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ひとかじり哲学(トマス・アクィナス編)

普段なら絶対聞かない話をちょっと軽い感じで説明していこうの会。

今回は12世紀ルネサンスに再浸透したすごい哲学者ことアリストテレスさんの考えや、その考えを利用してキリスト教を合理的に捉えたトマス・アクィナスさんのお話。
かなり内容を省略・解釈しているため、実際のものと異なる可能性もある。ご用心されたし。

大雑把なまとめ

12世紀ルネサンスでイスラム圏から色んな文化がはいってきてヨーロッパの文化が発達したよ!
中でもイスラム圏の哲学者が改良したアリストテレスの哲学はヨーロッパの人々の哲学を推し進めたよ!
そのアリストテレスの哲学に影響を受けたトマス・アクィナスはキリスト教を合理的に説明したよ!
そして、倫理学や法学などといった人を導く学問を神学と融合させることで、キリスト教世界での理想的な状態を提唱したよ!

12世紀ルネサンスとは?

そもそもルネサンスというのは、フランス語で「再生」「復活」を意味する言葉。良くイメージされるのはイタリアで始まったものだと思う。ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロといったそうそうたるメンバーが揃うのはこの時代だ。ただ、実際にはルネサンスは複数行われている。その中でも12世紀ルネサンスというのは中世の文化を大きく変える転換点とも言われる。

何がすごいの?

いままで12世紀というのは暗黒の時代と呼ばれていたが、12世紀ルネサンスはその評価をひっくり返した。このルネサンスが無ければ、後に来る14世紀ルネサンス(一般的なルネサンス)が無かったとも言われる。

この時代には、十字軍遠征やレコンキスタが行われている。そのキリスト教にとっての聖地がある今のイスラエル辺りの土地をイスラム教から取り返そうとした過程で、ギリシャ・アラビア風の数学・天文学・哲学がヨーロッパ圏に流入。これがきっかけとなって12世紀ルネサンスが始まる。

なんで今さらアリストテレス?

この広まった知識の中に、アリストテレスの哲学がある。そもそもアリストテレスというのはかなり古いギリシャの哲学者のことだ。しかし、ローマ帝国末期にキリスト教が異国の文化が破壊。そのさなかに、ギリシャの文化の多くはヨーロッパから現在のイラン・イラク地域へと逃げ込んでいった。結果、アリストテレスの哲学などのギリシャ文化はイスラーム帝国のもと生き残っていたのだ。それが、遠征やレコンキスタでヨーロッパに伝えられることになった。
アリストテレスの哲学の中には、理論的なものとして論理学や自然学。実践的なものとして倫理学や政治学が含まれている。ヨーロッパの人々はこうした学問のような整合的な理論に基づいて世界を理解する方法得たのだ。

トマス・アクィナスって誰?

上記のアリストテレスの哲学の影響をを特に受けたのがトマス・アクィナスである。彼はアリストテレスの考え方を用いてキリスト教の信仰を体系的に説明しようとした。その一端が「哲学は神学の婢」という言葉からも分かる。哲学という学問は神学を合理的に解釈するための道具である、といった意味合いだ。

神学とは?

大雑把に言うと、聖書に書かれているような内容を自分たちの頭が理解出来る範囲に落とし込んで説明しようとする学問である。

神学は啓示神学と、自然神学の二種類に分かれる。啓示神学では、神というものを人の救済者として扱っている。キリスト教などで扱う神というのはこちらのことを指している。一方で、自然神学では信仰の対象ではなく、何でも出来る者として神は扱われている。そのため、理論だけでは説明出来ないことは神が実行していると考えている。

この二種類の内、トマス・アクィナスは啓示神学の方をアリストテレスの哲学を用いて考察しようとしていた。「人間の救済」のためには哲学的学問以外に、神の啓示による何らかの教えが必要であると考えていたためだ。
そもそも、一般的な人々にとって理性を超える存在である神についての真実を理性だけで追い求めるのは非常に難しい。そして、理解できたとしても僅かな人々だけであり、しかも多くの誤解が混じってしまう。だからこそ、トマス・アクィナスは多くの人が救済を得るために、誰もが理解出来るような神学を作ろうとした。

そこでトマス・アクィナスは正しい神学を作り上げるために、アリストテレスが作り上げた哲学を利用した。ここでの哲学というのは、誰もが頭を使えば必ず理解できるような意見を作るために用いるための方法のことだ。

しかし、哲学というのは基本的に自然にあるような出来事しか扱う事ができない。哲学が「自然を観察することで得られた法則を見つけ、その法則がなぜ成立するのか」といった考え方をする学問であるためだ。そのため、神学で扱うような超自然的な出来事は基本的に哲学では扱う事ができない。

そこでトマス・アクィナスは、超自然的な出来事に対しても説明が出来るような理論を組み立てることで、哲学的に扱う事ができると考えた。つまり、哲学というものが、全人類が頭を使えば理解できるような考え方で自然の法則を説明するものであると解釈すると、どんなに超自然的な出来事であっても、誰もが理解できるような説明の仕方をしていれば誰でも理解出来るため、それは哲学と同じである、という考え方から出来上がっている。

もっとも、この考え方をすると作られた仮説自体が正しいかどうかは怪しくなるのだが。

トマス・アクィナスの倫理学

徳倫理学とは

もともとはアリストテレスが作り上げた考えの一つ。行動を取る人のメンタリティに重きを置いている倫理学である。周りの人がどう判断しようと、その人の人柄が良い状態であれば社会にとっては有益でいるはずだ。といった考えである。
この徳倫理学をトマス・アクィナスは神学に持ち込むことで、キリスト教世界における理想的な人間のあり方を説明している。

ちなみに現在は倫理学といってもいくつか種類がある。そのあたりは以下参照。

徳とは?

