見出し画像

アダム・グラント著『GIVE&TAKE』は単純に与える人が成功する話ではない②テイカーとマッチャー、最後にギバーを知る

①では、単純にGIVE&TAKEの本が単純に与える人が最後は成功するというだけの話ではないと述べてきた。しかもアダム・グラントは「世の中のほとんどがマッチャーだ」と言っているにも関わらず、なぜか自分をギバーだと勘違いしている人が異常多いということにも触れてきた。ここでは、そもそもテイカー・マッチャー・ギバーの定義を自分なりに解釈してみたいと思う。

テイカーとは!?

テイカーの特徴を私が知る限りで述べたいと思う。これはあくまで私の考えなのでご理解いただきたい。

①器用でコミュニケーション能力が高い、敵をあまり作らない

②クラスの中でも、企業においても、ナンバーツー(参謀)が多い。起業していてもコンサルや顧問契約で売り上げを立てていることが多い。

③多くの場合性格も悪くなく、豊富な人脈がある

こんな感じなので、なかなかテイカーを見抜くのには苦労するのだ。しかし、①で述べたように経営者はきちんと見抜かないと、テイカーの部下になってしまったギバーは、振り回されて、仕事を必要以上に溜め込みすぎて、摩耗して破裂してしまう。しかもそうなって失敗した結果を、テイカーはうまく下層のギバーの責任にし、下層のギバーは自ら責任を感じて会社を去っていくことが多いので、経営者にとっても会社にとっても、致命的な傷しか残さない。

アダム・グラントも再三述べているように、テイカーを採用することは企業にとってデメリットでしかない。さらに、アダム・グラントは、それを気づいていない会社ほど、経営が上手くいっていないという物理的な証拠まで出している。

テイカーの仕事のスタンスは、気持ちよく人を動かしながら、予算や納期、必要以上の労働を部下や同僚、発注先・提携先に求め、そこで得られた良い結果だけを自分の手柄にしていく。

話し方ひとつをとっても、論理的な話の進め方でポイントを抑え、全体をさもみている感じを醸し出す。だから、多くの経営者は、最初の頃はテイカーを優秀な人間だと思い、重宝する。しかし実際は、細かい部分が抜け漏れていて、アンダーコントロールできているとテイカー本人が思っているところは実際上手くいっておらず、小手先仕事が仇となって徐々に綻びが表層化していく。まず、一緒に仕事をしているマッチャーは、テイカーに尽くしてもさほど見返りは得られないと早々に判断し、テイカーが多くの期待をしても予算や納期を言い訳にし、それ相応の対応で終わらせる。このマッチャーの人口が多いことが、テイカーが短期的に結果が残せても、長期的に結果が出しづらい原因でもある。

一方で少なからず存在する下層のギバーは、テイカーの要望に、予算や納期度外しで必死に応えようとし、無理が祟ってあちこちに不備が発生して、自分を責めることになる。下層のギバーは、マッチャーほど多くないが、大体プロジェクトに一人ぐらいは存在していると考えている。特に、下層のギバーは、クリエイター、開発エンジニアに多いと私は考える。クリエイター、特にまだ売れていないクリエイターは、誰に頼まれたわけでもないのに、漫画やアニメ、絵、小説を書き、投稿し、出版し、誰かのためになりたいと考える。今は、あらゆるところで無名のクリエイターがブレイクするチャンスがあるので、本気で考え、練られた作品なら出版社を通さずとも世の中の人々を感動させることができる時代なのだ。

開発エンジニアも然り。LINEの誕生秘話を思い起こすとわかりやすい。LINEはそもそも、フェイスブック全盛期にも関わらず、東日本大震災を機に、日本で考案され開発され広まった。エンジニア達を含めた初期のメンバー達が、震災で家族と連絡が取れなくなっている人達を憂慮し、知っている人と確実に連絡を取るツール、ということで既読がついたメッセンジャーアプリを即座に開発してあっという間に広まった。誰も頼んでないのに、誰かのためになりたいと必死に作ったものが世界的にブレイクしている事例はここだけにとどまらない。

しかし、クリエイターやエンジニアは、ビジネス、損得をしっかり考えて進めることが苦手な人も多いため、そこに付け込んで、テイカーは上手に入ってくる。それでもよほど上手なディレクションをしない限りはアンダーコントロールできない場合が多い。なぜなら、完全にギバーをアンダーコントロールするには、かなりの人格と思慮深さが必要であるため、テイカーがそこをクリアできることは滅多にないからだ。多くのテイカーの場合、自分の不備は棚に上げて、下層のギバーのミスを指摘し、結局良いアウトプットにつながらない。

このタイミングで多くの経営者や企業の上司は、テイカーにアウトプットの責任を負わせようとするが、多くの場合テイカーは、仲間の責任にする。その犠牲になるのは大抵の場合、下層のギバーであることが多い。多くの泥をかぶりながら、なぜ努力が結果に結びつかないのか、下層のギバーは理解していないことが多い。結局失敗したことを次に生かすこともできず終わる。ここで下層のギバーは、テイカーやマッチャーに出会ったら、自分もギバーを捨ててマッチャーとして相応の振る舞いをする、という術を覚えないと誰の役にも立たない、むしろ迷惑をかける存在にしかならない事実を学習しなければならないのだ。

一方で経営者は、こういう事態に出会った時に、口先の上手いテイカーの言うことを鵜呑みにせず、目の前に起こったことは全て経営者である自分の責任だと認識し、しっかり分析、検証しなければならない。

開発がうまくいかない、営業がうまくいかない、いいものが作れない

この原因を業者・同僚・部下の責任にする経営者ほど陳腐なものはない。

しかしこれは本当に現実世界では頻繁に起こっていて、誰かの責任にする経営者ほど恥ずかしいものはないという認識はまだ日本のベンチャー界隈ではさほど広まってない気がする。むしろ、開発業者を変えようとか、チームを変更しようとか、足手まといの下層のギバーを排除しようとか、色々なことを行うわけだけれども、全ての原因にテイカーを見抜けず組織を崩壊させた経営者、自分に責任があることをわかっていない人が多い。

マッチャーとは!?

