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ライブPA見習いの日記vol.1

2022年に入り、新しく始めたことがある。それが「ライブPA」だ。この仕事、音楽に対してごく普遍的な感覚を持っている人に「PAっているの知ってる?」と聞くと、「いや、知らない…」と返ってくる。自分はライブによく行くし、大学の軽音サークルでもそういう役割を担うメンバーがいたので、ライブハウスの後ろでなにかチャカチャカいじって音を作っている人という認識はあったが、テレビジョンなんかには映らない部分なので、音楽番組でしかアーティストを観ないという人は確かに知らないよなと思った。

その「ライブPA」という役割をさせてもらえるようになった。といっても、僕自身、大学の軽音サークルではtab譜でしかギター練習したことがなく、アンプの音作りすらまともにできていなかったので(4年間何してたんだ…)、ほとんど1からのスタートで、見習いクラスだ。これからたくさん覚えることがある。

それでも、音楽に関わることがしたい、尊敬するアーティストを応援する仕事がしたい、というごくシンプルな気持ちで、飛び込んだ。今更…と思った。それでも、何を始めるのに遅いなんてことはない、という誰かのありふれた言葉を思い出して、初めてのライブサポートに入った。

当然現場では教えてくれる先輩がいる。バンドのサポートでドラムもやっていて、PAもこなすし、映像も撮れる人。凄すぎぃ。このPAをやるきっかけをくれた、そんな先輩に教えてもらえることを大変感謝している。

まずライブの一連の流れに沿ってやってみた。

1.会場セッティング
2.配線
3.音出し・リハーサル
4.ライブ中の常時確認
5.ライブ終わりの片付け

ざっくり、こんな手順になる。当たり前といえば当たり前だが、これの何が大変かというと、時間が限られていることだ。特にPAの仕事はライブ前のリハーサル時が一番大事だ(と現時点では思っている)が、例えばこの間を30分で、バタバタ会場の椅子とテーブルをセットして、ケーブルを繋いで、照明を調整して、音出しをして、入場OKの状態にしないといけない、とかある。(これは僕が参加させてもらっている会場がカフェ&バーなのでライブハウスと違った作業が発生しているというのもあるが。)

それで、この音出し・リハーサルの部分が一番大事というか、PAの主な仕事だが、これのできる/できないが非常に感覚的なのである…。ギター練習中、リズム感がなさすぎてメトロノームに憎しみを覚えた僕にとって、この「正しい音」を覚えられるかがとても不安だ。いや、実際には、「正しい音」なんて無いのだろうけど、音楽をやっている人が言葉を交わさずとも分かり合える、ああこの音はおかしいよね、というところまではせめて把握する必要がある。そんな感覚だ。

とかく、音楽が好きと言っておきながら、リズムとかメロディとかハーモニーとか、そういう類の言葉をよく分かっていない。しかしそれでも音楽が好き、この曲めっちゃ良い、なんか好き、とかでOKなのが音楽だとも思っている。だからその自分勝手な信念に従い、音の感覚はなんとかこれから実践で掴んでいくしかない。

すごく話が逸れた気がするが、一発目のライブの話をすると、もうなんていうか、アーティストさんが良すぎてライブ感動した、というお客さん目線な感想が一番大きい…。

(こちらのバンドのフロントマン、川辺さんのソロ演奏がメインのライブでした。)

PAにいると、ヘッドフォンで会場に流れている音を聴くことができる。どんな感じか知りたくて、そのヘッドフォンに耳をかけたとき、もう目の前は海辺になった。聴いてると海に潜って、深海に進んでいった。そこでみんなで手を繋ぎながら、ヒトデとかイソギンチャクを観ているような気分になった。いやどんな表現、と自分でも思ったが、本当にそんな感じ。めちゃくちゃ素敵な音楽なのでぜひ聴いてください。

もちろん、お客さん目線だけでは終われない。基本は先輩が通してPAのミキサーと呼ばれる機械をいじり、ライブを作っていたのだが、ライブ中も色々と流れやミキサーの操作方法、音を送る仕組みなどについて教えてくれて、特に手順は重要なので頭に入れるためにメモを取っていった。

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(ひどい文字だ。なんかすごい訂正してるし。まあ、自分が分かればOKのスタイル。)

最終的に、この初参加のライブPAで触らせてもらったのは、ライブ終了後のミュートスイッチの切り替えと、会場BGMの音を上げるフェーダーの操作だけ。それだけでも機会をもらえたことがありがたいし、ミスったらお客さんやお店に迷惑がかかるとビビりながらできたことはほんの小さな成果として自分の中に残しておきたい。

ミキサー:スピーカーから出る会場の音を調整する機械。マイクとか楽器とかに繋がってて、調整するつまみがたくさんついてる。これが一番大事でかつ複雑。
ミュート:「音声を出さない、無音」という意味。SNSでよくやるみんなが大好きなあれと同じ。このスイッチがミキサーにはついており、押してるとそのチャンネルから繋がっている音はスピーカーから出力されなくなる。
フェーダー:ボリュームを調整するスライド式のやつ。音を入力する方と、音を出力する方、2種類ついてる。とりあえずInとOutがあると覚えておけば考えやすいかなと思っている。

(用語はもっと詳しく教えてくれてる記事や動画がたくさんあるが、今回の小さな成果の備忘録的な意味も込めて、また、全く知らない人にも伝われよと思って書いておく。)

あとはライブ終わり、アーティストさんとお客さんが絡みながら、お話や笑い声が聞こえるわいわいした雰囲気の横で後片付けをするのがPAの仕事。ミキサーのつまみを元に戻して、ケーブルを直して、会場の照明や椅子・テーブルを元通りにして、終わり。これだけ書くと大変そう。だけどそんなことなかった理由が一つあって、アーティストさんが終わったあとすぐに「今日はありがとうございました。」と頭を下げに来てくれたことに大変感動した。本当に、終わってすぐに、誰と話すよりも早くPAのところに来てくれた。大好きになった。僕は単純なやつだけど、つまり仕事ってそういうことだと思った。このライブ終わりの感動の中で片付けを行うので、楽しい。見習いだからそう感じてるのかもしれない。でもずっとこの気持ちは持っていたいし、音楽が好きだったらずっと変わらない気もする。

総じて、PAの仕事をほんの少しだけ体験して、ライブは一人ではできなくて、多くの人の力で一つのライブが成り立っているのだというのを肌で感じられた。本当に当たり前のようなことだけど、今まで1お客さんとしてライブを楽しんで、裏方のことはほぼ気にしなかったことを少し恥じたし、逆に言うなら裏方というのは、その裏側の大変な様子をお客さんに感じさせないことがプロであり、成功なのだとよく分かった。お客さんはアーティストを観に来ているから。お客さんが何を求めているのか。アーティストのライブを観て、元気をもらったり、勇気をもらったり、音に溺れて気持ちよくなったり、そうやって生きるエネルギーをもらっている。これは自分がファンだからこそ共感できることで、この共感性は十分に活かして、気持ちがわかるからこそ、これから「ライブPA」をやっていく際には黒子に徹することを胸に刻んだ。

リズム感が皆無なのは未だ不安に思いながらも…、正面から向き合って、かつ音楽が好きという愚直な気持ちを大切に、これから一人で「ライブPA」ができることを目指す。

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(聖域のように感じるPAブース。誇りある仕事だと思った。)

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