もう、マンゴーをカゴに入れるようなことはしないように。
最近どうも、男の人の声が、聴き取れない。
「もらえるものはもらっておこう」もほどほどに。に書いたように、今、新しい補聴器を借りて試聴していまして。気付いたら、この補聴器との生活も、そろそろ2ヶ月になる。
こんなに長い間借りても良いのか?!とも思いながら、3週に一度くらい音の調整をしてもらいながら、試聴を続けている。
補聴器を変えてみて、言葉が聴き取れる割合がグッと上がった。普通の音声での会話は大体60dBくらいと言われているんだけれど、この60dBで大体65%くらいの言葉が聴き取れている。
日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワークというわたしが学生時代とてもお世話になった機関によると、この60dBは普通の話し声の大きさくらいらしい。ちなみに、「普通」ってどれくらいなんだっていうのはイマイチわからない。
普段結構ペラペラ喋っているから意外だと思う方もいらっしゃるかもしれないが、わたしが音だけで聴き取れるのは半分とちょっと。あとは口の形を見たり前後の文脈から言葉を類推していることが多い。
前の補聴器のときは、同じ60dBでも50%くらいしか聴き取れなかったから、確実に今の補聴器の方がコミュニケーションが取りやすくなったと思う。でも、これはあくまでも、静かな補聴器屋さんで測った数値。
実際にわたしたちが普段生活している日常は、他の人の話し声や電車や車の走行音、いろんなお店から流れてくるBGMなどいろんな音に囲まれている。それらの中から「自分の聴きたい音」だけを弁別するのには、かなりの集中力が必要だ。
補聴器とiPhoneが、はじめてBluetoothで繋がった日のこと 。にも書いたように、それは、日本人が事前学習をせずにポンっとアラビア諸国に送り込まれたような状況のような感じで、それなりの努力と経験が必要だと思う。
それでも、補聴器があることで65%も聴き取れるんだからありがたいことだと、普段からわたしの耳として大活躍してもらっている。
のだけれども、この補聴器を試聴するにあたって何度音の調整をしても、低音域の音の入りが悪いらしい。静かな補聴器屋さんの防音室で音を聴く限りそんなに大したことはないと思っていたし、職場も女性が多いからそんなに気にしていなかった。
そんなわたしに補聴器屋さんは「もう少し音が入ってくれてもいいんだけどねぇ」と、しきりに唸っていた……ような気がする。
この補聴器での生活もそろそろ2ヶ月。職場だけでなくプライベートでもいろんな音を聴くようになった。確かにこのご時世だから会える人はぐっと狭まったのだけれども、それでも男の人の声を聴く場面が幾度か出てきた。
すると、手話がある場所や、マスクを外した状況ではほとんどなかった「訊き返し」や「聴き間違い」がとにかく増えた。
この前なんかスーパーの青果コーナーで「僕、マンゴー嫌いなんだよねー」と言われたのに、何事もなかったかのようにマンゴーをカゴに入れて失笑された。そのまま歩こうとしたら、肩をトントンとされて「これ、嫌いって言ったんだけど」と手話で言われて慌ててカゴから出した。
ごめん。でも、「マンゴー」しか聴き取れなかったし、自分が好きなもんだからてきっきり君も好きだと言っているんだろうと思ったんだよ。と伝えることができて、その場は一件落着。
それにしても、彼が手話のできる人で、わたしのきこえを知っている人で、本当によかったよ。じゃなかったら、あれは、ただの嫌がらせだ。
そんなわけで本当に、男の人の声が聴き取れない問題は深刻さを増してきている。検査結果って、嘘をつかないんだなぁ……。
「sanmariちゃんが今の聴こえで問題ないならいいけど、わたしとしてはもう少し音を拾えるスピーカーに変えたいんだよね」とおっしゃっていた補聴器屋さんの目は間違えていなかった。
今使っているのは高度難聴用のスピーカーで、小さめ。もう少し音を拾えるスピーカーに変えると重度難聴用のものになって、大きさもちょっぴり大きくなる。
わたしの耳の形はどうやらちょっと特殊らしく、今の耳穴に合わせた補聴器を作るのにもう6回も型取りをしていて。(わたしの友人は、ほとんど多くても2回くらいしか型取りをしないで完成している)だから実は、やっと形が決まったところだから、改めて重度難聴用のスピーカーに変更するのには抵抗があった。
でも、幸いにして今試聴している補聴器と種類も値段も変わらずに、重度難聴用のスピーカーに変更できるらしい。そして、腕利きの補聴器屋さんはもうそれをわたしの耳の形に合わせて作ってくれているらしいから、本当にすごい。
もしかしたらまた、わたしの耳型にぴったりの補聴器になるまでの調整の道のりは長くなるかもしれない。でも、マンゴーをカゴに入れるようなことが起こったら、今度こそ嫌がらせかと思って嫌われてしまうかもしれないし、それは困る。
補聴器の試聴期間が何ヶ月にも渡るのは、こういう生活での経験を踏まえて自分の補聴器を選ぶ必要があるからなんだな、ということをマジマジと知った。「これでいい」じゃなくて「これがいい」と思えるわたしの相棒が、必要だ。