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美意識と倫理 – 「美しい」は強制も否定もできない

何が正しいのかが分からなくなった時、自分が心から美しいと思えるものがあると、それだけで救われたような気持ちになります。ああ、自分はこの世界にいてよいのだ。自分には美を感じることができるのだ。それは大きな肯定感です。

辛いことがあった時、ふと空を見上げ、その美しさに瞬時に心が洗われ、涙が流れそうになった経験のある人は少なくないでしょう。

「美しい」と感じる想いは、基本的に個人の内側に限定されるものです。集団が美しいとみなすものや、普遍的に美しいとされるもの(黄金率など)も存在しますが、あなたが何かを「美しい」と感じる時、それはあなたの心の動きであって、誰かに強制したり、また否定されたりするものではありません。

昨日の夕方の空。角度を変えると、飛行機から見下ろした世界のようにも見えます。

ですが、世界を見ていると、まさにその強制や、否定というものがまかり通ってしまっているな、と思うのです。端的なのは、独裁的リーダーの極端に視野の狭い行動です。

最近私は、何が人に独裁的な考えや行動を起こさせてしまうのか、考えることがあります。歴史上の独裁者と呼ばれる人達の多くも、始まりは純粋な「世界にこうあってほしい」という想いだったはず。それが、どういうわけか異常に肥大し、自分達の考える「美しい世界」以外は許せなくなってしまう。その行末が、自分達と違う考えや出自を持つ人達の抹殺や、世界秩序の勝手な再構築といった、まさに常軌を逸した非人道的な行動なのではないか、と考えています。

自身の世界観への執着やイデオロギーが人を盲目にさせ、どんなにエスカレートした行動でも正しい行いであると信じて疑わなくなってしまう。この底知れぬ恐ろしさと不気味さを、私達は何度も何度も目にしてきているはずです。

美しい世界が歪む時

彼らが「美しい」と信じた世界は、そもそも何かの前提に間違いがったのか。それとも、その美しさを損なわせる何かが生まれてしまったのか。
その美しさに共感した人々は、本当に心からそれを美しいと思っていたのか。それとも、何か違う理由で、信じ込まされてしまったのか。

多くの歴史的な哲学者や心理学者たちが、人間の心の問題を様々な角度から説いてきました。私はそれらすべてを学んだわけでも代弁できるわけでもありませんが、一つ思うのは、他者の目線、つまり客観性を欠いた人間の感性は、どんどん歪んでいく、ということです(この歪んだ感性が自分自身に向かうと、整形依存症など、自己のあり方への異常な執着に変わっていくのかな、とも思います。)

どんなに個人的な感覚に思えても、感性の均衡を保つには、やはり他者との関わりが不可欠なのだ、と私は考えます。他者がいるから、どこまでが「自分の範囲」なのかが理解できる。そして、自分の内と外を認識することで、他者の中にも世界が存在するのだということがやっと理解できる。そうやって互いを尊重することが、健全な倫理観と美意識の基本なのだと考えています。

自分にとっての美しい世界に陶酔してしまいそうになった時、ハッと気づかせてくれる、何かや誰か。その存在を失わずにいるためには、対話と共有が重要だと感じます。他者との対話を欠き、自分の思う美しさだけに固執し、歪んだ世界観に閉じ込められてしまった人々が大きな力を手にしてしまった結果が、今私達が目にしている悲しい出来事なのではないでしょうか。

いかにして、自己と他者の尊厳を損なうことなく、それぞれが美しい世界を実現させていくか。私達は今、この大きな命題に立ち向かっているのかもしれません。

倫理と美意識 探究会

まさにその「倫理と美意識」のトピックで、コーチの方に向けた勉強会が開催されます。光栄なことに、美意識の回のナビゲーターを務めさせていただくことになりました。
まだ若干名の枠が残っていますので、ご都合の合う方はぜひご参加ください。

書籍の紹介

また、今回書いていて紹介したくなったのは、尊敬するジャーナリスト舟越美香さんの著書『愛を知ったのは処刑に駆り立てられる日々の後だった』です。一章を読み終わるごとに、大作映画を見終わった時のような余韻が残ります(あまりにリアルで、ちょっと辛い時もあります。)
歴史に残る、まさに人間の尊厳を問うような出来事の渦中にいた人々は、一体何を見て、何を感じ、どうしてその行動を取ったのか。当事者への肉薄するインタビューが、人間性という終わりなきテーマの深淵さを見せつけます。

舟越さんは本書の中で、「私は悲劇を書いていると思っていたが、これは愛の話だったのだ」という気づきを語っています。愛の謎、強さ、悲しさ、途方もない大きさ。読むのになかなか体力がいる本ですが、私も改めて読み返してみようと思いました。

今日も明日も、あなたの毎日が美しさへの気づきで溢れていますように。

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