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君に『灰色の脳細胞』はあるか?

こんにちは、読書好きAV女優の三宮つばきです。

最近アカザ・クリスティーのポアロシリーズ全33冊を読了しました。
思い返せばシリーズ物の小説を読んだのはとても久しぶりでした。

読み終わった記念に、ポアロシリーズの紹介と感想を書きたいとおもいます。最後までお付き合い頂けると幸いです。#読書感想文

ミステリーの女王

著者のアガサ・クリスティーはイギリスの女性推理小説家です。

Agatha Christie 1890-1976

ポアロシリーズの1作目『スタイルズ荘の怪事件』を皮切りにミステリー作家としてデビューし、3作目にあたる『アクロイド殺し』がヒット。
ベストセラー作家への道を駆け上がっていきました。
そしてポアロシリーズの最高傑作『オリエント急行の殺人』は8作目にあたります。

ポアロシリーズ以外でのベストセラーと言えば『そして誰もいなくなった』『春にして君を離れ』などがあります。

日本では名探偵コナンの「アガサ博士」の名前の由来になった人物として有名だと思います。

灰色の小さな脳細胞

ポアロシリーズとは探偵のエルキュール・ポアロを主人公とした、アガサの連作推理小説のことです。

このポアロという人物は非常にユニークな人として描かれます。
身長162cmのやや肥満体形、卵のような形の頭に、ピンと跳ね上がった立派な黒ひげに仕立服に蝶ネクタイにエナメルの靴。おまけに大の甘党。

小説の舞台はイギリス。ポアロはベルギー人で、それも相まって”おかしな外国人”というのが彼の印象です。

ドラマ実写化された時はこんな感じでした

この時代のイギリスは空前の推理小説ブームで、かの有名な『シャーロック・ホームズ』が大ヒットを成した後。言わばポストホームズに当たる小説がポアロシリーズでした。

しかしながら英国紳士シャーロックが人並外れた洞察力で以て事件を解決するスマートさとは真逆に、愛らしいおじさまな風貌のポアロは、なんと椅子に座ったままで事件を解決します。愛嬌ある見た目に反して優れた推理力を持つ彼のギャップは人々の心を鷲掴みにしたといって良いでしょう。

ポアロは基本的には捜査のようなことはしません。
人の話を聞いたり、警察の捜査の結果を聞いたり、とにかく話を聞いてそれらの全てが指し示す犯人の動機や犯行方法を探ります。
何の意味もなさそうな遺留品、無意味に思える偶然の出来事、そういったものが全て一本の線でつながる理屈を見つけ出すことが事件を解決する糸口になる、というわけです。

このようなスタイルの探偵を安楽椅子探偵と呼びますが、ポアロは事件現場にいる事が多く完全な安楽椅子探偵ではないと言えます。

読書感想

ポアロシリーズは全33冊+戯曲『ブラック・コーヒー』の小説版が早川書房から計34冊翻訳されています。

全て読みましたが、一個一個感想を書くととんでもない事になるのでいくつかピックアップしながら最終巻まで駆け足で紹介したいと思います。

ぶっちゃけ覚えてないのもある

最初に読んだのは『オリエント急行の殺人』でした。
私はこれを読み始めた頃、ベストセラーを読むことにはまっていてその時たまたま手に取ってとても面白いと思い、シリーズを頭から読み初めました。

『オリエント急行の殺人』については他のnoteでも紹介しています。

スタイルズ荘の怪事件

『スタイルズ荘の怪事件』は記念すべきシリーズ1作目となります。
ちなみに最終巻『カーテン』の舞台もスタイルズ荘であり両方とも事件の発端は毒殺です。
アガサは自分で購入した家に「スタイルズ荘」と名付けたこともあり、彼女にとって「スタイルズ荘」はとても思い入れの深い名前だと言えますね。

推理小説において最も解決の糸口に近づけるポイントは動機です。
動機の最たるものは”お金”です。相続だとか遺書だとかそういった類のもので”その人が死んで得をするのは誰か”という事は推理するうえでとても重要です。
そして次に恨みだとか愛だとかが続きます。

