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経営状態ごとに最適化するブランディングとマーケティングの配合について(前編)

人は誰しもが「健康でありたい」と願います。だからこそ、病気やケガをしている場合は、まずはそれを治療することになりますし、逆に、基本的には問題はないのだけど、ダイエットして身体を軽くしたい、さらにコンディションを整えたいという場合は、治療ではなく食事や運動などの生活習慣の見直しをすると思います。

会社も同じで、経営を健康な状態にするためには、その会社の現在の体調によってやるべきことが異なるのではないか。

「ブランディング」を生業として、デザイン活動を続けてきて、私自身がずっと感じてきたことです。

「ブランディング」は、近年、会社経営にとって重要な取り組みであるという考えが広まってきたように思いますが、実際に、「ブランディング」を提供するデザイン会社は、依頼者にとって会社経営の命運がかかっているといっても過言ではない取り組みである以上、経営のコンディションを理解し、提供する内容を、会社の経営状況ごとに変えていく必要があるのでは?と考え、私は15年ほど試行錯誤しながら、多くの経営者のサポートをしてきました。

しかし、現状では、ブランディングは、比較的経営コンディションのよい状態の会社向けに、「より美しく見せるためのサプリメント」を提供するという分野で発展を遂げている感も強く、コンディションがよいとは言えない会社からの依頼は、ブランディングを提供する会社側にとっては、あまり積極的に請けたくないという傾向があるように思います。これは多くのデザイン会社のビジネスモデルが「制作を受託して費用を請求し、短期的な利益を追求する」ということに起因していて、発注側に潤沢な予算がないとビジネスとして成立しないので、ある意味では仕方がないのかもしれません。

しかしながら、「経営は絶好調で、よりよく見せることを求めていて、予算も確保できている」という会社ももちろんあるとは思いますが、そういう仕事は数も多くはないですし、ある意味ではすでにブランディングが上手くいっている可能性もあり、変革を必要としていない場合もあるでしょう。

逆に、「まずはこの苦境から抜け出したい」「悪化している経営状況に歯止めをかけたい」「立ち上げたばかりの会社で予算に余裕がない」というような会社も当然ながら多数存在しています。そういう会社は、必死さがあり、ある意味では大きな変革やイノベーションを必要としているとも言えます。

この記事では、「経営コンディションの決してよくない会社のブランディングはどうすればいいのか?」という視点で、私、株式会社それからデザイン代表の佐野彰彦が、これまでの経験をもとに整理してみようと試みました。

「現状の経営コンディションが悪かったとしても、可能性に満ちていて、その後、大きく変革していく会社」は実はたくさんあります。そして、そのような会社のブランディングこそ、デザイン会社の役割は大きく、ワクワクできる仕事としてのやりがいも眠っているのです。

企業経営者はもちろん、ブランディングデザインを生業とするデザイナーの方にも、何かしらの参考になれば幸いです。


デザイナーにとって永遠の課題、「費用対効果は?」という問いへの対応

コンディションのよいとは言えない経営状態の会社の経営者にとっては、「ブランディング」は魅力的には映るけど、とてもあやふやで、効き目があるのかどうかわからないものです。そして、依頼しようと思っても、費用対効果が想像できない以上、恐ろしく感じて二の足を踏むか、騙されたと思って突っ込んでいくか、の二択になってしまいます。

「費用対効果って出せますか?」「売上はアップするんですか?」

という質問は、ブランディングやデザインを仕事としている人は、誰しもが受けたことがあるのではないでしょうか? それに対し…

「デザインには数値で直接現れない価値、会社や商品のイメージの強化にもつながるものです。ですから、デザインは費用対効果で測るものではありません」

上記のような回答は至極正論ですし、私自身もデザイナーとして、同じように説明することもあります。しかし、その回答では、経営コンディションのよくない状況の人には、納得してもらえる可能性はほぼゼロです。経営者は、目の前の経営課題を無視することはできません。血が流れていれば止血が必要ですし、どこかに不具合があれば、まずはそれを治さなければなりません。それを先送りにした提案を受けることはできないことは、逆の立場になれば容易に想像がつきます。

もちろん、「それはデザイナーの仕事ではない」という考える方もあると思います。でも、私はそれではもったいないと思います。ちょっと止血するだけで、その後、ぐんと魅力を増してブランディングに通じていくような、伸びていく会社や商品を、たくさん見てきたからなんです。

まず、私がクライアントと初めて対面したときにやっていることは、「会社の健康状態にかんする情報収集」です。ブランディングを通じて欲しい状態について、経営者にじっくりとインタビューさせてもらっています。以下は質問内容の一部ですが、このような質問をしています。

