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Sambor Villageと書いて、ともに生きる場所と読む

こんにちは。
今日もカンボジアのおへそからSambor Villageホテルです。
前の記事で一握の砂の話をした紳士が去った朝のこと。大事なことを思い出した9月の記録。

※2023年9月末、ホテルは洪水でした。

門の外から今日も土嚢(どのう)祭りの声が聞こえる。詰めるのは女性陣、リヤカーで運んで積むのは男たち。総出で、ひたすら肉体労働なここ数日。

でも、そういえば誰も文句言わないんだよな。
今も誰かが、前を通る知り合いに「暑いから飲み物買ってきて〜!寄付よ寄付ー!」とか叫び、皆で笑っている。
通りすがりのバイクのおっちゃんも笑っている。

洪水中の、お客さんのいない職場に、毎日みんな出勤して、それぞれ役割とやることを見つけて輪の中にいる。ふざけるのはデフォルト。でも本気で逃げたりはしない。

ところで、カンボジアの観光は…

“観光は水もの“と言われるけれど、カンボジア全体の観光も、目の前のセン川のごとく極端に推移する。
例年10月後半から3月まで、カンボジアを訪れるお客様は増え、それ以外はグッと下がる。だから、いかに半年で稼ぎ抜け、残る半年を耐えるか、というのが既存のカンボジアの旅行業の定石。
観光水位が下がる上期を耐えに耐えたあとの9月は、毎年キャッシュが1番キツい。

そこにきて、過去10年でも例のない2年連続の浸水。

去年は天災。今年は天の災よりも、どうやら人の営みに翻弄されたが浸水ではあるが、いずれにせよ補償などはないから、やることは全て自前・自腹である。

給料日が迫るなか、敷地の裏側から水も迫る。今欲しいのはそっちじゃないのよ、ベイベー。

町の排水機能が麻痺して、道路がウユニ塩湖と化す

実は、水が来る前から…


2023年、世界は“COVID後“に移行し、人の行き来も可能になった。
一方、各地で起こるインフレ、通貨や気候の変動、国家間の争い、不穏な空気。
カンボジアの外から観光で訪れる人たちは微増に留まり、カンボジア国内の人たちはこの数年の我慢を解放するように国の外に向かう。

今月、ちゃんと給料払えるんだろうか。
次の半期、いけるんだろうか。
実は、不安でした。

こういうとき、一度深い穴に照準を合わせてしまうと、思考はどこまでも落ちる。

加えて、水に浸かりすぎると足元が冷え、体幹が冷えて、思考も冷える。鳩尾が重く、背中が痛い。

なんで、こんなにキツいんだっけ。
もっと苦しくない経営ができるんじゃないか。
経営がわかっている人に預けた方が、結果的にみんな幸せなんじゃなかろうか。

思考の穴の底に落ちてしまいたくなった、そのとき…

全く別件で話をしていた知人から「今でも、思い出すよ。Sambor Villageで過ごした数日間のことを。なんかずっと、温かだったんだよ」というメッセージとその時の動画が届いた。
動画の中には、生きる元気にあふれる世界。

同時に門の外の土嚢組からなにやら歓声が。その声に押されるように、男性陣が少年の顔で笑いながら土嚢満タンのリヤカーで下り傾斜の道を走ってくる。勢いがつきすぎて、前の1人がマリオみたいにひゃっほーいと浮いている。

急に我に返った。

ここはたくさんの人の人生をいっとき預かる器なんだった。

お客様も、一緒に働くメンバーも、人生の時間の一部をここに載せてくれる。
その人生の重なりがその時だけの無二の物語として、それぞれの人に記憶として還っていく。
それが、ホテルという仕事の真髄。

異なる人たちがほんのわずかな間、ともに生きる場所。それがSambor Villageって、自分でずっと言ってたじゃん。


怖くて、不安で、握りこんで、手に残るものが少ないことがさらに怖くて、見ないまま全部投げてしまおうとしてた。

砂袋を積む男子たちの方から掛け声が聞こえる。きっともうすぐリアカーを押して戻ってくる。門の外も笑っている、どうやら冗談じゃなく、本当に飲み物の差し入れが届いたらしい。