この作品は犯人の動機と犯行を見事に読者から隠し、最後まで犯人を見破らせない実に推理小説然とした素晴らしい作品です。
最後の章でポアロの推理を聞くまで誰も犯人を当てる事はできないでしょう。

アクロイド殺し

この作品はシリーズの3作目になります。
非常に人気のある作品でいわゆる「叙述トリック」が使われたことで発売当時から賛否両論を巻き起こしました。
読者の先入観などを利用し事実を誤認させるトリックを叙述トリックといいます。

小学校の頃好きな子に告白したらこっぴどく振られた。
そこからその子にずっとかわかられ、中学になってもその話を言いふらし、高校でも馬鹿にされ、大学でも虐められた。今でも夕食の時その話をされる。

簡単に表現するとこんなかんじで、男だと思わせて女とか、お年寄りとみせかけて実は子供だとか、映像のない小説だからこそ可能なトリックですよね。

叙述トリックはどんでん返しがあるので、読み応えのある一冊をあげるなら間違いなくこの作品です。

ABC殺人事件

こちらはシリーズ11作目になり、これも非常に有名なタイトルになります。

ポアロのもとに届いた予告状のとおり、Aで始まる地名の町で、Aの頭文字の老婆が殺された。現場には不気味にABC鉄道案内が残されていた。まもなく、第二、第三の挑戦状が届き、Bの地でBの頭文字の娘が、Cの地でCの頭文字の紳士が殺され……。

アルファベット順に殺人を犯す愉快犯の犯行かと思われましたが、ポアロは確信的に「動機のない犯罪はない」と見破り、一件無関係に思える事件をつなぎ合わせ真犯人の動機を見破ります。

確実に次の事件が起こる。それを止めることができるのか、という展開にハラハラする臨場感のある一冊です。

ポアロのクリスマス

こちらはシリーズ17作目にして私が最も読むのに苦戦した一冊です。
ゴーストン館の当主である老富豪シメオン・リー。彼の館にはクリスマス間近ということもあり一族が勢ぞろい。
そんな中シメオンは「遺言書の内容を書き換えるつもりだ」と宣言し不穏な空気で迎えたクリスマスイヴ。彼は血まみれの死体で発見される…

遺産相続が絡んだ事件なので血縁者が容疑者になるのですが…名前が全員、なんとか・リーですし、4人兄弟で3人は妻がおり、孫も参戦するので非常に読み進めにくいです。
旦那が相続すれば妻も影響を受けるので、夫婦の会話なども細かく描写され、誰が誰の何かとかもう把握するのが大変です。

なので一番お勧めしません(笑)

五匹の子豚/象は忘れない

『五匹の子豚』は21作目
『像は忘れない』は32作目にあたります。

この2作の共通点は事件が過去に起きているという点です。
事件はそれなりの形で決着がつき既に調査は打ち止めの状況なのですが、ポアロに依頼が舞い込み過去の事件を精査する、という内容です。

物理的証拠が既になくなっていますし、過去の事象をさかのぼって真実にたどり着くことはおおよそ不可能なことのように思われますが、これらの事件の解決こそがポアロの真骨頂と言えます。

『像は忘れない』は原題を『Elephants Can Remember』と言い、訳すると「像は覚えることができる」となります。
英語のことわざで「An elephant never forgets.」というものがあります。

「ゾウは決して忘れない」ということわざ。
ゾウは記憶力がよく、昔の恨みを忘れないとされている。この言葉は記憶力がよいことを賞賛する分脈で使われることもあるが、自分に不親切であった人に対する恨みをいつまでも忘れない、という意味で使われることも多い。

https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000033118

時に人は、とりとめもないような事を漠然と覚えているようなところがあります。そしてそれが意外と事件に関係することだったりします。
ポアロは一見関係なさそうな会話や出来事でもその全てを知りたがります。

