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祖父との思い出 中編

前編からの続き

私が小学生のころの一大イベントといえば、祖父の家で行うクリスマスパーティでした。

母方の親戚は、母が少し年の離れた三姉妹の末っ子だったこともあり、やや年の離れた従兄弟が多かったのですが、
父方の従兄弟たちは、私たち姉弟とも年が近く、そんな従兄弟との集まりは大変待ち遠しいイベントでした。

3つ上の従兄弟(兄)
2つ上の姉
1つ上の従兄弟(妹)

そして、5-6歳ほど離れた従兄弟(弟)。

クリスマスパーティでは、みんなでおいしい食事を食べます。
テーブルには、所狭しとお寿司屋や空揚げ、ジュースなどが並び、
祖母はホットプレートでお肉を焼いてくれました。

1時間もすると、親たちは会社の経営方針などについてあれこれと話が白熱してきます。
そんな頃合いを見計らって、子供たちだけで別室に移動。

こたつに入りながら、トランプや花札、人生ゲームなどに興じるのでした。
テーブルには大きなミカンがあり、制限されていたテレビ番組も見放題、普段なら「寝なさい!」といわれる時間を過ぎてもお咎めなしの至福の時間。

最後には親戚一同で百人一首大会が行われるのが恒例でした。

百人一首大会では、祖母が読み手をしてくれました。また、祖父の興が乗ったときなどは、一番多く取った人に賞金が出るといったこともありました。

走ればリレー選手に、絵を描けば特選に選ばれる姉と違い、これといった特技のない私でしたが、記憶力には少しだけ自信がありました。
この百人一首大会は、パッとしない私が活躍できる、数少ないチャンスでもあったのでした。

そんな待ち遠しいイベント。
私が小学4年生のその年、私と姉は父親たちの仕事終わりを待ちきれず、一足先に祖父の家に行ったのでした。
そこにはすでに従兄弟たちもいました。
1年ぶりの再会に最初は少しぎこちなさもあるものの、すぐに打ち解けていつものようにワイワイと近況の報告などをしていました。

そこに、ワイングラスを手にした祖父がやってきました。
日本酒党の祖父がワイングラスとは、何か似つかわしくないものを感じましたが。
すると、なにやら芝居がかった感じで、こけるようなしぐさをしました。
「ワインがぶちまけられてしまった・・・」と思いきや、そんなことにはならず。。

それは、祖父の旅行土産のトリックワイングラスと呼ばれるガラス細工でした。
ワイングラスのガラスの薄い空間に赤い液体が入っており、あたかもグラスにワインがなみなみとつがれているように見えるというものでした。

今から思えば子供だましなアイテムだと思いますが、その当時の私はいたく感動したものです。

そしてうれしいことに、それは私たち男子3人の孫たちへのプレゼントでした。

「これを使って、友達をびっくりさせてやろう。K君を家に呼んで、お菓子と一緒にこれを持っていって・・じいちゃんよりもっとうまくやって驚かしてやるんだ!」
私の妄想はすでに、冬休み明けのアフタースクールへと飛んでいました。

トリックワイングラスともう一つ(ラブリーサーボメーター)のガラス工芸の2つを、私を含めた男子3人はもらったのでした。

女子二人は、別のものを2つずつもらっていました。何をもらったのかは正確には思い出せませんが・・
ここでは、仮に星形とハート形のガラス細工ということにしておきます。(これが後ほどの大事件の引き金になるのです)

そうこうしているうちに、両親たちも仕事を終えてやってきて、クリスマスパーティが始まったのでした。

いつものように、大人たちは仕事の話に熱中し、子供たちは子供たちでワイワイと遊んでいたのですが・・・

「パリン!」

誰がか姉のハート形のガラス細工を割ったのでした。

「せっかくおじいちゃんからもらったのに・・」などと、母は姉に小言を言っていましたが、姉はしかたないね~という感じでした。
姉は細かいことはあまり気にしない、鷹揚な性格なのでした。

その場はそれですんだのですが、、

「パリン!!」

またひとつ、ガラス細工が割れたのでした。

今度は、従兄弟(妹)のハート形のガラス細工が割れたのでした。
今度の犯人は、はっきりしていました。姉でした。

姉は、おっちょこといというか、大雑把というか・・・
私は「やれやれ~」という気持ちでその状況を外部から見ているつもりでいたのですが・・

姉は、「割っちゃった~、ごめんね~、代わりにこれあげる。」
といって、従兄弟(妹)に星形のガラス細工を渡そうとしたのでした。

「星形のガラス細工はもう持っているし、弟(私のこと)のトリックワイングラスをちょうだい!」

まさかの飛び火でした。
「いやいや、何も悪いことをしていない僕がなんで・・」
内心では強い反発を持ったものの、口下手な私はもごもごと口ごもるばかり・・
それを見て、従兄弟(妹)も攻勢をかけてきます。
「トリックワイングラスを渡さないと許せないから!」

そんなとき、不穏な空気を察したのか、それとも単にトイレに行くついでに子供の様子を見に来たのか、私の父親がやってきたのでした。

私は内心、ホッとしました。
これでようやく、正しいさばきが下されて解放される。
なんせ、僕は何一つ悪いことをしていないのだから。」

しかし、父の裁きは意外なものでした。
「従兄弟(妹)に、トリックワイングラスを渡してやりなさい。」

「なんで?」
一番の味方になってくれるはずの父が、悪のラスボスになってしまったのです。

今から思うと、父の思いも少しは分かる気がします。
「自分の大事なものでも差し出せるような、器の大きい男になってほしい」あるいは、
「男なんだから我慢しろ(これは幼少期より常に言われ続けていた言葉でした)」
ひょっとしたら
「めんどくさいな~。おもちゃぐらいくれてやれ!」

しかし当時の私にはそんなことは分かりません。分かりたくもありません。
「僕は悪くないのに、なんで・・・。トリックワイングラスはK君をびっくりさせるために絶対に譲れないアイテムなんだ!

父の指示に従わず、部屋の隅でグズグズとしている私を見て、父も徐々にヒートアップしていきます。
酔いも手伝っていたのでしょう。
あるいは、経営方針の食い違いで祖父や叔父と揉めていたのかもしれません・・・
そのうち、私は泣き出してしまったのでした。

「男のくせに、めそめそしやがって!!!」
そんな女々しい私を見て、ますますヒートアップする父なのでした。
普段から、何か困りごとがあるとメソメソと泣き、母にすがる私を不甲斐なく思っていたことも、怒りに拍車をかけたのだと思います。

その後、どんな解決がなされたのか・・・

今となっては、全く思い出せずにいます。
ただ一つ覚えているのは、
「おまえは、何も悪くないのだから。」
といって、私にトリックワイングラスとラブリーサーボメーターの2つのガラス細工を渡してくれた祖父の手だけでした。

その年は、恒例の百人一首大会はないまに散会となりました。

後編へ続く


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