ぱぷん。出せないこの音、期間限定
小さなくちにスプーンを運ぶ。
ぱぷん
ふくらんだほっぺたが、
ふくふくと動く。
幼い子どもの食べる姿は
どうしてこうも癒されるのだろうか。
ふたくち目を欲しがって
「あーん」と大きくあけた口は
それでもさくらんぼくらいしか
開いていない。
赤ちゃん用のスプーンに
ちょこっとご飯をのせて
下くちびるにのせてやると
ぱぷん
音がなって上くちびるがとじる。
……ぱぷんって何だろう。
マネして口を閉じてみる。
でも音はならない。
鯉みたいに口をぱくぱくしてみたけど
やっぱりならなかった。
開いたときのぱっはだせるけど
とじた時のぱぷんは
どうやっても出せなかった。
幼子はまたあーんと口をあけていた。
ぱぷんにすっかり魅了されて
色々なものをあげてみた。
かぼちゃも、いちごも、タラのすり身も、
空のスプーンも。
そして何もあげていなくても
口を閉じるだけでぱぷんとなることを知った。
上の子たちにも試してもらった。
だけど7歳も、4歳も、
ぱぷんはならせなかった。
これは一体いつまで出せるんだろう。
この音は特別だ。
離乳食をつくるのはとても大変だし
食べさせるのはもっと大変だし
その片付けももちろん大変だ。
汚れたり、こぼれたり、飛んでいったり。
上の子たちを育てている時は
あまりに必死で音まで楽しむ
余裕がなかった。
3人目で初めて知ったぱぷんの存在。
この音は今しか聞けないご褒美だ。
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