最初は警戒して何も話さない人であっても、不意なことで思わず何かを言ってしまったりやってしまったりするもので、ポアロはそれを見逃しません。
また自分が外国人であることを逆手にとって、英国紳士淑女が普段は気取って言わない事も、言わせてしまう事もあります。(例えば実は覗いていたとか、手紙の中を見たとか、話しを聞いてしまったとか)

ポアロは人と人とのつながりの中に動機を見つけ出す天才です。
事件の出来事に偶然はなく、あるべき場所にあるべき事が起こる。
ひとつひとつのピースが完全に当てはまる仮説を見つけた時、それはすでに仮説を超越した真実になりうるのです。

これはポアロシリーズのすべてを通して感じることのできるメソッドです。

頭で考えて事件を解決するには『灰色の脳細胞』が必要だ
という表現が小説内でたびたび登場します。
翻訳の問題もありますが、脳の領域の一つで思考力などを司る
灰白質の活発さを示すものと思われます。

カーテン

これがポアロシリーズの最終話になります。
実はこの作品は最終回として先に執筆されており、アガサの死後に発表される予定でした。
しかし出版社に急かされる形で生前に出版し、奇しくも出版の翌年アガサは亡くなりました。

ポアロシリーズは当時から人気を博し出版社にとっては稼ぎ頭だったので、アガサは半ば無理にでもシリーズを続投するしかなく、シリーズ後半は前半のような勢いがないという批評もあったほどです。

そのような歴史の中で最終章の『カーテン』は幕開けとなり
そして名探偵ポアロの生涯のカーテンの幕下りともなりました。

探偵の生涯を描き切るポアロシリーズ。

ポアロシリーズの難点

ポアロシリーズの舞台は1930年代のイギリス。
当時のイギリスは世界大戦や世界恐慌によって暗い時代を迎えていました。ポアロはベルギー人ですがドイツとの戦争でイギリスに亡命します。

さらにイギリスの階級社会という日本になじみのない文化のために、登場人物のステレオタイプな描写の把握がかなり難しいです。

上流階級の人々は働かなくても暮らしていけて大きなお屋敷に住み、中流階級の人々も料理人や客間女中、家女中といった使用人を雇い生活しています。
労働階級の人々には警察もポアロもだいぶ高圧的な態度で接します。

さらに建築様式も現代の日本とはかなり違いますから、犯行現場の部屋や建物の説明を聞いてもなかなか想像しにくい部分が多いです。

もっと細かくいえば服装の把握も難しく、夕食のために着替えたり寝る前の軽い晩酌でまた着替えていたりもしますし、キレイなドレスや帽子を表現する描写もイギリスの人にとっては分かって当たり前な洋服の用語も馴染みないために想像が難しくなっています。

しかも当時は1930年の現代小説ですから時代背景などが小説内で説明されないのは当然のことです。

本来であればそのような部分は註釈や後書き解説などで補足されるべきなのですが早川書房の翻訳版も2000年初頭に刊行されたものなので、今後さらに時代の乖離が進むと思われます。

最後に

私は読書が好きで、特に推理小説が大好きです。
さらに推理小説の中でも古典的なものが好きで、とりあえず事件が起こって鮮やかなトリックだとか狡猾なやり口だとか、叙述トリックだとかスケープゴートだとか、そういった内容が展開されていく。
いわば”純粋な”推理小説が好きです。

新刊の売れている推理小説はミステリー×ヒューマンドラマ、ミステリー×社会へのメッセージといったものがほとんどになったように思います。

日本の作品で言えば漫画版『名探偵コナン』が古典ミステリーのイメージに近いかなと思います。でも映画化すると恋愛要素とか人間関係がフィーチャーされるので大衆向けの流行としてはそっちが主流ですよね。

たまには古典ミステリもいいかなと思った方はぜひ『オリエント急行の殺人』から手に取っていただけたらと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。
あなたの最初で最後の推しになりたい、三宮つばきでした!

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