そうだった。ここで生まれる物語は、誰よりも私にとってものすごく大切なものなんだった。

そして、涙腺は崩壊した。


あぶねぇ・・

みんなが預けてくれてる生きる時間を、勝手に手放そうとした。
どうしていいかわからない、その恐れに任せて大事なものを投げ出してしまうところだった。

ここは皆の生きるの場であり、私の生きる場所でもあるんだった。

落ちかかった深い穴への戦慄と、みんなへのごめんねと、大事なことを思い出した温かさで、泣けた。あちこちから声が聞こえる高床の2階でひとり、涙がぼろぼろ落ちる。

そのとき昼の賄いを担当するメンバーが、キッチンからひょっと顔を出した。こちらをチラリと見て、なにも触れずにすぐ戻る。こういうとき、声をかけないあいつ、いいやつだな。
こんなところみんなに見せられないよ。

と思って引き続きボロボロしていたら、階下からスタッフたちがぞろぞろ上がってきた。ボロ泣きの状態で、ぐるっと囲まれる。

「なにがあったの?ボスがすごい泣いてるってティムが呼びにきたんだよ。日本の家族になにかあった?」
リーダーが聞く。賄いのティムも後ろにいる。

「いや、なんでもないよ。心配ない、家族は大丈夫」

「何?言ってよ、どうみても大丈夫じゃないでしょう?家族じゃないなら、お金?」

違うんだ。違うんだよ。
説明しようとしても、英語もクメール語も全然出てこない。

「ムンメーンテー」

違うんだよ、そうじゃないんだよと繰り返しながら、みんなの視線に囲まれて、子どもみたいに声を上げて泣いた。涙と一緒に、それまで抑えていた全部が溢れた。

大事な瞬間をともにする

この前、冗談で給料日の前に逃げちゃうかもしれないよ〜って言って、みんなで笑ったくだりあったでしょ?あれ、10%くらい本音だった。
この状況から逃げ出したいと思ったんだ。誰か他の人の方がやる方がSambor Villageにとっていいんじゃない?とか考えてた。
本当は、全部を抱えるのがきつくて、逃げたかったんだ。

でも、今は違う。逃げたくて泣いてるんじゃない。この場所がどれだけ大切かを、思い出したんだ。

お客さんがここに滞在する時間は数日だけど、記憶はきっと残る。
働くメンバーたちはほぼ毎日をここで過ごす。
そして、私もここで人が生きるということを学ばせてもらっている。

それがどれだけ大事なのかが、わかったら、有り難くて泣けてきた。
逃げようとしてごめんなさい。
人生の一部をここに預けてくれて、ありがとう。誰より私にとって、ここはやっぱり大事なんだよ。


下手くそクメール語とつぎはぎの英語を織り交ぜて、鼻を啜りながら絞り出す。
リーダーが言葉の隙間を汲みながら、クメール語にしてくれる。そのひとことずつが、耳から沁みてくる。

だから、これからもよろしくお願いしますってことだよと、照れ隠しでおちゃらけて締める。
今まであまりこういう話をしたことがないメンバーも新人くんも、今日は同じ場にいた。

まだ鼻をズビズビいわせているこちらの周りでも、ズビズビいう音が聞こえたり、そっと背中をさすってくれたり。
こういうとき、この土地の人たちの共感力の高
さが際立つよなぁ。

よっしゃ!
もう大丈夫!泣いてないよ!
がんばるって決めたら、元気出てきた!!

なんとなくそれぞれと目が合って、声に出さずに「大丈夫だよ、ありがとう」と笑ってみせて、全員で作業に向かう。

土嚢チームに参戦したら、
「あ、ボス、これ!さっき届いた差し入れ!」といってビールがひと缶差し出される。

ビールかよ!仕事中だぞ!

と一瞬よぎったけど、もう今日はいいさ!

ビール飲みながら、土を詰める。
(めっちゃ重い)

すぐに誰かが歌い、誰かが踊る。

ビールの時の写真はさすがにない。この時はおやつ

全部を美談にする気はない。
できる準備はあったはずだし、もっと実力と収益のバランスも考えるべき。

でも。でも。
泥臭いし、幼稚かもしれないけど、
一緒に生きているんだっていうことが、実は大切だったりするんじゃないだろうか。

大事なものを、大事にするのが、意外に近道だったりするんじゃないだろうか。

洪水後の復旧とは思えない、笑いが絶えない人たち

去年、洪水に教わった。
今年も洪水に教わった。

ありがとう、洪水。でももう、大丈夫だよ。
この2回で教わったことは、忘れない。
そして、これからはそれを、みんなで大事にできそうです。

※このあと、奇想天外な方法で浸水はあっという間に引いていき、稼ぎ抜ける半年が、怒涛の如くに始まっていくのでした。

奇想天外な方法については、天外すぎてここには書けません。
ホテルに来てくださった方には、ご希望とあらば当時のリアルな再現とともにこっそりお伝えします。

2023.11.26





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