・経営者の考えや思いや成し遂げたいこと
・現在の売れ筋商品とその特長
・なぜそれが売れ筋となったのか(あるいは売れなくなっているのか)
・直近3〜5年くらいの売上と利益の推移
・社員の方でこれからキーとなる人(その人がなぜキーになるのか)
・お客さん(エンドユーザー)は誰か(どんなニーズを抱えているか)
・競合する会社や商品の特長(あるいは気になっている他社)
・これから目標としたい具体的な数値や状況はあるか

上記はインタビュー内容の一部です。このような切り口で、まずはたくさん情報を仕入れるところからはじめた上で、

「ブランディングを通して、成し遂げたいこと」を経営者と一緒に、明確に設定していくようにします。その結果として

①まずは目先の売上を上げていきたい
②会社や商品の特長やイメージを明確にして成長させたい
③競合の追随を許さない確固たるポジションを築きたい


大きく分けると、上記の3パターンぐらいになります。それぞれのケースごとに、取り組み方と提供するデザインの内容をプランニングしていくようにしています。「費用対効果は?」と聞かれたら、「まずはそれを明確にしていくために、情報収集させてください。そして一緒に、求める成果を生み出していきましょう」というスタンスで、お答えしています。


ブランディングとマーケティングを状況ごとに使い分ける

上記の3つのパターンのうち、通常ブランディングは、②か③の状態を前提とした仕事となります。逆にいえば、①の状態を苦手としています。目先の売上を上げたいという場合の多くは、「予算が限られてしまっている」という状況と背中合わせです。その結果、「そのご予算でブランディングは無理です」という回答をしてしまうデザイン会社は多いと思います。

しかし、目先の売上が少し上がってきたらどうなるか。

予算というのは、経営者のポケットマネーから捻出するものではなく、用意する方法は様々あります。銀行やVCからの借り入れ、助成金や補助金の活用などもあります。「売上が上がっていく可能性」について、金融機関や公庫は敏感に反応しますので、「少しだけ上向きの状況」をつくれたら、予算の確保は格段にしやすくなりますし、②や③を目指していけるような、とても大きな可能性を含んだプロジェクトに変化するかもしれません。

繰り返しになりますが、私は、まず、現在の経営コンディションが以下の①〜③のどのあたりにあるのかを、経営者のインタビューを通して理解していくことにしています。そして、その状態ごとに、ブランディングとマーケティングの配分(取り組む内容とかける予算など)を決めるようにしています。

ブランドの成長段階に合わせたブランディングとマーケティングの関係


ここでいう「マーケティング」は、売上や利益を上げることに意識の力点を置いた活動とします。「ブランディング」は、会社や商品やサービスの魅力を表現したり伝えることに意識の力点を置いた活動とします。(この記事内での言葉の定義です、学術的な定義ではありません)

仮に、現時点で、[コンディション①]の段階であり、売上や利益が出ていなくて、予算が厳しい状況にあったとしても、会社や商品の魅力がどこかにあり、成長する可能性がある場合は、SEO対策やSNS施策など、比較的予算がすくなくても着手できるWEBマーケティングを中心に、「目先の売上を上げるための施策」を提供します。この段階で、無理にコンセプトメイキングやビジュアルデザインや本格的なサイト制作等、ブランディングに着手してしまうと、利益が出てくるまでに、キャッシュフローが苦しくなって、ビジネスを継続することが困難に陥ってしまう恐れがあるからです。

ただし、伸びる会社か、売れる商品かを事前に見抜く力というのは、とても難しいので、私の場合は、「自分が1人の生活者として共感できるか、応援したいと心から思えるか」という基準を最も大切にしています。そのような自分の感性とクライアントの感性が一致することが最も重要で、そこがあれば、仮にコンディション①の状態であっても、なんとかお引き受けします。

またコンディション①の中でも、さらに2つの状態に分かれます。ひとつは、新しい会社や商品を立ち上げたばかりで、まだ利益が出ていない状態(成長フロー)。もうひとつは、かつては人気商品で利益が出ていたのだけれど下がってしまい、利益が枯渇してしまっている状態(衰退フロー)です。その状態ごとにも、打つべき施策や着手順は異なると考えています。

できる限りの知恵と技術を使って、「目先の売上を上げる」ことからはじめ、信頼関係を築き、しっかりと施策を実践していくことができれば、その後の本格的なブランディングのフェーズにつながっていくはずだからです。


後編では、実際に[コンディション①]⇒[コンディション②]⇒[コンディション③]というブランドの成長フローを、長らく伴走してきたブランド事例を元に、この考え方の実践を紹介してみたいと思います。

後編はこちら

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