利用を前提に書かれている内容が多いですが、先生方の校務に関してはP.11に書いてあります。
P.12~14はリスク面に関する記載ですが、これまで文化庁や日本ディープラーニング協会などが出している方針とも重なっており、妥当かつ学校特有の一部事項を除き既知の内容も多いと思います。

3.文科省のAI活用に関してのスタンス

私は全体的に見て「文科省はAI活用に対してかなり前向きなガイドラインを出した」と認識しています。
生成AIが話題になってすぐの頃は米国ニューヨーク市で生成AI全面禁止(今年5月に解除された)という方針が出るなど、文科省も規制に走るのではないかと危惧された時期がありました。

しかし、今回のガイドラインでは子どもたちの学習利用に関して、
①AIを含む情報技術の活用が重要である
②AIを活用するための力(情報活用能力)が重要である
③適切な使い方であれば、学校教育の中での活用も問題ない
④最後は自己の判断や考えが重要であること
という方針が一環しており、AI社会の到来に向けて未来志向のスタンスを示すとともに、G7広島サミットで示された「広島AIプロセス」にもある人間中心主義のAI活用方針を踏襲しています。

具体的な活用例についてもP.5下部で以下のように例示が沢山ありました。AI自体を学ぶ学習だけでなく、対話型の学習・英語・課題解決型の学習、そして、プログラミング学習での活用も良事例として取り上げられました。

プログラミングでの活用例も記載されたのは嬉しいですね。実際AIとすごく相性が良い領域。
文部科学省 初等中等教育局(2023.7.4)
「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン ver1.0」P.5より転載

また、子どもたちだけでなく、先生(教師)に関してもP.11などで
①教師のAIリテラシー向上も大事(研修もやっていこう)
②働き方改革の一環として活用していく
③AIの利便性や懸念点を理解しておくと近い将来の教育活動の素地になる
という方針を示しています。こちらは一般的なAI活用の注意事項はあるものの、制約があまりなく、働き方改革の一環としてより前向きな印象です。

4.リスクに対しての考え

一方で、リスク面への記載もしっかり書かれています。(P.2,12,13,14あたり)。大きく分けて、
①生成物(文書等)が誤りを含む可能性(P.2)
②個⼈情報やプライバシーに関する情報保護の観点(P.12)
③学校における教育情報セキュリティの観点(P.13)
④著作権保護の観点(P.14)

となっており、どのリスクも妥当性があると同時に、学校特有のリスクではない(企業や他行政部門と同じ)と私は捉えました。

1点だけ学校特有の箇所としては、P.14「著作権保護の観点」の「2.学校における⽣成AI利⽤の留意点」の中に以下の記載がありました。これはむしろ著作権のリスクが学校では軽減されるケースがあることへの留意点です。

学校の授業では、著作権法第35条により許諾なく著作物の複製や公衆送信ができるため、教師や児童⽣徒がAIを利⽤して⽣成したものが、既存の著作物と同⼀⼜は類似のものだったとしても、授業の範囲内で利⽤することは可能である。

文部科学省 初等中等教育局(2023.7.4)
「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン ver1.0」P.14より転載

逆に聞かれなかったこととしては、時々聞かれる「AIを活用することで子どもたちの何かしらの能力が落ちる」という根拠不明の考えはガイドラインには載りませんでした。
あくまで「学習指導要領に⽰す資質・能⼒の育成を阻害しないか、教育活動の⽬的を達成する観点で効果的か否かで判断すべき」(P.4)とあるだけで、根拠不明なままAIはダメと決めつけるのではなく、活用について大人(教員)が目的に応じて判断すべしと記すにとどまっています。

なお、P.5に「適切でないと考えられる例」が列挙されています。情報活用能力を育成してから活用してほしい・最初から安易に使わせるのは避けてほしいといった事項です。個人的には、この不適切とされる事例が拡大解釈されることは懸念しています。

5.事前報道で懸念された点は解消された?

今回一番気になっていたのはこの点です。
実は10日ほど前、私讃井、激おこプンプン丸でした。

6/22の朝日新聞web版で、ガイドライン案の夏休みの課題に関する箇所に「AIの生成物を自己の成果として提出するのは不正行為で自分のためにならないと十分に指導する」という文言が入っていると報道されたからです。(上記文言は有料版の範囲に記載があります)。夏休みの課題全般にこの方針を当てはまることは、かなり乱暴な議論であり、物議を醸していました。

結論として、朝日新聞とは異なる内容でガイドラインは公開されました。
該当箇所は以下になります。

AIの利⽤を想定していないコンクールの作品やレポートなどについて、⽣成AIによる⽣成物をそのまま⾃⼰の成果物として 応募・提出することは評価基準や応募規約によっては不適切⼜は不正な⾏為に当たること、活動を通じた学びが得られ ず、⾃分のためにならないこと等について⼗分に指導する(保護者に対しても、⽣成AIの不適切な使⽤が⾏われないよう 周知し理解を得ることが必要)。

文部科学省 初等中等教育局(2023.7.4)
「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン ver1.0」P.6

事前報道と違うのは太字部分でして、不適切とか不正とみなすのは、
・AIの利⽤を想定していないコンクールやレポートの場合のみ
・総じて不正なのではなく、評価基準や応募規約によって判断される
と適応範囲を限定する説明が入りました。この説明であれば、妥当性が高く、私も納得しています。

6.他に懸念はないの?

