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「短編小説」「最後の日」#「シロクマ文芸部」

「最後の日です」

西暦3023年 4月1日 内閣総理大臣ビートタモリが壇上に上り、緊急記者会見と称したテレビの生放送で話し始めた。

ビートタモリは20世紀と21世紀に我が国日本で活躍したお笑い芸人の末裔であると自称しているが、真相は定かではない。また、どのような経緯で大物お笑い芸人の血筋が今日に残ったのかも不明だ。大昔の辞書であるウィキペディアを紐解くとタモリ氏は生涯子孫は残さなかったと記されていたような…いないような…。

さて、それはさておき、ビートタモリは新人類「サルサピエンス」と旧人類「ホモサピエンス」とのハーフである。
ホモサピエンスはヒト史上、長い間地球を支配してきたが文明の進化に伴う排気汚染、水質汚染、地球温暖化等でことごとく自然を破壊した悪性ヒトとして現在も語り継がれている。また長寿としても知られ、二百歳を越えた旧人類が今日も多数、介護施設で生き残って税金を貪り食っている。

ホモサピエンスとサルサピエンスの大きな違いは、二足歩行のホモサピエンスに比べサルサピエンスは四足歩行だという点だろうか。
ホモサピエンスは長寿のあまり、その殆どが寿命の途中で歩行に困難を機するようになった。その為、新人類サルサピエンスは「えい!メンドクサイ!」遺伝子の進化で誕生から死に至るまで四足歩行を貫き通すようになった。

「クララが立った」
     ※聖書「アルプスの少女ハイジ」より抜粋
からと言って賢くはならないのが、「えい!メンドクサイ」遺伝子の極論であった。

ビートタモリは21世紀初頭、ロシア対ウクライナの戦争で勝利を果たしたウクライナ首相ゼレンスキーがお笑い芸人だったと言うホコリを被ったような伝説を利用して日本のトップに躍り出た駄馬出身の政治家である。サラブレッド出身の二百歳を越える旧人類が多い議員の中では異色の存在感を放っていた。

コトッ
旧人類用の高いマイクポジションを目一杯低くするとおもむろにビートタモリは、話し始めた。

「最後の日です!我々人類、いや地球最後の日が訪れようとしています。明日、太陽が爆発し消滅します。地球だけではない。太陽系全ての生命体の危機が迫っています。でも落ち着いてください。先程、緊急国会で日本は核爆弾を投下する事が決定しました。日本全体で自死する運びとなったのです。落ち着いてください。今から数時間後、私は核爆弾のスイッチを押します。それまで皆さん、幸せに過ごしてください。タイムリミットは23時59分です。では」


アナウンサー「以上、国会中継でした」


はぁ〜?
テレビを観ていた私は何が起きたのか分からない驚きと恐怖に襲われた。

今から数時間後に死ぬ?私も?
いや、地球が滅びる?
何なの、これ!
おまけにあれだけ「自殺」や「安楽死」を認めようとしなかった日本政府が、日本全体で自殺?
太陽が無くなったらヒトは生きていけないの?
それより日本は核爆弾を世界にナイショで、いつの間に保持していたの?
……

ぐるぐると思いは空回りするが、建設的な結論は何も浮かんで来ない。

困惑の中で、またテレビニュースが流れた。

アナウンサー「先程入ってきたニュースです。総理の記者会見を聞いて各地で暴動が起きています。止める者は誰も……ア、イテ…何すんのよ〜!イタ、バカ!このチン〇コ野郎!」

サルサピエンスの女性アナウンサーが、ボカスカと民衆に殴られているが誰も止める者は居ない。警官もパトカーを空に飛ばして遊んでいる。
それはそうだ。警官ももうすぐ死ぬのだ。仕事なんてやってられないだろう。
テレビカメラは、そのまま其処だけを写している。知能が高いカメラマンロボットが逃げ出したのかもしれない。

私は夫にテレビ電話を掛けてみる事にした。私の隣にはもうすぐ生まれてくるはずの第一子が試験管の中でスヤスヤと安らかな寝息を立てている。この子には未来がなかった?

