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大人になって、 音に敏感になった

音に敏感になったなあと、大人になってから思うようになった。大学時代に住んでいた家は繁華街の近くにあるワンルームマンションで、いま思えばしょっちゅう不穏な音が聞こえていた。怒鳴り声も金きり声も、嬌声から奇声までいろいろな声が、時おり聞こえるクラクションにまじって部屋に流れてきた。けどひとつも気にならなかった。なんでだろう。

いつも曲ばかり聴いていたから? そんな音楽好きではない。テレビを付けっぱなしにしていたから? いやいやスピーカーから流れてくる音と外から入ってくる音の差くらいわかる。結局のところ、社会をどれくらい身近に感じていたかの違いじゃないかと思う。

関係ないことが、関係してくる

学生時代に気になっていたことは、単位と彼女と、遊ぶお金と将来の夢くらいだった。どれも自分にまつわることだ。いま気になっていることは、会社や仕事、国や街、そして家族との将来の過ごし方だ。どれも自分以外のひとにまつわっている。どうでもよかったことがどうでもよくなくなり、自分とは関係がないと思っていたことと関係してくる。良きにつけ悪しきにつけ。

そうすると、音に敏感になった。夕方、遠くから聞こえてくる嬌声が自分の家族と重なる。深夜、響きわたる怒鳴り声で地域の治安を案じる。お前なんかが気にしてもしょうがないよということは分かりつつ、どうしても耳が、頭が反応してしまう。

結局、一番の理由は

度胸がなくなったのだろうか。いや、自分という存在が拡張したのだと思いたい。父母までしか届かなかったボールが、他者や集団にまで届くようになったのだ、たぶん。

でも一番の理由は、賑やかな場所に住むことが好きなこの性格にあるのだろうということは、なんとなく分かっている。

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