前述の懸念は解消されましたが、今回のガイドラインでは以下の点がやや気になっています。

① 一部の表現が恣意的に解釈されないか

この2週間ほどの報道では「AI活用に後ろ向きな文言」が切り取り報道される傾向にあります。
・不正行為で自分のためにならない(P.6)
・限定的な利⽤から始めることが適切(P.4)
・懸念やリスクに⼗分な対策を講じることができる⼀部の学校(P.4)
みたいな文言が、前後の説明なく切り取られ、文科省はAI活用を規制していると教育委員会や学校、教員・保護者に誤って伝わることが一番怖いです。
AI社会が到来すること、そこに向けてAIを学び活用する教育を進めていく必要性は今回のガイドラインでも一貫しており、そこをぶらしてはなりません。

② 情報活用能力育成が情報モラル教育に寄りすぎていないか

P.8の「情報活⽤能⼒」の育成の箇所で、ルールやマナーやリスク喚起など抑制的な情報モラル教育に比重が置かれすぎないかはちょっと気になりました。今の時代に必要な情報活用能力は、AIなど情報技術を積極的に活用して社会課題を解決する当事者になる「デジタルシティズンシップ」が前提であるべきです。情報モラルの教育も重要ですが、それに加えて、積極的にAIを学び・活用し、自分で問いを立てて課題解決していくような、AI時代に沿った情報活用能力育成を定義していく必要があります。

③ プログラミング教育や高校「情報Ⅰ」の存在が忘れられていないか

AI活用に関連して小・中のプログラミング教育や高校「情報Ⅰ」はもっと注目されていいと思います。今回のガイドラインではほとんど言及がない点は残念でした。それはひいては「AIの仕組み理解をどの教科・科目でやるべきか」という問いに対して言及がない状態だとも言えます。ここは明確に積み残し課題です。
AIは、プログラミングやデータサイエンスの理論・技術の上に成り立っているわけで、それらを学ぶことはAI時代に不可欠です。
例えば、中学校技術科のプログラミング教育では「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題の解決」という内容が2021年から必修化されているのですが、ここで学ぶ内容と生成AIの基礎構造は多分に重なるところがあります。
また、高校「情報Ⅰ」の「情報通信ネットワークとデータの活用」の箇所は、データ利活用や統計の基礎を学ぶ範囲でもあり、AIの生成物を判断する上でも、その背景にある機械学習の仕組みを理解する上でも、必ず学習する必要がある範囲です。
逆に言えば、AI時代を見越した学習内容が、小・中のプログラミング教育や高校「情報Ⅰ」にはすでに組み込まれていると言えます。今後の議論の中でスポットライトが当たることになるはずです。

7.今後について

ざっくり言うと「今後も知見を蓄積して、ガイドラインを更新していく」という方針が示されているのが特徴です。
表紙に「機動的な改訂を想定」とあるように、今後も実践を推進し、知見を蓄積し、方針を漸進的にブラッシュアップしていく方針が明示されています。現在のAI関連の急激かつ頻繁な変化をふまえると、非常に現実的なスタンスで支持できます。
また、AIの活用方法という部分的な議論に留まらず、「生成AIの普及を踏まえ、これからの時代に必要となる資質能力をどう考えるか、そのために教育の在り方をどのように見直すべきか」というより本質的な議論を、今後中教審で行っていく方針も示されています。
AIによる社会変化を考えれば、むしろ本丸の議論はこれからです。継続的な議論、そして、より深いレベルでの議論を期待しています。

8.さいごに

ここまで書いてきた通り、 学校教育や校務でのAI活用について文科省は前向きなガイドラインを示しました。GIGAスクール構想もそうですが、最近の文科省は社会の変化に敏感で、情報技術の活用にも建設的な対応を続けています。
今回の生成AI活用にあたっても、いろんな議論や調整を経て、この前向きなガイドラインは出ているはずで、担当部局の皆さんの尽力に頭が下がります。社会の変化に対して、文科省の中でも必死に物事を前に動かしている人がいるんだと思うと、AIにはできないこと=問いを立てる情動を持つことの重要性を感じるところです。
AIと学校教育の未来について建設的な議論が進み、今の時代を生きる「AIネイティブ」の子どもたちの可能性が最大限伸びていくことを願って、今回の解説は終わります。

ちなみに、ライフイズテックでは中高生向けに「AI☓クリエイティブ」をテーマにこんな講座をやっています。デジタルネイティブの開発スピードは本当にすごくて、私は震えています笑
夏休みもAIを学べて、自分の創りたいものを創れる機会=大学でのサマーキャンプを各地でどんどん開催しますので、皆様ぜひ!
(先生向けAIキャンプもやります!)


9.【追記】おまけ:論点整理と方針策定のポイント

ここはおまけみたいなものですが、ガイドライン公開前に多くの自治体さんとAIの学校教育での利用について意見交換の機会を頂きました。
詳しくはまた別に書きたいと思っていますが、意見交換の際には論点の整理と方針策定のポイントは以下のようにお伝えしていました。文科省のガイドラインと重なる部分も多いですが、何かしら参考になれば幸いです。

論点の整理

縦軸(短期・中長期の視点)と横軸(4観点)で分けています。

方針策定のポイント

自治体・学校ごとにポリシーを策定する上で留意すべき5大事項としてまとめました。


※更新履歴
2023.7.5:おまけ部分・著作権リスクの箇所を加筆、誤字修正しました。

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