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手形
土曜の朝、彼女の娘を迎えに行く。彼女に代わって一日面倒を見る。娘の父親である男と別れて帰郷した彼女は、ほどなくして、娘と暮らす家から出られなくなった。私は彼女が帰ってきて嬉しかった。娘は俯いた顔つきが彼女とよく似ている。
貯めた金で旅行に行った。近くの温泉に一泊して、翌朝に帰った。寒い日だった。車の窓ガラスが白く曇った。娘が手形をつけた。
家につく。娘は降りてそのまま、車のそばに立つ。私を見送ろうとする。曇った窓に娘の姿が朧げにあった。透明の手形に、右目と唇だけが浮かんでいた。別人に見えた。息をのんだ。
家の窓から彼女がこちらを見ていたはずだ。時々、手を挙げてみる。身じろぎひとつない。
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