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ジャンルは問わず、ただ純文学が多いかも。
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#書評

北杜夫『どくとるマンボウ航海記』書評

北杜夫『どくとるマンボウ航海記』書評

本作を初めて読んだのは小学生の時だったが、今でもたまに読み返す。知的なユーモアと父譲りの詩的センス、少年的な海と外国への憧れという様々な要素が混ざり合った名作であると心から思う作品だ。

この名作エッセイから読み取れるのは、北杜夫の過度なまでにシャイな性格だ。高い教養と高い文章能力を持つ北氏はしかし、それをストレートに読者にぶつけることに対して非常に臆病であり、なるべく自分の文章が貴族的、衒学的に

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ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』書評

ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』書評

概要ストーリーは大きく二つに分けられる。ファンタージエンが虚無に飲まれてゆく中、アトレーユがその解決法を求める前半部。そしてアトレーユの冒険を読んだ現実世界に住む少年バスチアンがファンタージエンに飛び込み、世界を救ったあとで元の世界に戻ろうとする後半部。

初めて読んだのは子供の時で、読んでゆくうちに正体不明の不安を感じたのを覚えている。前半のアトレーユの冒険は読んでいて楽しい、よくある冒険譚であ

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谷崎潤一郎『春琴抄』書評

谷崎潤一郎『春琴抄』書評

正直なところ、谷崎潤一郎についてはあまり詳しくないし、この作品しか読んだことがない。ただ、初めて読んだときは文学ってすごいなあと小学生並みのな感動を覚えた。

春琴と佐助の関係性は一種のサド・マゾ関係にあるが、この作品、性については意外なほど描写が少ない。ただただ断続的なエピソードによる日常的な関係性にだけ描写の焦点が当てられている、それなのにエロティシズムを感じる。

本作のアマゾンレビューを見

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中島敦『文字禍』:感想と考えたこと

中島敦『文字禍』:感想と考えたこと

小学生の頃、原稿用紙にむかって漢字の書き取りをやっていると、文字が急に読めなくなるような、妙な気分になったことがあった。正式にはゲシュタルト崩壊というらしいが、文字に意味を与えるもの、つまり文字の霊というものはハッキリ見ようとすれば、たちまち姿を消して見えなくなってしまうらしい。この文字が持つ不思議な性質についての小説が、この「文字禍」である。

中島敦はいうまでもなく知識人である、父の影響で幼少

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