そんな経営者の杞憂をよそに、マッチャーは常に蔓延る。特に若い人に多いと私は感じる。今の若い人、Z世代は、情報量が豊富で器用で、動く前にまずググって上手に立居振る舞いをする。テイカーは多くないが、絶対に損をしたくない、マッチャーが圧倒的に多い世代の気がする。彼らの良さは、マッチャーという大枠の中にも、ギバー寄りのマッチャーテイカー寄りのマッチャー、と働く相手、経営者、上司、同僚によって変化させることができるのである。だからこそ、テイカーを排除しギバーを入れることで、マッチャーであってもギバー寄りのマッチャーの仕事をしてもらえるのである。経営者にとって、テイカーはすぐに見抜けるようになっても、問題はマッチャーで、見抜いたところで、人口が多すぎて必ず出くわす、もしくは仲間に必ずいるので、どう対応していいか常に考えなければならない。

どう対応すればいいか?失敗から学んだこと。

上記、テイカー・マッチャーと仕事をすると、私たちのような広告代理店、特に制作、開発に関しては、極めて顕著にプロジェクトに反映されてくる。テイカーと仕事をすると、本当に要望がどんどん高くなっていくにも関わらず、予算は絶対に増やしてくれない。その上、自分達に不都合なことがあると平気で裏切る。そして、私が知る限り、テイカーは大体の場合、社会的な制裁も過去に受けている人が多い。例えばある人は、会社の粉飾決算に関与して新聞に載っていたし、ある人は、VCや投資家に会社を追われ経営権を剥奪されていた。どちらも一部上場企業だ。過去に何かあったからといって私は差別したり、色眼鏡で見たりしないが、それでもテイカーであることをが徐々に見えてくると、過去にあった事実には納得してしまう。それがテイカーの特徴でもあると言える。

①器用でコミュニケーション能力が高い、敵をあまり作らない
②クラスの中でも、企業においても、ナンバーツー(参謀)が多い。起業していてもコンサルや顧問契約で売り上げを立てていることが多い。
③多くの場合性格も悪くなく、豊富な人脈がある

それぞれ、人としてはいい人だし人脈もある、前述の条件を全て満たすのだが、損得を常に考え動いた結果、社長になっても、要職についても、社会に役に立つ最後の部分で失敗している印象が強い。そしていずれも皆自分がテイカーだということにはおよそ気づかずに生活をしている。

テイカーと一緒に仕事をすると最悪な事態にしかならない

まず、納期がやたら伸びる。制作や開発はリテナーと異なり、毎月必ず料金が発生するというよりは、要件定義や内容に応じたプロジェクト単位で報酬をもらう。従って、短期間で完了して納品した方が、作り手側からすると絶対にいいのだが、戻しがやたら伸びると、三ヶ月、半年、場合によっては1年以上かかったりする。その間、他の案件もどんどん入ってくるので、戻しが来たタイミングで必ずすぐに動けるわけではない。そうなるとさらにスケジュールは伸びていく。こちらとしては、戻しをお願いしたスケジュール通りのタイミングで進めたいが、テイカーはほとんどの場合、スケジュールや相手の状況を無視して進める。

さらに、要望も日に日に高くなる。多くのギバーの場合、恩を売るという行為が下手くそで、うちの会社の開発エンジニアやクリエイター、デザイナーもそのタイプが多い。そこを私がディレクションするのだが、最初の段階でしないでいると、テイカーにとっては次第にやってもらえることが当たり前になって、最終的には要望全て叶えないとむしろこちらに非があるかのような形になっていく。

ここで経営者としては二択が出てくる。

クライアントをとるか、クリエイター・開発者をとるか

私の場合は、長年の経験から絶対にクリエイター・開発者をとることにしている。というか散々失敗しすぎて、ギバーであるクリエイターを大事にし、テイカーであるクライアントを排除していくことが、いかに経営として大事かを思い知っているからだ。

おかげで、クリエイター・開発者は創業4年以上経っているが、誰一人離れていったものはなく、テイカーではない良質なクライアントも、紆余曲折ありながら長く重宝してもらっている。大手企業も含めた数多くのクライアントに私は本当に感謝しているし、同時にクリエイター・開発者にはもっと感謝している。

テイカーであるクライアントは残念ながら縁を切ったり、訴訟にしたり(本当に悪質なものもある。もちろん勝った。)二度と関わらないようにしている。日本はテイカーに下層のギバーがとにかく犠牲になる構図ができているが、米国の案件ではクリエイター・開発者はクライアントと同等で、違うベクトルの厳しさ(開発要件の高さ、デザインのレベルの高さ)に晒されるため、学ぶことも本当に多いのだ。

テイカーは

①最初に見抜く努力をする
②距離を置く
③必要以上に敵対しない

で対応していくことを学んだが、問題はなんといってもマッチャーである。これ本当にどこでもここでもいる。そしてテイカー以上に見抜けない上に、見抜いたところで人口が多すぎて省けないのである。ここはある意味諦めて、ある方法を見出してきた。

それは、最初にとにかく下手に出るということ

③に続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?