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旅とか日常とかサブウェイとか。 #パナマ・サンブラス諸島

休日のひとりランチ。がっつり食べたいわけではないけれど、「ちょっといいもの食べたいな」のタイミングで、サブウェイに行く。

大好きなたまごとエビとオリーブを一度に食べられて、オレンジジュースがついてもお手軽な値段で楽しめるから、気軽に足を運べるファーストフード店のひとつ。ちょっと冒険したい日は、カスタムを楽しむなどする。

もうひとつ、サブウェイに行くタイミングがある。それが、旅先で食に迷ったとき。

特に海外旅行では、そうするようにしていた。知らない土地ではつい食べるタイミングを逃してしまいがちだし、気付いたらビタミン不足で肌が荒れたり口内炎ができたりしがち。そんなとき「とりあえず野菜を摂った」という事実は、どこかわたしを安心させる。だから、パナマでもインドでも、旅程の中日くらいにサブウェイを訪れた。

多分それは、マクドナルドだってケンタッキーだって良かったのだと思う。それでもわたしが「サブウェイ」に拘るのは、はじめての海外旅行で好きな人に連れて行かれた店がサブウェイだったからだと思う。中米はパナマにだって、サブウェイは出店していたのだ。

初めての海水浴を翌日に控えたわたしたちは、眩しい日差しを浴びながらパナマ運河を眺め、彼が最近ハマっているというピザ屋さんで早めの夕食を取り、寂れたカジノのルーレット台の前でジンジャーエールを飲んだ。ほんのお遊びで掛けた数ドルは全く当たらなくて、小説『深夜特急』のような緊張感も興奮もなかったけれど、日本とパナマという8,000マイルも離れた地にいた恋人と並んで雑多な街を歩いているということが、もう充分わたしをワクワクさせていた。

カジノのジンジャーエールは、日本でもよく目にするCANADA DRY。いつか海外では醤油を「KIKKOMAN」と表示しているのを見かけたことがあるけれど、そんな感じなのか、彼はジンジャーエールではなく「CANADA DRY」と注文していたな、なんてことを思いながら、並んで歩く。

「明日は朝が早いから、朝食を買って宿に戻ろう。久しぶりに、野菜も摂ろうか。」

そう言った彼が入ったのが、例のサブウェイだったのだ。

初めての海外旅行に、初めてのカジノ。お腹が空いているのかいっぱいなのかも自分では判断できなかったし、メニュー表にはスペイン語しか書いていなかった。まぁわたしはスペイン語はおろか英語力だって怪しいから多分それが英語で書かれていたとしても、それだけでお腹いっぱいになっただろう。

「え。なんでもいいよ。」

完全に、「デートで彼氏が戦意喪失する言葉集」に載っていそうな一言だけど、本当にそれしか出てこない自分に半分自己嫌悪しながらそう呟いたわたしに

「食べ物のことなんか考えている余裕ないか。二人で一個でいい?」

と確認してくれた彼は、手慣れた感じで注文を進めてくれた。彼のマイペースさと適度な気遣いは、この旅で何度もわたしをすくってくれた。

そんなわけで翌日、まだ夜中なんじゃないかと錯覚するような真っ暗闇のパナマシティから四輪駆動で数時間かけて、カリブ海の入り口へ向かった。途中までは車窓越しに見えるトランプタワーやいかにも海外っぽいやたら広い道路を眺めていたけれど、いつの間にか深く眠り込んでしまった。そして、車に酔い、微睡みながらやっと着いたそこは、夜更けの薄暗い港だった。

このどんよりした場所が、本当にあの写真で見た透き通るような島々へと繋がっているだなんて信じられないな。と心細くなりながら、煙草をふかす彼の横でサブウェイの包み紙を開いて、がぶっと噛み付いた。

彼のバックパックに入っていたそれはえらくべチョっとしていたけれど、シンプルな肉と野菜とバンズの優しい味がするアレだった。食べ終える頃には日が昇り、彼に「楽しみだね」と声をかける余裕も戻ってきた。

空腹では余裕がなくなるし、脂っこいものばかり食べていても調子が出ない。サブウェイはいわゆる「和食」とは程遠いものだけれど、「食べ慣れた味×野菜」という組み合わせは、想像じていた何倍もわたしの心と身体を元気にしてくれた。

ボートが海を泳ぎ出して数分すると、港での薄暗い空と海は夢の続きだったのではないかと思うほど、眩しい太陽がわたしたちを照らし、海の色も藍色から真っ青に変わっていった。

「わー。めっちゃきれい!」

と興奮するわたしに

「元気になってきたね。パナマの海、この前sanmariが友達と行ってたUSJよりよっぽど楽しいでしょ?」

わたしの頭を撫でながら、そう言った彼の表情は、ドヤ顔だった。大人数で行くUSJとデートで行くカリブ海は、楽しいのベクトルが違いすぎる。でも確かに、楽しくなってきたのは事実。

わたしたちを照らす太陽はさらに眩しく、空は青く、ボートは加速し、海の水は透き通っていった。

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