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補聴器とiPhoneが、はじめてBluetoothで繋がった日のこと 。

この日、zoomを退室した瞬間の余韻は、いつもの楽しさと疲労感ではなく、新しい気持ちだった。なんだかよく分からない温かさ、としか言い表す術がわからないんだけど、多分、わたしの心はとっても満たされていたんだと思う。

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わたしには、聴覚障害がある。右耳は全く聴こえなくて、左耳に補聴器をして生活している。でも、その補聴器はナマの人の声を拾うために開発されたものであって、機械音にすこぶる弱い。

例えば、テレビとかラジオとかそんな類のものは、「音」としてはきこえるけれども「ことば」として聴き取ることが難しい。

わたしはその状況をよく、日本人が事前学習をせずにポンっとアラビア諸国に送り込まれたような状況だと例える。音として街の喧騒があることはよく分かるけど、道行く人や市場の物売りの言っていることは何度聞き返しても分からない。それでも、
・静かな状況で
・人の声を聴き取る
という点で、補聴器の使用はわたしにとって必要不可欠なもので。

ところで、冷蔵庫や顕微鏡に耐用年数があるのをご存知だろうか。冷蔵庫だと約6年、顕微鏡は8年らしい。わたしが通っていた中学校の顕微鏡はうん十年ものだったと記憶しているけれども。

そして、補聴器にも耐用年数が存在する。それは大体5年くらいで、補聴器購入のために自治体から助成金を出してもらえるのも「前の補聴器を新調してから5年後以降」といわれている。

わたしが使っている補聴器もそろそろ買い替えどきだろうかと指折り遡ると、前回の補聴器新調時から7年も経っていた。やれ就職だのやれコロナだのと日々を過ごしていたら、今使っている補聴器は製造中止になっていた。

そんなわけで、新しい補聴器を購入する手続きを始めたのが今年の3月のこと。

補聴器は自分の耳代わりだし、なんといっても、高い。めちゃくちゃ高い。片耳で50万円くらいするものだってある。

もちろん福祉助成を使ってほとんど自己負担なしで購入できるものもあるけれど、健聴の友達と音声メインでコミュニケーションをしたり音楽を楽しんだりするには、正直物足りない。

安価な補聴器でも「音」は拾うことができる。ただ、エアコンが稼働する電子音や窓の外の喧騒さえも増幅してしまって、わたしの耳に入ってくる音がアラビア語なのかエアコンの音なのかの区別もつかない。それに、生活の中で必要な音(例えば、トイレで用をたす音とか)までもがカットされてしまうなんてことが起こる。

ちなみに、トイレで用をたす音って聞こえなくてもいい音なのかもしれないけれど、きこえないとどうもスッキリしない。生活の中のありとあらゆる「音」に意味があって、それらに囲まれてわたしたちの生活は成り立っているんだと思う。

とにかく、3月くらいからいろんな補聴器を視聴しながら新しいわたしの「耳」を探していて、やっと決まりかけている新しい補聴器には、Bluetooth接続機能が搭載されていた。

先日、ひょんな流れでAnkerのショップに行ったときに店員さんの説明を受けたんだけど、どうやら、今どきのワイヤレスイヤホンって自分で好きな音をカスタマイズできるらしい。なんてハイテクな!

それと同じように、今どきの補聴器はBluetoothでiPhoneと接続できて、アプリ内でイコライザ調整ができるようになったらしい。福祉助成を利用しても、20万を軽く超えるけれど。

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とにかく試聴期間にいろんな機能を使ってみようと思っていたところ、オンラインコミュニティ #旅と写真と文章と の仲間たちからzoomのおしゃべり会に誘っていただいた。つまり、今が試しどきだろう……とiPhoneと補聴器をBluetoothで繋いで参加してみた。

すると、今まで「お*$%&’あー」みたいに聴こえていた音が「こんにちはー」とかなり明瞭な「ことば」として聴き取れる。そして、みんなと繋がっていた約2時間が終わったときの疲労感が、いつもの3分の1くらい。

もちろん、顔を出していない相手やはじめましての方の声を聴き取ろうとすると口の形が読み取れないから相変わらず不明瞭にしか聴き取れないし、2人以上が同時に話し出すとすっかりお手上げ。

zoomには昨今「字幕」機能が搭載されたんだけれど、UDトークと連携していない人の声の認識率はどうしても低下するし、「雑談」むけではないように感じている。なんというか、講義や講演を視聴するときの「The 情報保障」って感じ。)

それでも、7〜8割を口の形の読み取りに費やすときよりも断然スムーズに会話に参加できた。

多分、わたしのきこえが元々補聴器機と相性が良いこととも関連はあると思う。(学生時代も、比較的聴き取りやすい声質の教授の講義では、補聴器機を活用した情報保障を受けていました)だけど、テクノロジーの進歩は確実にわたしの生活を良い方向に変えていっているんだろうな、とも思う。

いつもは、大好きなみんなの顔を見ることで繋がることができているということに幸せを感じてたzoomでのひととき。でも、みんなとの会話を「凝視」しないで「聞く」(本当に、意識しなくても頭の中に「ことば」が入ってきた)経験ができると、幸せは3倍増しくらいになる。

そんなことを知ってしまったわけだから、わたしはこの夏のボーナスの大半をこの補聴器の購入に注ぐんだろうな、と思っている。うれしい。本当に、うれしい。そして、たのしみ。

【この記事を書くにあたって参考にしたHP】
・耐用年数表(国税庁)
・補助金給付について(リオン)
・WIDEX  MOMENT
・字幕とライブ文字起こし(zoomヘルプセンター)
【このnoteに関連する記事】
・聴覚障害者のわたしが、大学の講義で実際に利用していた6つの情報保障
・2019.11.12 文字ch_もじチャン vol.3〜世界が交差した瞬間〜

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