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【低血圧エッセイ】カタツムリのあしあと

低血圧の人は多いと思う。
私もその1人。
平均すると80-50くらい。
献血できたことがない。

麻酔を使うと血圧やべぇアラームが鳴り続ける。

三男を出産した翌日は上が60を切った。
「危篤状態の患者さんの数値です。」
と言われた。車イスでトイレに行った。

絶対に立つな、とも言われた。



立つとどうなるか。
倒れる

初めて低血圧で倒れたのは小学校の低学年だった。

保護者も呼んで行われた合唱会。
ステージの真ん中、歌い出してすぐ、耳がボーっとなって聞こえなくなった。

だんだん目の前が暗くなってくる。
自分に何が起きているか分からないけど、なんかヤバそうだということは感じていた。

脂汗が出てくる。

息がハーハーする。

気持ち悪い。

足に力が入らなくなり、とても立っていられない。もう目の前はほとんど真っ暗で、見えるのは自分の上履きの先っぽだけになった。


そこから先の記憶はない。


脳貧血、起立性低血圧、迷走神経反射?
なんか色々言い方はあるけど、
病気じゃないし、血圧低いだけ。
ならいいか。


それからも倒れるのは何度も続いた。

温泉で倒れる。
お腹壊した時も。
緊張した時も。
お酒を飲みすぎた時も。

大学の時、簿記の試験が始まってすぐ倒れた。
座ってても倒れるのは知らなかった。

「試験が始まって30分間は決して席を立っていけない。席を離れたら全員失格になる」と言われた。顔面蒼白で席で気を失った。嘔吐してもなお、その場を離れることは許されなかった。カナシイ



すぐに頭を下げて足を上げないと、血液が脳にまわらない。この頃は体重が38kgしかなかったから余計にひどかった。



とまぁ、低血圧とともにずっと生きてきたわけだけど。

大人になった今も変わらない。
まず朝が弱い。起きられない。

身体中の水分がアメーバになったみたいにどんよりして、布団から起き上がれない。

のそのそと壁に近づいて、足をあげて壁に立てかける。

足から頭の方へ血液が流れてくると、少しずつ頭が冴えてくる気がする。その間にnoteを書いている。だいたいそうやって1時間くらい布団にいる。


大気の状態が不安定な日、低気圧の時はさらにひどい。だから夏はキライだ。


だけどそのまま寝てるわけにいない。

「おなかすいたー!」
「がっこー!!」
「だっこー!!」
「プールカードにサインしてー!」


三兄弟は今日も元気。
耳がブーンってなる。

私がやらなきゃ誰もやらない。
(夫は単身赴任でいない)


のそのそと起きて、パンケースを見るもこんな日に限ってパンがない。昨日の私、買い物行かなかったな。チクショウメ

冷凍庫から焼きおにぎりを出してチン。
「悪いけどこれ食べて学校行って…」
ようやく絞り出した声に、返ってくるのは


「ママー!!牛乳持ってきてー!!」
耳キーン。


「ママ元気ないから僕たち自分でやるね!」
みたいの思い描いちゃった。ドラマノセカイ!


アメーバを引きずったまま、三男をベビーカーに乗せて保育園まで歩いていく。


本当は一緒に手を繋いで、アリさん見つけたり、葉っぱ見つけて歩きたかった。

でも無理だった。クヤシイ


私の歩いた道にてんてんと、いや、ズルズルとアメーバのカケラが残ってやしないか。カタツムリみたいに、引きずった足からドロドロが漏れ出てる気すらした。



……だけど、歩いているうちに、少しずつ少しずつ体が軽くなっていくのを感じた。本当に何かが出ていったのかもしれない。


私の後ろを歩いてるお兄さん、ごめんね。
たぶん、私の残したドロドロ踏んでる。
でもこれは、うつったりしないはず。


お兄さんは力強い足取りで私を追い抜いていった。お兄さんの背中から、虎みたいな強い力が溢れていたから、ありがたく頂戴した。
ーーこれは、うつってほしいやつ。


虎のお兄さんが左によけたと思ったら、向かい側からベビーカーの親子が歩いてきた。ベビーカーの中の赤ちゃんはこちらにむかって手を振ってくれた。赤ちゃんからはふわふわした、木の芽みたいな力をもらった。
ーーこれも、うつってほしいやつ。



今日もなんとか始まった一日。
保育園の階段をのぼる足取りはさっきより軽い。

道ゆくお兄さんに。
手を振ってくれた赤ちゃんに。
道を譲ってくれた車のドライバーさんに。
学生の笑い声に。
今朝、私とすれ違ったあなたに。


たくさんの人に少しずつ力をもらって、私は歩幅を広げて歩いていく。



ありがとね。




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