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あれは、きみの独立宣言/短編小説

am:8:00

起きることが染みついた体内時計は休日であろうと
休ませてはくれない。
正確なメトロノームのように、脳が覚醒し今日が始まった事を告げる。

いつものルーティンを流れ作業のように行い、
最後に沸かしたお湯でコーヒーを淹れたら、それを片手に窓を開け飲む。
どこぞのインスタグラマーだよなんて思いつつ
ゆっくりと空を見つめるまでがいつも通りだった。

風がふき花瓶の花がゆれる。
心臓が窮屈そうにうずいた。


もともとはこんな生活をしていた訳じゃない。

半年前までは昼過ぎまで寝てるか、
朝日が昇るまで飲み続けてから帰るような人間だったし、
ついでにワンナイトを繰り返すようなとんでもない奴。
それが今までの自分。


でもあの日、君にあってから変わった。
これっぽっちも信じていなかった運命を信じたくなるくらいに
僕は彼女に惹かれ、そして今でも僕は彼女に・・・。

また風がふいた。
白い花が哀しそうに揺れている。


彼女はよく笑う人で自然好き。
夜よりは朝タイプで、決まったルーティンをこなすまで座らない。
全部終えるとコーヒーを淹れて本を読む、そんな人。

本に詳しくない自分はかまってほしくて、
ちょっかい出したっけな。
その度に一瞬だけこっちをみて微笑んだかと思ったら
何食わぬ顔でまた本を読みだす。

でも読み終えた後に「どんな世界だったの?」と聞けば、
無邪気に話し出す彼女が眩しくて仕方なかった。


側にいるだけで満たされる。
そんな風に思える相手と一緒にいたいから。

だから彼女にふさわしい人になりたいと
彼女に好きになってもらえる人になりたいと、
僕は自分自身の行動を変えていった。


だから同時に関係を変えたいと思った。
恋人でも友達でもない都合のいい相手のままではなく、
明日も側にいれるように繋がりがほしくて。

だからあの日、
君の好きな自然あふれる場所で
気持ちを伝えるつもりだった。


でもそれは自分の独りよがりでおわる。
桜吹雪の綺麗な景色の中で君は言ったんだ。

「私みたいな人間に大事な時間を使っちゃだめだよ。
 どうか幸せになってね」と・・・

風がふき桜の花びらが舞いがった。
花が散るように
名前のない関係が一つ終わった。


それから連絡はつかなくなった。
共有の知り合いがいるわけではないから、
今どうしているのかなんて分からない。

でも、そんな簡単に切り替えられるわけのない自分は
数か月たった今も女々しいほどにひきづっている。
その一つがこの行動で、もう一つは花瓶の白い花。

凛と咲きながらも可愛らしいその姿は、
あの日涙を溜めながら笑った彼女によく似ていた。


風が吹きチューリップがゆれた。
白いチューリップの花言葉は 「失恋」

叶わない恋を僕は続けている。





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