エンジェルス

プロ野球は世界に誇る観光資源

国境を超えるスポーツ
このゴールデンウィークにイチロー対大谷の対決を楽しみに、わざわざシアトルまで出かけた日本人旅行者が多いと聞く。残念ながら、イチローが試合に出場することができなくなり、夢となってしまったが、もし実現したら野球ファンの僕もテレビにかじりついたのは間違いない。
今やスポーツは、世界中のファンが国を超えて注目するコンテンツだ。アメリカメジャーリーグは、アメリカ国内市場だけでなく、世界中から選手を集め、世界中のファンに届けるエンタテインメントとして成立している。

日米の野球観戦違い
25年前の学生時代にメジャーリーグを観戦に約10カ所のボールパークを巡った経験がある。当時は日本人選手は誰もおらず、一野球ファンの僕は、世界の野球、特に発祥地のアメリカのベースボールを見てみたいという関心からだった。あの時の写真をちゃんと遺しておくべきだったと反省しているが、自分の記憶にはまだその時の映像が鮮明に残っている。最大のハイライトは、ノーラン・ライアンとケン・グリフィJrの対決だ。野球ファンなら知らない人はいないトップスターだ。しかも僕が観戦したのは、ライアンの引退試合だった。シアトルマリナーズの当時の本拠地キングドームは、新旧スターの対決に酔いしれていた。一球投げるごとに、スタジアム全体が満天の星のようにフラッシュが輝く光景は、未だに忘れない。

メジャーリーグの観戦の仕方は、日本のプロ野球と全く異なる。日本のような音楽に合わせて声を出したり踊ったりする応援は存在せずに、みな思い思いに「静か」に観戦するサイレントゲームだ。サイレントというとアメリカ人は違和感を持つかもしれないが、それが日本のプロ野球を知る僕の第一印象だ。野球そのものをしっかり観るアメリカベースボールに対して、日本のプロ野球は応援を含めて楽しむライブイベントだ。同じ野球でも国が変わるとこうも違うものかと思ったものだ。

しかし、アメリカ流そのままを真似しただけでなく、仙台の楽天スタジアムの「居酒屋コーナー」や広島のマツダスタジアムの「寝そべりシート」のような新たな観戦スタイルが生まれたり、応援スタイルも身体を動かすサッカーの応援スタイルと取り入れたりと、日本独自の進化をとげたのが日本のプロ野球だ。

プロ野球は日本独自の観光資源
昨年、仕事帰りに久しぶりに神宮球場でプロ野球観戦をした。たまたま隣の席には、小学生くらいの子供ふたりを連れた4人家族のイギリス人がいた。訊くと、友人に勧められて初観戦のその家族は、日本のプロ野球の独特な応援合戦、時折打ち上げられる花火や合間に繰り広げられるマスコットたちのダンスパフォーマンスを見て、「お祭りみたいで楽しい」と興奮していた。サイレントな観戦に慣れている本場のアメリカ人からは、試合に集中できないと揶揄されることが多い日本のプロ野球も、初めてライブのプロ野球を見るイギリス人にとっては、「新しい日本」として新鮮に映ったようだ。野球のルールのわからない彼らにひとつひとつ教えながら、一方で彼からはイギリス発祥の「クリケット」とのルールの違いなどを教えてもらいながら「プロ野球国際交流観戦」を楽しんだ。

さて、近年日本のプロ野球の変化のひとつは、テレビ放映がキー局では全くなくなったことだ。最大の人気球団のジャイアンツでさえ、ほとんど見かけない。スポーツ専門・BSなどの専門チャンネルに「格下げ」された。しかし、放映によってリーチする視聴者は少なくなっても、観戦者は増加している。つまり、プロ野球は、多くの視聴率を稼ぐテレビコンテンツから、ひとつのライブエンタテイメントのひとつへと変化しているといってよい。日米両方を知る僕からすれば、同じ野球でも日本のプロ野球は、アメリカのベースボールとはその観戦の仕方が全く異なり、日本独自の道を歩んでいるように思う。プロ野球は、まさに日本のオリジナルコンテンツだと言ってよい。その意味では、立派な日本の観光資源だ。偶然出会ったイギリス人が言っていたように、野球を知らない人にとっては、なかなか面白い日本独自の「お祭り」なのだ。しかも、ゲームは予定調和ではなく筋書きのないドラマだ。

メジャーリーグで活躍するイチローや大谷を私たちが追いかけるように、もしアジアの優秀な選手がプロ野球で活躍する環境が生まれれば、日本のプロ野球はアジアの人々が夢中になる「アジアのプロ野球」へと変貌する可能性がある。テレビでは、小さなコンテンツになり果てたプロ野球も、世界に目を向ければまだまだ成長できる。日本は人口減少しているが、アジアはまだまだ人口も増え、経済も成長する。またインバウンド振興の課題として、ナイトエコノミー(夜の経済)の活性化があげられている。ぜひ多くの訪日外国人観光客に、日本の野球場に訪れてもらうべく、観光資源としてプロ野球を取り上げてみてはどうだろうか。
(以上)

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