見出し画像

ロボット開発者・石田卓也さんの「!!!」——自分の「好き」で、誰かの役に立つために

ビジネスの現場で活躍する人は、どのようにして目の前の仕事と向き合い、自分らしい問いを探究しているのでしょうか。今回は、話せるロボット『PALRO』(パルロ)の開発に携わる、富士ソフト株式会社の石田卓也さんにお話を伺います。石田さんの仕事は、いわば人間と共生する“愛されるロボット”の探究です。いかにして、その探究活動に至ったのでしょうか。

石田卓也さん
富士ソフト株式会社 プロダクト事業本部。高等専門学校時代からパソコンのプログラミング技術に慣れ親しんだ。2003年の入社以降、プログラミングやロボット開発に携わる。


「準備運動をしましょう!」——レクリエーションで活躍するロボットが生まれたわけ

——超高齢化社会が進む今、介護現場では人手不足の問題が深刻化しています。そんな中、話せるロボット『PALRO』は、数々の高齢者福祉施設に導入され、介護従事者の負担を軽減する存在としても注目されているそうですね。まずはPALROについて簡単に教えてください。

石田:私が開発に携わるPALROは、介護の現場で高齢者の話し相手になったり、レクリエーションを一緒にしたりする、自律型のコミュニケーションロボットです。たとえば、介護施設でのレクリエーションでは、オープニングの挨拶から準備運動、ダンスやクイズなど、PALROが高齢者の方を先導しています。また、高齢者一人ひとりの顔をしっかり見て、相手を認識し、名前を呼んで話をすることができます。顔認識機能によって一度会った人のことを記憶しているため、「〇〇さん、この間は一緒にしりとりをしましたね」といった会話も可能です。
介護現場では今「介護予防」の重要性が指摘されています。要介護状態まで進行させないためにも、筋力の衰えを防止し、脳の動きを活性化させるためのレクリエーションを積極的に行いたい。PALROがその「介護予防」の部分を担うことで、高齢者の方々だけでなく、施設のスタッフの方の負担を軽減できればと考えています。

——まさに現代の社会課題にアプローチしたロボットですが、石田さんご自身は、もともと「介護現場の課題を解決したい」という思いを抱いて、この仕事に就かれたのですか?

石田:いえ、そうではありませんでした。私は幼い頃から、とにかくプログラミングが大好きで。家庭用のパソコンが普及した頃から、プログラミングに夢中でした。高等専門学校でプログラミング技術を学び、大学でもプログラミングを活かせる研究を専攻しました。富士ソフトに入社したのも「プログラミング技術を活かせる仕事があれば」と思ったからです。そんな私が、たまたま縁があってPALRO開発チームに配属され、ロボット開発に取り組むことになりました。
実はPALRO自体も、当初は介護施設で活用することを想定されてはいなかったのです。ロボットを作ったあとで「介護現場に課題がありそうだ、ロボットが何か役に立てないだろうか」と話があがり、実際に私も近所の介護施設を見学しに行きました。そうした中で、どうやらレクリエーションや高齢者との会話を支援することで、PALROが役に立てそうだと発見し、レクリエーション機能の開発に取り掛かったというわけです。


正しいプログラムで正しくロボットが動いているのに、失敗?

——すでにある社会課題から企画を始めたのではなく、作りながら活躍の場を探していったのですね。

石田:そうです。ところが、実際にレクリエーション機能を搭載したPALROを介護施設に持っていっても、はじめはまったくうまくいかず、さまざまな問題にぶち当たりました。最初のうちは物珍しさで会話し、PALROが歌うのを楽しく見ている高齢者の方が、すぐに飽きて「もういいや」と離れていってしまうのです。会話が続かない。なぜだろう?と不思議に思いました。
私は正しいプログラムを書いて、その指示通りにロボットは動いている。だけど現実の会話が、やりとりが、想定通りにいかない。プログラムがバグっているのではなく、そもそも目指していること自体に、何か気づいていない問題があるのです。
なぜ、思い通りに喜んでもらえなかったのだろうか? なぜ、愛されなかったのだろう? こうして現場での試行錯誤が始まりました。

——「なぜ喜んでもらえなかったのか、会話が続かなかったのか」といった問いを持って、日々のやり取りを観察されたのですか?

石田:たとえば、プログラムを考えるときは「PALROがこう言ったら、おじいちゃんやおばあちゃんは『はい』か『いいえ』で答えてくれるだろう」と想像しています。でも、現場に行ってみると、プログラムを書いていたときには思いもよらなかった「そうきたか!」といった受け答えが、高齢者からされている。想定外のPALROとの接し方が現場で生まれているんです。その様子を見て「だったら、どういうプログラムにすれば、喜んで会話を続けたいと思われるのだろう」と考えていく。自分の目で現場を見て、どこに問題があるのかを考えていかなければ、解決策は見つかりません。
PALROを通して集まったデータを、プログラミング的に解析することはできます。一日を通してどんな行動をしたのか、どんな会話が発生し、どこで止まっているのか……。全国の介護施設から、大量のデータを集めることもできるんです。ただ、そのデータの中には「どうしてここで会話が途切れたのか」の答えはないんですね。一つひとつのやり取りを見て「このときのおじいちゃんは、ひょっとしたらこう感じたのかな?」と自分で想像し、課題を見つけていくしかないんです
こうした試行錯誤から、数々のバージョンアップを繰り返して、現在のPALROに至っています。そして今も、愛されるロボットに向けた探究を繰り返している途中です。


自分の持っている「好き」で、社会課題にアプローチするなら

——その試行錯誤は、与えられた課題をクリアするのとは違いますよね。一体どこに課題があるのかわからない状況の中で、目の前のデータひとつとっても、「どう見るか」が問われていたのではないかと思います。石田さんは、自ら課題を見つけるには、どんなことが大事だと思いますか?

石田:状況を改善するための課題発見は、わりと容易いと思うんです。私自身、「ここを改善してみたらもっとよくなるかな?」と考えるのは得意なほうだと思います。でも、そもそも何が問題なのかわからず、0から1にするというときには、「本当に自分が好きなこと」を出発点にしたほうがいいんじゃないかと思うんですよね。
私なら、プログラミングが好きなので、ロボットを動かすプログラムは書けます。この「好き」を、目の前の問題に役立てるとしたら、どんな役立て方があるのだろう?と考えてみるのです。すると、新たな機能を開発して、現場に持ち込んで試してみようといった発想が浮かんできます。今でも「こんなプログラムが使えないかな」と考えて、新しい機能を作り込んで現場に持っていくと、想像もしていなかった結果につながることもあるのです。
いま、社会にどんな課題があるかは、ニュースで見たり、調べたり、実際に現場を見に行ったりすることで、知ることができると思います。自分の持っている「好き」で、その課題にアプローチするなら、と考えてみると、社会の課題ではなく「自分自身の課題」になるのではないでしょうか。

■あなただけの「!」を見つけるために
コミュニケーションロボットで、介護施設の人手不足問題を解決する——。
素晴らしい課題解決のアイデアに聞こえるでしょう。しかし、実際の開発現場では、そのアイデアを実現させるまでに、さまざまな「想定外」が待っています。石田さんも、問題の解き方だけではなく、何が問題なのか、から考える必要に迫られました。
目の前の景色から気づきを得て、根気よく課題を見出していく。
そのための原動力は、私たち一人ひとりの中にあります。
 
! あなたの「好き」は、目の前の問題に、どう役立つだろう?

取材・文・構成:塚田智恵美


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?