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「映画感想」 市子

最近、邦画ばかり観ている。本当は洋画、特にハリウッド映画が好きだったはずなんだけど…
理由は酔って帰った後に観易いことと、Amazonが無料提供している邦画が面白そうだから、それだけ。

さて、本題の「市子」
このタイトルを観た瞬間にフォローしてくれている「市子さん」を思い出して「これは私が観なくちゃ!」と変な使命感に燃えた(笑)だって「市子」って名前、珍しいよね?
少なくとも私は市子さん以外の市子さんを知らない(語彙力)


結論から先に言わせてもらうと、とても面白かった。
いや、面白いと言う表現は間違っている。
惹き込まれる。
あっと言う間に観終わってしまう。でも後味は、この上なく悪い。
切ないでも哀しいでもない。
やるせないと言う言葉が日本語で、この感情を表すとしたら近いかもしれない。
とにかく面白いは面白かった。


冒頭、市子が鼻歌を歌いながら歩いている。



人生は時として、色々な事が起こる。
今晴れていても、突然のどしゃ降りに襲われることも、酷い雨があがって太陽が顔を出すことも…

三年間一緒に暮らしていた長谷川(若葉竜也)からプロポーズされた翌日、市子(杉咲花)は突如として消えてしまう。
市子の帰りを茫然と待っていた長谷川の元へ、市子を探している刑事が現れる。
ここから物語は始まる。

最初は「ある男」を観た直後だったので、同じ「無国籍」が生んだ悲劇なのか?と思った。
ところが…

市子の人生はぐじゃぐじゃでぼろぼろで、何処にも希望なんてものは見当たらない。
所謂、毒親と呼ばれる母に育てられるが、家は貧しいし、とても清潔な環境下での暮らしぶりではない。ほぼネグレクトな状態だ。
母は母親と言うよりも「女」を生きている。傲慢で利己主義で、こんな母親が本当に居るのか?と思わせるような人だ。
子供時代の市子は気が強くて正義感に燃えているように見えるが、実はずる賢い。自分に残された微かなプライドを守る為なら万引きもする。
裕福な家の子と友達になるが、子供社会でも「貧富の差」が、その前に立ちはだかる。

なんて残酷な映画だろう。

裕福で清潔な家庭、目の前には市子が食べたこともないショートケーキが置かれている。

「こうやって食べるのよ」

裕福な家の子の母は、市子のショートケーキのフィルムを剥がしてくれる。
其処にあるのは本当に優しさだけ?見下したりはしていない?
市子の家はぐじゃぐじゃで洗濯物が家の中に所狭しと干してある。その歴然とした差…

ねぇ市子、本当に「きっと明日は晴れる」のかな?

市子には難病 ALSを患っている「月子」という妹が居た。
或る真夏の暑い日、市子は母の留守中に妹の酸素吸入器を外してしまう。月子は、ただその姉の様子を見開いた瞳でじっと見ている。
堪らない。
息絶えた月子を帰って来た母が見て、市子に掛けた一言が想像を絶した(泣)
ご自分の目で確かめて欲しいので、敢えて教えない(苦笑)

それから市子は妹の「月子」となって生きていく。
何故そうなったのかは、二回観たが映画の中に答えは見つからなかった(妹の月子には戸籍があったが市子に無かったのは、やはり離婚してから六ヶ月以内に生まれた子供だっから?)

ぐじゃぐじゃでズタズタな人生を歩む市子が、たった一人、本気で好きになったのが長谷川だった(と私は信じたい)その彼の元からも去らなければならない市子。

現代に於けるDNA鑑定が過去の犯罪を暴いていく。逃げるだけの人生の中で、掴みかけた幸せさえも自ら手放さなければならない。
市子も、その時その時を懸命に生きていたのに…。
決して「正しい選択」だったとは言えないが。
涙は出なかった。
ただ私はずんとした重く暗く何とも言えない哀しい思いに包まれた。
結局、市子は死んだのか生きているのか?


人の闇を無言と言う沈黙で描いた秀作だと思う。






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