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再び感染者が増える中で何をするか(JES通信【vol.149】2022.07.11.ドクター米沢のミニコラムより)

1.再び感染者増のきざし

 6月後半から 全国的にコロナの新規感染者が増加し始め、東京でも6月18日以降、前の週よりも感染者が多い状況が続いています。7月初旬時点で起きていることをまとめました。
 
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A.オミクロン感染の特徴
 ・オミクロンはデルタに比べ感染力が強く免疫も効きにくいが、重症化率は低下
 ・ワクチン2回接種ではオミクロンへの効果が不十分
 ・そのため昨冬に大流行(第6波)が起こり、過去最多の死者が出た
   (重症化率が下がっても感染者が多数になれば死者は増える)
 ・昨冬の主役はオミクロンBA1、春にはBA2に置き換わった
 ・6月前半にある程度収束した。ワクチン3回目が進んだ効果か?
B.好ましい状況
 ・軽症の感染者が多い
  ⇒ワクチン3回接種による重症化予防効果のためと思われる
C.懸念されること
 ・4月以降、ビジネスなど人の動きが活発化している
 ・ワクチン3回接種が6割台にとどまっている
 ・ワクチン3回接種開始から時間が経ち、感染予防効果が低下した人が増えている
 ・BA1、BA2より感染力の強いBA5が増え始めた(東京ではBA5が25.1%)(資料1)
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●「オミクロンは軽症」と呼ぶのはためらわれる
 デルタに比べオミクロンの重症化率は下がっています。しかし重症化率の低下よりも感染力の増大の影響が大きかったため、死者は過去最多となりました。この事実を前に「軽症」と呼ぶのはためらわれます。ただ、高齢者や基礎疾患のある人を除けば軽症で済む人が多いのは確かです。このあたりの表現は本当に難しいのですが、社会全体としてはオミクロンを甘く見てはいけないように思います。
 
●職場での感染が増えている
 一方、ビジネス活動の本格的再開で人の動きが活発化しています。それに伴い職場での会議や会食での感染報告が増えているようです。日本は依然としてマスクの装着率が高いですが、会議室の換気はなかなか難しく、特に長時間の会議となると、たとえマスクをしていてもエアロゾル感染は避けられないでしょう。さらに会食の場ではマスクを外しますので、出社率の上昇に伴い感染者が増えるのはやむを得ません。感染すれば最低10日間は出社できませんから業務への影響は依然大きいです。「コロナは大したことがない」と考える人が増えているかもしれませんが、感染力はオミクロン、特に最近増え始めたBA5が過去最大です。2年前より感染しやすくなっていることを認識してください。
 ワクチンを接種したから大丈夫では?と思うかもしれませんが、オミクロンには3回接種しないと十分な効果が出ません。2回接種の人が4割いるわけですから、対面の会議で感染者が増えるのは当然です。
 
●航空機も要注意
 航空機の換気は良いと言われていましたが、最近見つけたこのレポートはショックでした(資料2)。2020年3月23日に那覇へ飛んだボーイング737-800の乗客乗員148名中少なくとも14人が感染し、遺伝子解析の結果、1名から広がったクラスターだとわかったのです。ワクチン接種が進んだ今は同じ規模では起きないでしょうが、資料の図を見ればわかるように、ウイルスはかなり広範囲に飛散しています。換気が良くても感染者の風下にいる人には常に汚染された空気が流れるわけですから、長時間の飛行にはリスクを伴うことがわかります。
 新幹線では人の乗降があるのでこれよりリスクが低いと思いますが、マスクをしっかりと付けるくらいしか対策が見当たらず、悩ましいです。
 

2.どのあたりでバランスを取ればいいのか

 2年以上続いたコロナ対策により、経済や我々の社会生活に少なくない停滞を生みました。取られた対策の中には過剰と呼べるものもありました。一体どのあたりでバランスを取れば良いのか、ずっと悩み続けているのですが、現時点では次のように考えています。
 
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・もはや、誰でもかかる病気
 ⇒社会活動を元に戻す中で個人の感染を完全に防ぐのは無理
・ワクチン接種3回以上の人は軽症で済む
・ワクチン2回以下、未接種者は引き続き重症化リスクあり
・高リスク者(高齢者、基礎疾患のある人)対策
・少数だが後遺症によるパフォーマンス低下の可能性
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 アメリカではすでに7割の人が一度は感染していると言われています。日本はまだ1割以下ですが、オミクロンの感染力の強さを考えると、今後数年の間にほとんどの人が一度は感染するのではないでしょうか。いつ、どこで、誰が感染するかわからない。誰でもかかる病気と認識を変える時期に来ていると思います。
 
 感染しても重症化は防ぎたいですね。そのためにワクチン3回接種がどうしても必要です。高齢者や基礎疾患のある方は4回目も受けましょう。医療・介護従事者に対しても4回目接種をぜひ実現して欲しいと思います。後遺症が無視できない問題であることも徐々に知られてきました。発生率は1~3割と言われますが、長期に欠勤するような重症な後遺症の発生率はそう高いわけではありません。しかし感染者が増えれば重症の後遺症を抱える人も増えます。ワクチンは後遺症を軽減する効果もあるので、やはりワクチン接種をお勧めします。
 

