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それでも私は深呼吸する/短編エッセイ


息をとめたくなるような毎日
川のほとりでコーヒーを片手に私は座っていた


流行り病の後遺症によって
嗅覚のおかしくなっていた私は
座っている時間が長くなっていた。

たくさん動くと呼吸をしないといけないから
今は息をするのが億劫、
それくらい嗅覚の状態にまいっていた。

一口またコーヒーを飲んだ。
苦さが口に広がる。
だけど香りはうまく届いてはくれなかった。


そのとき優しい風がふいて頬を撫でた。
その瞬間緑の匂いを感じられた気がした。

でも、気がしただけであって、
確かめようとは思えなかった。
だって異臭を嗅ぐことになるから。


そんな中、思い出したのは、ある話。
何となく参加したヨガレッスンで聞いた言葉。


良い話だなくらいにしか思わなかったものを
なぜ今思い出したのかはわからない。

けれど静かに瞼を落とし、
あの日の話を脳内に流した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

健康的という言葉の似合うその人は、
飾らない雰囲気と弾ける笑顔で話し出した。



質問です!
皆さんは呼吸をしていますか?
、、、、なーんてね、
皆さんしているから此処にいますよね。

知っていますか?
呼吸は生きる事そのものなんです。
呼吸しないと生きていけないですしね。

そんな大事なものだからこそ
呼吸を大事にすることは、
自身の生を大事にしていることに繋がります。

今日らそんな呼吸の話を
最初に少ししようと思いますね。


何を当たり前のことを~!とか思いましたか?
そうなんです。
当たり前のことなんです。

ではもうひとつ質問です。
そんな呼吸を大事に皆さんは行えていますか?

聞き方をかえるとするならば、
そもそも今、呼吸しているな~と
感じるような時間を
とった記憶は最近ありますか?


その顔は、してないなって顔ですね。(笑)
わかります。
私も以前はやっていなかったので。

だから今話しています。
伝えるために私は此処にいます。


私の思う丁寧な呼吸を簡単に話しますね。


今ある息を一度全て吐き切ります。
優しく丁寧に。

限界まで息を吐くと自然と息が止まります。
そこまできたら
今度は吸いたいと思うところまで息を吸います

またこれ以上吸いたくないなと、
限界まできたら息を吐いてみましょう。

そうやって呼吸を繰り返していくと、
自分の呼吸の長さがみえてきます。

耳を済ませれば
自分の鼓動の音も聞こえてきませんか?

更には少し心が落ち着いてくる人も
いるのでは?


変化は人それぞれですが、
呼吸を感じようとする前のあなたとは
異なる自分がそこにはいるはずです。

呼吸を丁寧にするとは、
自身の呼吸を、
自身を見つめる時間になるんです。


もう一度言います。
呼吸を繰り返すことは
「生きる」ことそのものです。


息をする。
生きるをする。


あなたがあなた自身の「生」を
大切にする時間をとってくださいね。
その方法として呼吸つかってみてください


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一言一句こぼさないように丁寧に思い出した後
閉じていた瞼を起こし、「今」に戻った。

でも瞼を開けたはずなのに
視界は少しにじんでいた。


笑顔でありながら
一切茶化す事なく話したあの人の眼を
強く思い出した、


呼吸をすることは生きることそのものか。

もともと感じとれていた香りが
消えたあの日から
私は呼吸をしようとしていなかった気がする。

「なんで私が、、」

その気持ちに苛まれて、
ただただ悲観した日々を
過ごしていたように思う。


この話を思い出したからといって
前向きになれるようなそんな人間ではない。

だから呼吸をするたびに、
異臭を感じるたびに、
私は生きることが少し億劫になるかもしれない。


でも、「今」の自分を少しでも
大事にすることに繋がるなら
少し呼吸をしてみてもいいかもしれない。


だってまだ生きたいと思う気持ちも
消えないのだから。



私はその場で数回深呼吸をしてみた。
まだ治らない嗅覚を目の当たりにしたけれど、
同時に「今」の自分にあるものを感じた。

優しい陽の光もみえる。
優しい風も肌で感じる。
優しい音も聞こえる。


もう一度深呼吸をしてから、
残っていたコーヒーを飲み干して
私は立ち上がった。

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今ある息を全て吐き切る。

吸う息優しい空気で全身を満たし

吐く息たまっていた感情を吐き出す

次の吸う息自分の心をみつめ

次の吐く息「今」あなたに残っている物を知る。


呼吸は生きる事そのものだ。
あなたは今、
どんな呼吸をしていますか?

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