とは魂が理想的な状態にあること。その徳を以下のような四つの視点で説明出来る。(四原因説)
1. それはどんなものか(形相因)
2. それはどんなものから作られたのか(素材因)
3. それはどのように作られたられたのか(作用因)
4. それは何のためにあるのか(目的因)

この四原因説自体について興味がある人は以下参照。

この視点を利用すると、徳というのは以下の通りに分解して説明出来る。
1. 徳を持つ人は良い人であると説明付けるもの
2. 人間自体が持つ魂の能力で作られる
3. 人間が始めから持っている能力と神が与えた能力が組み合わさり、習慣化することで出来上がる
4. 人間が正しく生きるため

魂の能力とは?

徳倫理学において特に重要視されるのは、人間の行動を司る魂が良い状態であるかいなかという点にある。そのため、魂が持つ能力が全て良い状態であれば、魂も良い状態であると言えるのではないか。

そんな考えによって魂の機能は以下の四つに分類された。
 物事の捉える方法
1. 知性 を利用して捉える。数式等は知性を使って捉えるもの。
2. 感覚 を利用して捉える。目や耳などで捉えられる。
 判断方法
1. 認識 を使って判断する。物事の真偽を判断する機能。
2. 欲求 を使って判断する。物事の善悪を判断する機能。

これら二つずつを組み合わせることで以下四つの理想的な魂の状態が得られる。

1. 知性+認識 理論などを正しく捉えることが出来る状態。なおかつ、捉えた理論を実践する上で正しい判断が出来る状態
2. 知性+欲求 他者との関係において善いといえる状態
3. 感覚+認識 通常通りに感覚機能が働いていれば問題ない
4. 感覚+欲求 するべき行動を取ることが出来たり、良くない行動を抑制出来る状態

これらの理想的な魂の状態がと言われる。これらの徳をバランス良く利用出来ている時に、人間は社会で正しい行動を取れるようになる。(この状態を枢要徳と呼ぶ)

トマス・アクィナスはここで得られた人間のあるべき姿を神学に持ち込むことで、キリスト教という世界において最も幸福な状態を考えた。それが「神の類似へと向かう人間」という状態である。この時、神を直接見ることが出来るため、キリストやその弟子達のような究極的な幸福を得た至福者となる。

トマス・アクィナスの法論

法の性質

徳と同じように法についても四原因説で性質を説明出来る。

1. それはどんなものか(形相因)
2. それはどんなものから作られたのか(素材因)
3. それはどのように作られたられたのか(作用因)
4. それは何のためにあるのか(目的因)

1. 法とは行為の規則や基準であり、その規則によって行動を促したり制限出来る。
2. 法が拘束力をもつためには、適用者全員が知っているという状態によって出来上がる。
3. 人民全体に配慮する公職者がその共同体の秩序を守る過程で出来る。
4. 共同体を秩序だった理想的な状態にすることで、人民の幸福を確保するためにある。

法のあるべき形

トマス・アクィナスは法を性質により、永遠法・自然法・人定法・神の法に分けた。これらの分類によって、永遠なる至福という人間の目的を達成しようと考えた。法を利用して上記で述べたような徳を自然と達成できるようになっている。

1. 永遠法 神の合理的な在り方によって出来上がるもの。
2. 自然法 永遠法の合理性を一部引き継ぎ、理性を持つ存在のために必要とされるもの。
3. 人定法 自然法を実際に効力あるものとして作られたもの。いわゆる民法や商法のようなもの。
4. 神の法 聖書を利用して、心の内部の動きを秩序だてるもの。

この内、実際の社会で利用されるのは人定法と神の法だけである。しかし、人定法はあくまで行動に及んだものだけしか統制することが出来ない。その状態では、魂の理想状態を作り上げることは不可能となる。
そこで、人間の理性を超えた存在である神の法を利用し、全ての悪徳を抑制しようとした。

まとめ

今回は12世紀ルネサンスの影響を大きく受けたトマス・アクィナスのお話。トマス・アクィナスにより、キリスト教という宗教を一つの学問として成立させ、合理的に宗教を捉える方法が作られた。
この方法を利用して、人間がキリスト教の世界の中で最も幸福になるためのあり方やそのための法整備などを考案している。

と、そんな感じの記事でした。
色々削ぎ落としているので、より詳細を知りたい人は枢要徳・神の法(lex divina)などで調べてみてくださいね。

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