「もしもし…」
「はーい、ベイビー、君も加わらないかい?」
「えっ……」

夫は私が怪しんでいた女性秘書を膝の上に乗せ、セックスの真っ最中だった。
「あなた、どういう事?」
「どういう事って、こういう事さ。はぁはぁ、あぁ〜、いい」
「あなた、それは旧人類の性交渉じゃないの?」
「はぁ、はぁ、そうだよ、僕は一度『性的欲求撲滅ロボットAIちゃん』じゃなくて、はぁはぁ……ホモサピエンスのソレを…あ、イッ」
「あなた、性犯罪法違反で捕まっちゃうわよ。捕まったら即刻死刑よ!」
「はぁはぁ……どうせ、死ぬんだ…うっ、いいね、君、もっと腰を……はぁ、そう……そ、の、感じ…」

夫に相談してもダメだわ。
でも不思議と涙は出てこなかった。どうせ死ぬのなら、あの人も好きな事をすればいい。
私はテレビ電話を思いきり床に叩き付けた。
何を壊しても、明日がないなら不便なんて言葉は、もう存在しない。
じゃあ、私は何をしてタイムリミットを迎えるまで「幸せ」で過ごそう?

ピピッ

リモコンを作動して、愛車BMWを地上550階の我が家の玄関入り口へ呼び寄せた。私の愛車は陸、空、海を走る事は出来るが、旧人類が名作と呼んでいる映画「バック・ツゥ・ザ・フューチャー」のデロリアンのように時空を行き交う事は出来ない。3000年に開かれたサミットで一般車両の時空走行は禁止された。それと同時に生産も中止された。現在、その車両を持っているだけで死刑になるから、デロリアンもどきは地球上に存在しない。

「そうだわ」

私はBMWの運転席に乗り込み「焼き芋」と言ってみた。今までダイエットを続けて体型を維持してきたが、明日死ぬなら思いきり好きな物を食べよう!
滑るように愛車は走り出した。
街を見下ろすと騒然としている。スーパーを襲う者、ヒトをナイフのような物で刺す者、夫のように道路や空中で性交渉を営む者、もはや日本は無法地帯と化していた。
愛車のフロントガラスに紙吹雪が舞ってきた。
「あら、これは旧紙幣じゃない」
それは2050年頃に廃止になった紙のお金と呼ぶ物だった。現在の価値は1枚数億にも値するだろう。誰かが何処かで、その旧紙幣をばら撒いているらしいが、誰も見向きもしない。

「明日死ぬのにもうお金なんて必要ないわ」

私は「焼き芋売りロボット」から焼き芋をしこたま買い込んだ。
「オナラなんて出たって平気よ。恥って言葉は未来があるから使うのよ」
一口頬張ると懐かしい芳潤な甘味で脳がとろけそうになった。
「超高級ケーキ」
私はまた愛車に悪魔のささやきのような言葉を言ってみた。スルスルと今度は「高島屋デパート」の地下に愛車は滑り込んだ。旧人類のセレブリティが好んで使っていた信用のあるデパートだ。ところがホールケーキは何処にも見当たらない。いや、あっても形をが崩れている。店員ロボットの姿も消えている。どうやら反乱を起こしている民衆が、パイ投げという古いイベントをしたらしい。ケーキはホールごとペチャンコにあちこちに崩れ落ちていた。
「まぁ、これでいいわ」
私はショーケースの中に残っていたショートケーキを勝手に箱に詰めて車の助手席に乗せた。
それからケンタッキーを買い、いや盗み、マックのサムライバーガーを盗んだ。
「サムライ?って何かしら?考えた事なかったけど」

「ホーム」
愛車に指示すると家のリビングに戻った。

食べた、食べた、飲んだ、食べた、飲んだ……

取っておいたヴィンテージワインやサントリーの山崎1000年物を私はガブ飲みしながら、好きな物を好きなだけ口の中に放り込んだ。
テレビは何も知らせない。
そして深い眠りについてしまった。

目覚めると深夜だった。
街は静けさを取り戻していた。暴動も収まり殺し合いもセックス三昧も終わりを告げたのだろう。

23時59分

テレビが自動的に入った。

「あぁ、いよいよその時なんだわ、神様!」

アップで映し出されたビートタモリがニヤリとみそっ歯で笑った。

「なんちゃって!今日は旧人類のお祭りエイプリルフールでした〜。一度やってみたかったんだよね」

アナウンサー「以上、国会中継でした」

は?
はぁ~?

身体中の力が抜けていった。


3023年4月2日 総理支持率は0%に落ちた。
しかし、それが増え続けたホモサピエンス駆除の為だったと分かると一気に80%にはね上がった。






こちらの企画に参加させて頂きました。ちょっと長くなっちゃった(苦笑)

小牧幸助さん、よろしくお願いしますm(__)m


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