3.職場における現実的な対策

 では今後、職場でどのような対策を取るのが望ましいのでしょうか。職場における現実的な対策をまとめました。
 
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A.引き続き、職場クラスターを防ぐ
 ・体調不良者は出勤しない
   (できれば職場復帰前に抗原検査2日連続陰性を確認)
 ・社内では不織布マスクを使用
(声を出す時、周囲にマスク無しで声を出す人が居る時)
 ・会議室の換気
   (難しければ空気清浄機や紫外線殺菌照射システムを検討)
 ・会議は短く(30分以内が望ましい)
 ・会議の間は30分空け、ドアを開放
 ・これらが機能しているかを二酸化炭素濃度測定で判定
B.ワクチン接種3回目、4回目の推進
C.覚悟の会食?
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●喉の不調に要注意
 職場でのクラスターを防ぐのに最も意味があるのは、体調不良者が出勤しないことです。「風邪がどうした!」「熱くらいで休むな!」とった「昭和のかけ声」はもうやめましょう。オミクロンでは咽頭痛や声が出にくい、痰が絡むなど喉の症状が多いので、喉の異常を感じたらまずコロナを疑ってください。
 ワクチン接種者が感染した場合、症状は軽く短期でおさまることが多いのですが、症状軽快後も数日間は感染力のあるウイルスが吐き出されるので(資料3)、職場復帰前に抗原検査キットで2日連続陰性を確認することをお勧めします。
 各地に無料のPCR検査センターがオープンしているのに、抗原検査がいまだに有料なのは謎としか言いようがありません。一日も早く希望者が無料で入手できるよう制度を改善すべきです。
 
●会議室の換気は難しいが
 換気についてもこのコラムで何回か取り上げてきました。会議室の換気は本当に難しいですね。でも二酸化炭素濃度の測定である程度目安はつけられます。常時測る必要はありません。何人参加して何分話すとどれくらい濃度が上がるのかを確認し、部屋の使い方を検討してください。機器は数千円で購入できます。
 
●覚悟の会食?
 これもどう書いたものか、本当に悩みました。気の置けない仲間との美味しい食事や歓談は人生の楽しみでもあります。しかしワクチン3回接種していても完璧には防げません。どうしましょう?かかってもお互い様だね、と覚悟を決めて臨むのか。職場の重要な集まりであれば全員が当日に抗原検査を行う方法もありますが、プライベートでそこまでやるか。私自身は同居者以外との会食は極力避けていますが、まだしばらくは答えが出ない問いです。 

4.効果の薄い対策・意味のない対策はやめて負担を減らそう

 最後に、そろそろ見直されてもいい対策をいくつか挙げます。
 
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 ・屋外でのマスク(話さない時、近くに人が居ない時)
 ・ホテルの朝食バイキングの手袋
 ・トイレのエアータオルの禁止
 ・マウスシールド
 ・運転手1人で車に乗っているのにマスク
 ・スーパーのレジ係の手袋
 ・教室の消毒 などなど
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 マスクは前回のコラムで取り上げたので省きます。
 ホテルの朝食バイキングの手袋は謎対策の一つです。コロナの初期、バイキングでクラスターが発生しトングにウイルスが付いていたという報告から考えたのかもしれませんが、レストランに入る時に手指消毒して、マスクをし、未使用の自分の箸やフォークで食べ物を取れば十分ではないでしょうか。
 
 エアータオルの禁止も謎でした。エアロゾル感染から連想したのかもしれませんが、洗った手にウイルスがたくさん付いているとは考えにくいです。
そしてマウスシールド。まったく効果がないのに、先日参加した某学会でドクターが付けていたのには驚きました。まだテレビでも見かけますね。意味がないです。宅配便の運転手が運転中にマスクをしていない!と苦情の電話が入ることがあるそうです。1人しか乗っていないのに、誰にうつすというのでしょうか。
 
 スーパーのレジ係の手袋も、お客様ごとに交換しない限り意味がありません。汚れた手袋をつけ続けるよりも小まめな手洗いの方が大事です。
教室の消毒も無駄ですね。壁や床から感染するほど多くのウイルスは吸い込めません。それより換気をしてください。効果の薄い対策や意味のない対策はまだまだたくさんあります。無駄な労力は省き、もっと実効性のある対策に力を注ぎたいものです。
 

資料

1)新型コロナ変異株 オミクロンの亜系統BA.4/BA.5の特徴について 現時点
で分かっていること
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20220705-00303906
2)Transmission of SARS‐CoV‐2 during a 2‐h domestic flight to
Okinawa, Japan, March 2020
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8652895/
3)RAPID TESTS DO WORK WITH OMICRON
https://twitter.com/michaelmina_lab/status/1472024457640394756 

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